第四話 受け取る側の問題
キェショッ、キェショッというドードンの鳴き声と、ルォンルォンというペタルチィーゲの鳴き声がこだまする朝、それを合図に起き始めるジョルジュと側近たち。
アリエスたちはディメンションルームのコテージにいるため、その鳴き声が届かず、各々が起きたいときに起きるという生活を続けているのだが、昼まで惰眠を貪るようなことはしていない。
ジョルジュも一緒になって家畜の世話をしており、それが終わる頃に起き出したアリエスは、彼の頭に鎮座しているドードンを見て吹き出した。
「おまっ、懐かれ過ぎだろっ……」
「えへへ。気に入られちゃったみたい。でも、この子だけ逃げずに出て来ちゃうんだよねー。何でだろう?」
「万物鑑定で見てみるか?えーっと、……何か特殊個体みたいだぞ?襲われた場合は、逃げるより一撃入れて散りたいタイプらしい。でも、敵と味方の区別はつくので、味方には身を任せるんだってよ。任せ過ぎじゃね?乗っちゃってんじゃん」
「ふふ、そっかー。任されちゃったのか。でも、散らないでね?危なくなったら、……どうすればいいんだろう?」
「とりあえず、人がいる所なら安全だろ。ジョルジュに懐いてるようだから、飽きるまで一緒にいてやればいいんじゃね?」
首に猫を巻いた妻と、頭に鳥を乗せた夫、そんな夫婦の完成である。
午前中は、ジョルジュは勉強で、アリエスは彼がやっているドリルをパラパラとめくっていた。
活版印刷が軌道に乗り、量産できるようになったため、ジョルジュがやっているドリルもこの世界で作られたものなのだ。
まだ価格は高いため使い捨てのようにして買えるのは貴族か裕福な平民までだが、その使い終わったドリルを貰って練習する勉強熱心な平民も出てきている。
あまり裕福ではない家の子は、家事や子供でも出来る労働があるため勉強時間をあまり取れないが、やる気さえあれば時間は掛かるが割と何とかなると、努力を止めることはない。
そんな子は周りの大人から将来有望だと、早々に就職が決まってしまうこともあるが、せっかく頑張っているのだからと、勉強する時間も別に設けてもらえたりしている。
昼を過ぎた頃、クラウスが訪ねてきて、肥料を置く場所へと連れて行ってくれることになった。
大量の枯葉や泥などをきちんと置けるように整備していたのが、それがやっと終わったのだ。
アリエスがインベントリから出した泥は、土魔法を使える村人がブロックにして固めていき、それを置くために新設した小屋へと他の村人が運んでいく。
枯葉や枝などは腐葉土を作るための場所にドサっと置いて、こちらは風魔法を使える村人が
その様子を満足気に眺めるクラウスは、「アリー、お疲れ様。これで10年以上はもつじゃろう」と、笑った。
「そんなに、もつのか?」
「ああ、泥のブロック1個を畑一区画分に使うと丁度いいじゃろう。あまり肥料をやると逆に枯れるからな」
「そういやそうだったな。あ、そうだ。川の水量も、もうすぐ大幅に増えるぞ」
「それは、ありがたい。ここに来た当初はもっと豊かな水量だったんだが、急に少なくなってな。まあ、だからといって困るわけじゃなかったもんで放置してしまったが……」
アリエスが母アデリナから受け継いだ水属性は祖父クラウスからのものであり、彼は属性能力がそこそこ高いことから水に困らなかったのだ。
ちなみに、アデリナの属性能力が低かったのは、彼女の母親が妊娠出産時に高齢であったからなのだが、それが低くならないようにするためには宮廷でも上位に入る医者と薬師が付きっきりになる必要がある。
その能力による治療や薬の投与があれば、ハルルエスタート王国王妃のように高齢でも赤子の属性能力を落とすことなく無事に産むことが出来るのだ。
畑の水などは水魔法によるゴリ押しで何とかしてきたが、村人の高齢化もあり川の水量が増えるのならば彼らの負担も減ると喜ぶクラウスは、やっとアリエスに慣れたのか諦めたのか、そっと優しく彼女の頭を撫でることも増えてきた。
猫のように目を細めながら頬を緩めるアリエスは、「ふふっ」と嬉しそうである。
クラウスは優しげな表情から少し悔いのある顔をすると、「すまないな……」と、突然謝りだした。
謝られる覚えのないアリエスは首を傾げると、何のことなのかと問うた。
「アデリナが、な。少しでも仕送りする金額を増やすために手紙を買わずに儂が送った紙を洗浄して、それに返事を書いておった。それを見て儂もそうした。だから、アデリナと儂がやり取りした手紙が残っておらんかったのだ。それに、王都へと行く最中に何があるか分からないからと、儂の女房があの子に遺した品も置いていっていた。アリーが母親の形見を何も持っておらんと聞いて申し訳なく思っていたんじゃ。それなのに……、村のことまで……」
「ぶふっ、手紙を洗浄って!お母様、ちょーウケる!!じいちゃん気にし過ぎだよ。そのことに文句を言い出したら私が生まれたことまで否定する話になっちゃうよ?ていうか、ばあちゃんの形見って、今あるの?」
「儂の家にある……」
「そうなんだ。行く宛てのない形見なら私が貰ってもいい?」
可愛らしく首を傾げるアリエスに憮然とした顔でクラウスは、王女様に渡すような品ではないと、それでも祖母と母親のアデリナが遺していったものではあるのだから見せはするが、期待はするなと言う。
「えー、そういうのって立場とか値段の問題じゃないじゃん?ていうか、品は何なの?」
「ホウキとチリトリじゃ」
「ぶはっ!!あははははっ!やべぇ、ちょー楽しいんだけど!さすが、お母様!もらう、それ、ちょーだい!」
しんみりした雰囲気などなかったほどの大爆笑をするアリーたん。
泣いたり気落ちされるよりは断然に良かったが、まさかこれほどまでに楽しそうに笑うとは思わなかったクラウスであった。
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