第六話 見つけたけれど……

 やべぇもん見つけたと、アリエスはクラウスに暇を告げて研究所の方へと戻ってきた。

まだ帰ってきていないロッシュを呼ぶためにアリエスは、頭にヘアバンドのようにして乗っかっているヤエちゃんに彼を呼んでくれるように頼んだ。


 ロッシュは、胸ポケットに入っているヤエちゃんにあむあむされたことでアリエスに呼ばれているのだと察し、そばにいたウェルリアムに頼んで帰ってきたのだが、彼女に呼ばれた理由を知って固まってしまった。


 「……アリエスアリー様。ジオレリア王国は林業が主なのをご存知でしょうか?」

「ん?ああ、そういえばゾラが林業組合にいたな。木材をジオレリア王国から輸入してんだっけ?」

「左様でございます。万年樹は種を一つ残す以外に増えることはありません。しかし、それ以外に増やす方法が一つだけ存在するのでございます」

「え?そうなの?あっ!お買い物アプリで増やせるぞ?どっかの商人に売って、それを私が買えばアホほど増やせるな!」

「それでも増やすことは可能だとは思われますが、その種を増やす方法というのが、守護神様から賜わる、というものなのでございます」

「あ、アカンやつだ。これ、お買い物アプリで増やしたら怒られるやつだよな?」

「その可能性はございますね」


 万年樹の種は、新たに貴族家をおこした者に国王から与えられるのだが、それは、ジオレリア王国の守護神が認めなければ与えられることはない。

どれだけ国王が認めて爵位を授けようとも守護神が認めなければ、万年樹の種は与えられない。それほどまでに希少なものなのだ。


 そんな希少な種の説明には「マンダリーノ伯爵家に受け継がれる」とあった。

つまり、持ち主がちゃんとある種なのだ。


 困った顔をしたアリエスは、「どうしよう?」と首を傾げた。


 「クラウス殿は、お心当たりはないということでございましたね?」

「うん。ばあちゃんが持ってたもので、年末年始にしか使わない大事なホウキとチリトリだったんだってさ。しかも両親は早くに亡くなってるって話だし。あ、ビックリして途中で鑑定を止めたから、もうちょっとじっくり見れば何か詳しいことが分かるかな?」


 じーーーっとアリエスが種を見つめる横でロッシュは、彼女の邪魔にならないようにウェルリアムと話しており、場合によっては国王に相談の上ジオレリア王国の王家へ話をしに行かなければならない可能性や、それがなくともジオレリア王国のマンダリーノ伯爵家へは行くことになるだろうと、予定の確認をした。


 「はふぅ。まあ、マンダリーノ伯爵家へ返すのは決まりだな」

「盗難にあった可能性などはございましたか?」

「うんにゃ。可愛い可愛い溺愛していた娘に持たせちゃった阿呆でーす」

「なんという……。わからないではありませんが」

「いや、わかっちゃダメだろ。1個しかないんだぞ?」


 とある時代のマンダリーノ伯爵家の娘が嫁ぐ際に、その種を欲しいとワガママを言い、彼女を溺愛していた父親はそれをホウキの柄の中へ入れて持たせてしまった。

さすがに家に一つしかないものなので、娘へ自身が亡くなったときには実家へ返還できるように遺言へ必ず書き記しておくようにと約束はさせたのだが、彼女はそれをしなかった。貰ったのだから何故返さなければならないのかと、父親との約束を反故にしたのだ。


 しかも、父親は娘に渡したことを誰にも言っておらず、家に一つしかない万年樹の種がマンダリーノ伯爵家にない状況にあることを把握している者はいなかった。

万年生きるとはいえ、いずれ伐採して使うときが来るのだから、そのときに次代へ繋ぐ種がないなどシャレにならないのだが、娘を溺愛する父親とはどうしようもないのである。


 そして、ホウキの中に万年樹の種があることも知らずにその娘から娘へと受け継がれた結果、クラウスの妻からアリエスのもとまで来たのだが、彼女はホウキとチリトリがあれば良いので種に関してはロッシュへ丸投げすることにした。

ニンマリ笑った彼は種をウェルリアムに預け、ジオレリア王国のマンダリーノ伯爵家と秘密裏に会談することにしたのだが、その家がジオレリア王国の外交を担当していたりするので、ハルルエスタート王国はウハウハである。


 自分の家マンダリーノ伯爵家に万年樹の種がないことを周りに知られてしまえば爵位の剥奪も有り得るほどのことなので、あちら側は強く出られないのだが、あまり足元を見るようなことはしない。

その辺は一部の外交を担当している王太子アルフォンソが面白おかしくやってくれることだろう。


 ということで、遡ればアリエスはジオレリア王国マンダリーノ伯爵家の血も継いでいることになるのだが、そんなことを言えば「人類みな兄弟」になってしまうため、ほぼ血縁関係はないと見ていい。


 ジオレリア王国マンダリーノ伯爵家は、種が見つかったことの歓喜とそれを持ってきた相手を知って絶望を味わうことになるのだが、無いよりかは断然にマシだろう。

何せ、無ければ守護神から賜わったものを紛失したとして、爵位の剥奪が待っている可能性があるのだから。


 引きの良いアリーたんの幸運スキルは、今回のことでめでたくレベル10となり上限を迎えた。

幸運スキルは上位スキルがないためレベル10で打ち止めになるのだが、そこまで行くと幸運の女神から祝福が与えられる。


 最近は、ステータス画面なんぞお買い物アプリを使うときしか開かず、そこしか見ていないアリエスが、女神からの祝福に気付くのはいつになるやら。


 強敵相手にヤル気満々な生活からは遠のいて、ほのぼのした生活をしているため仕方がないのだが、彼女の戦闘欲がそのうちひょっこり顔を出せば旅に出ることもあるだろう。

そうすれば、たぶん、恐らく、きっと、ステータスを確認して、祝福に気が付くはずである。




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る