第三話 着々と進む
アリエスの微調整とジョルジュの採寸を終え、研究所へと戻ってきたのだが、そのときにウェルリアムから手紙を渡された。
「スクアーロさんから預かった手紙をジオレリア王国にある冒険者ギルドを経由して、彼のお父さんへと出したんですけど、そのお返事です」
「おー、ありがとな。また、公爵家子息を伝書鳩に使ったって頭抱えそうだな」
「あははは。嫌なことは嫌だと言いますから、大丈夫ですよ?というか、転移でちょこっと行ってくるだけなんですから楽なものですよ。ましてや公爵家子息の身分証があれば門を通るときも早く済みますし」
何かあればいつでも呼んでほしいと去っていったウェルリアムは、いつもの如くお土産を貰っているので、「労力の割にお駄賃がいい」と思っていたりする。
父親からの手紙を読んだスクアーロは、アリエスに父親がもし良ければ一緒に酪農をしたいと書いてあったと言ったところ、「あの、ひょろっとした親父さんだろ?あの人ならいいぞ?おじさんは却下だがな」と返した。
「あー、ドム叔父さんは酪農したことないから来ないと思うし、そんなことも書いてなかったから大丈夫だろ。孫も大きくなって面倒を見なくても良くなったらしくてさ、もう一度酪農を出来る機会があるならやらせて貰えないかって」
「おー、いいぞ。この世界の酪農なんて分からないからな。先人の知恵は大事だと思うから、その辺は任せるよ。必要なもんがあったら遠慮せず言えよ?」
「ああ、分かった。領地の事業として始めるんだろ?テキトーなことはしねぇから安心してくれ。というか、そんなことしようものならクララが黙ってねぇよ」
アリエス第一主義の一人であるクララのことを理解しているスクアーロは、妻になった彼女のそんなところも愛しく思っている。
出会った時点でクララがアリエス第一主義だったのだから、そこも含めてクララなのだ。
スクアーロの父親が彼に宛てた手紙には、年齢を理由に今の仕事を辞めるつもりで引き継ぎを始めていたとあり、それがあと2〜3ヶ月もあれば終われると書いてあった。
そのためアリエスは、そのくらいにウェルリアムに転移で迎えに行ってもらえないか頼むつもりでいる。
スクアーロの両親たちがいるジオレリア王国からだとフユルフルール王国を抜けて、ハルルエスタート王国を横断しなければここまで来られないため、物凄い長旅になるし、その分旅費もかかる。
その旅費が経済を回していくことにもなるのは分かっているが、魔物や盗賊などが出やすいこの世界で、安全な移動が出来るのならばそれに越したことはないし、何より酪農をするための助っ人なのだから、アリエスはすぐに合流してほしいと思っているのだ。
ミストとブラッディ・ライアンが日々頑張ったおかげで、ジョルジュの護衛たちが住むための長屋に最新式のキッチンとトイレが完備され、共同の風呂場も完成した。
これでやっと彼らが故郷に残してきた家族を呼べるようになったのだが、先に手紙で知らせておかないと準備する時間もないだろうと、ウェルリアムがエントーマ王国の冒険者ギルドからその手紙が届くようにしてくれたので、その返事を待っている状態である。
ということで、婚約発表が行なわれる夜会まですることがないアリエスは、ベアトリクスの上でダレていた。
もちろんその首にはムーちゃんが巻かれており、ほわほわほにょんほにょんしているが、テレーゼの特製ご飯、つまり"むいもムシ"入りご飯なので太ったりはしていない。
そんなダレているアリエスの横では、ジョルジュが文字を必死で覚えている。
今まで目が見えなかったことで必要なかったが、見えるようになって覚えなければならないことがたくさん増えたのだ。
クロヴィスも多少の貴族文字、つまり漢字は読めるが、あまり画数の多いものは読めないため、ジョルジュが勉強している時間は一緒に学んでおり、そんな二人の勉強を見ているのはコメットとキートである。
コメットは今年13歳になり、成人後は平民のための学校で教師として働くつもりでいる。
冒険者としても十分やっていけるだけのスペックとレベルはあるのだが、安全な職に就けるのならばそれに越したことはないため、クラウス村で教師をする予定なのだ。
キートは14歳になるので、来年からコメットより一足先にクラウス村で教師をすることになっているのだが、彼はアリエスの署名付きでコメットと婚約を結んでいるので、他の誰かに二人の邪魔をされることはない。
キートとコメットから勉強を教わるクロヴィスは、自身を不甲斐なく思っているが、ジョルジュはそんなことを一切気にしていない。
アリエスに「僕には何が出来るかな?」と尋ねたことがあり、そのときに彼女から「ムーちゃんは私の首に巻かれるという仕事がある。ジョルジュがやれることをやればいい」と返された。うん、その返し、ペット枠。
わしゃわしゃとアリエスに撫でられるのが好きなジョルジュは、やれることを探すために色々とやってみている。
お菓子作りに始まり、掃除、裁縫、……ペット枠の次は主婦になりつつあるのだが、そんなことは気にしない。全てのことが楽しいので、それで構わないのだ。
そんな楽しい日々を過ごしているジョルジュであったが、婚約発表のため夜会に出ることになったと知って少し緊張しているため、その夜会へ行く前に、おめかししたアリエスと共に楽しいことをする予定となっている。
それがあったことでジョルジュは、ほど良く緊張が抜けて夜会を楽しめるようになるのだった。
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