閑話 リムは国王と仲良し
あちらへ呼ばれては飛んで、すぐに違うところから呼ばれと、ここしばらく忙しない日々を過ごしているウェルリアムは、ロッシュと共に国王の執務室へと飛んだ。
頻繁に現れたり消えたりするので、執務室内に専用の部屋が設けられたほどの出世なのだが、再び緊急事態に遭遇して、執務室に備え付けられている国王の仮眠室から出てきて周囲に誤解されるのを防ぐためでもあった。
ウェルリアムによってダンジョンアタックという名の憂さ晴らしが出来るようになって、少し大人しくなった国王は、書類から顔を上げると片眉を上げて「叔父貴、今度は何だ?」とニヤリと笑った。
アリエスの婚約発表が近づくにつれて、少々おもしろくなさそうな雰囲気をしていたロッシュが嬉しそうにしているのだから気にもなるだろう。
ふっ、と笑ったロッシュは上等な箱へと納められた万年樹の種をウェルリアムから預かると、それを開けて中が分かるようにして国王に見せた。
それを見た国王は眉間にシワを寄せ、「種、か?」と、つぶやいて首を傾げた。
「万年樹の種にございます」
「…………おい、どこからこんなもん手に入れた?」
「
「ククっ、話題が尽きねぇなぁ、リゼは。それで?どこの間抜けだ?守護神から賜わる品を紛失したのは」
「マンダリーノ伯爵家でございますよ」
「ははっ!あのイケすかねぇ奴がこんな騒動を抱えていたとはな。婚約発表が終わったらアルフォンソに行かせろ。リムも第四王女を連れて一緒について行け」
「御意」
ウェルリアムと第四王女アウレーリアが婚約した後、最初の公務が決まったのであった。
来たのならばついでだと国王は、エントーマ王国からジョルジュの父親が国王であった人物だと認め、王弟としての地位を与えたということと、ヴァレンティア・サラ・エストレーラ侯爵とエントーマ王国王弟ジョルジュ・イレール・マーティアの婚約を了承する旨が書かれた、正式な文書が届いたことをロッシュに伝えた。
マーティアとは、精霊眼を持つエントーマ王国の王族のみが名乗れる姓なのだが、エントーマ王国の平民となっていたジョルジュは誰の許可を得る必要もなく王族籍に入れられてしまったのだ。
彼が母親の実家に籍を置いていたのであれば、本人がエントーマ王国へ赴いて書類にサインをしなければならなかったため、ここまでスムーズに事は運ばなかっただろう。
「それで?叔父貴、リゼの衣装は出来たのか?」
「ええ、何とか間に合いそうですよ。ジョルジュ殿も仕立てている最中にございます」
「はぁ、よくもまあズートエイス王国から氷絹を取り寄せられたもんだ。しかも2着分も」
「ほっほっ、陛下が妖精の衣で
「ああ、確かにな。デビュタントと婚約発表よりも劣る衣装で結婚式なんぞ挙げられんだろう」
そばでそれを聞いているウェルリアムは、「これ、結婚させる気ないって言ってるよね?」と、顔を引きつらせていたのだが、ズートエイス王国へ行って氷絹を手に入れるために奔走した中にウェルリアムもいたので共犯である。
ズートエイス王国の氷絹とは、一枚だけで広げてみると透明に見えるほど薄い生地なのだ。
3枚重ねてやっと視認できるほどなので、それをドレスの上にふんわりと被せて仕上げることが多い。
アリエスのドレスは、金色に染め上げた生地に氷絹をまとわせたもので、そばに寄るとヒンヤリとした冷気が漂っているのが分かるため、夏にはもってこいな衣装である。
「ああ、そうだ。第三王女を描いた絵が完成したと報告があったな。結局、完成したのは大小合わせて全部で5枚になったらしい。婚約発表のときに城に来るから、そのときにでも選ばせるか」
「準備の時間を考えますと、前日に城へ入って選んでいただいた方がよろしいかと存じます」
「あ、そうでした。アリエスさんとジョルジュさんに茶番をしてもらう約束をしているので、その時間も下さい」
「あ?茶番?夜会でか?」
「いえ、夜会の前にやってもらうつもりです。狙っていた
「アレのことでは、かなりストレスをかけたようだからな。仕方ない、許可してやる」
「ありがとうございます!!」
エントーマ王国へクーデターを起こさせようとしていた第一王女コンスタンサは、王族籍を剥奪され平民として国外へ追放されるのだが、表向きは駆け落ちしたことになっている。
その平民籍も年内のみなので、新年を過ぎたら無国籍となり、どこにも出入りできなくなるのだが、ウェルリアムは何も心配していない。
というのも、必要最低限の荷物のみでウェルリアムの転移で放り出されることが決まっている第一王女コンスタンサだが、彼女の専属護衛騎士だった人物がついて行く予定になっているからだ。
他国との関係を悪化させようとした罪で謀反人扱いされている第一王女コンスタンサは、護衛騎士たちも既にその任を解かれており、誰一人として残っていないのだが、幼少期より常にそばにいたその専属護衛騎士だった彼だけは、忠誠を王家にではなくコンスタンサ個人に捧げているので、護衛のままなのだ。
彼は、彼女が幼いときに既に騎士となれる年齢であったため、今ではかなりいい歳の、オッサンに片足を突っ込んだような年齢である。
そんな彼は、コンスタンサのことを愛して止まず、一生そばで守ることを誓っていたのだが、今回のことで身分を気にすることなく彼女を手に入れられる機会が訪れたため、それを逃してなるものかとウェルリアムを間に挟んで王家に頼み込んだ。
貯えがあるとはいえ贅沢はさせてやれないが、養っていくことは出来る。
それでは罰にならないのは分かっているが、愛する女性と添い遂げさせてほしいと頼み、家から出さないと約束するからと懇願した。
幼いコンスタンサに万に一つもないようにと、どこで何をしていようが、必ずそばにいて守っていた彼は、もう彼女から離れて生きていけないのだ。
そう、
それを、コンスタンサは知らない。
ウェルリアムは、思った。
彼と共に放置するのも、それもまた罰になるのではないか、と。
一人で放置して即、野垂れ死にされるより、その方が長く続くのではないか、と。
そう語るウェルリアムに国王は、「まあ、好きにしろ」と言って、コンスタンサのことに関しては任せてくれたのだった。
専属護衛騎士としてそばにいたときは護衛らしく線を引いて弁えていたが、コンスタンサが平民となった時点でその線引きはなくなる。
憐れコンスタンサ。ヤンデレ属性付きのオッサンに飼われることが決まってしまったが、それは身から出た錆なのである。
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