第五話 咲いた

 アリエスはクリステールと楽しげにお喋りしているハンナに近付くと、杭を打ってある範囲にドードンを飼うための囲いと、卵を産むための巣箱を作ってほしいと頼んだ。


 「え?ドードンて、あのドードンよね?飼えるの?」

「人が近付かなければイケそうなんだよ。だから、世話は精霊に頼むことになる」

「あ、なるほど。え、でも、やってくれる?精霊よね?妖精よりかは頼みを聞いてくれるでしょうけれど、基本的に属性に関わることしかしてくれないわよ?」

「ジャオが、というか精霊ファルブロースは甘いもの好きだから、卵がお菓子の材料だと知ってヤル気満々なんだわ」


 その話を聞いたハンナは、「そういえば、たくさん食べた気になるからって、わざわざ体を小さくして甘いものを食べていたわね」と、一緒に冒険者生活をしていた頃を懐かしんだ。


 王家御用達の売れっ子職人に観賞用ではなく畜産目的の鳥小屋を建てさせるなど、王都にいる者や貴族が聞けば卒倒しそうな依頼だが、アリエスにとってハンナはハンナでしかないのだ。

「小屋なんて、すぐに出来るわよー」と言って準備に取り掛かったハンナの手伝いを買ってでたのは、ジョルジュの側近たちであった。これから彼らの仕事になるため、いずれ補修しなければならなくなったときのために習っておくのだ。


 ということで、翌日。

アリエスたちはドードンを捕獲するために森へと出掛けることにした。


 ドードンハウスは、ハンナとジョルジュの側近たちが頑張ったおかげで、少し日が暮れた頃に仕上がり、とりあえずドードンを連れて来て様子を見てから後のことは考えようとなったのだ。


 先日見つけた巣穴の他にいくつか穴があったが、捕獲できたドードンは3匹だけであった。

思っていたよりも少ない数にアリエスは捜索の範囲を広げようと、森の奥へと入ることにした。


 滝があった場所よりも東の奥へと向かったアリエスたちが目にしたのは、ぽっかりと穴が空いたように広がる草原と、そこに混ざる暖色系の花々……に見える何かである。

何であるかは、鑑定してみれば分かるので、首をひねりつつ違和感を覚えた花に万物鑑定をしてみたアリエスは、「ファンシーなやっちゃな」と笑った。


 草原に混じって花を咲かせていたのは、緑色の体毛に暖色系の花びらを散らしたような柄の山羊であった。

つまり、花ではなく、花に見える柄をした山羊なのだ。


 ニンマリ笑ったアリエスは、一緒に来ていたスクアーロに声を潜めて「酪農が出来るぞ。やるか?」と尋ねた。


 「酪農……?本当か、アリー様……」

「ああ、あそこに見えてる花柄のやつな。アレ、山羊なんだよ。しかも、めっちゃ乳が美味いんだと」

「マジかよ……。うわ、やりてぇ……っ。本当にいいのか?」

「もちろん。ドードンも飼うんだから、ついでにやっちまおうぜー」

「美味しいの?乳って、ミルク?ケーキ屋さんするの?」

「ははっ、ケーキ屋さんか。やってみるか、ジョルジュ?」

「うんっ。いいね、やってみたい」


 山羊さん包囲網が敷かれ、その場にいたのを一匹も残さず捕獲された花柄の山羊ことペタルツィーゲ。

為す術なくディメンションルームへと放り込まれて、遺跡があったところまでドナドナされてしまったのだった。


 何のスイッチが入ったのか、いつもの如く気まぐれなアリエスはドードン探しも頑張り、数日かけて15匹捕まえた。

その途中でペタルツィーゲも見つけたので、もれなく捕獲し、ハンナによって追加で作られた山羊スペースへと連れてこられたのだが、先に来ていた山羊さんたちは既に子作りしていた。警戒心皆無である。


 ペタルツィーゲの餌は草や野菜、果物でも、植物ならば毒でない限り何でも食べるため、育てるのはそれほど大変ではないので、スクアーロを筆頭にジョルジュの側近たちでも十分、世話ができる。


 しかし、乳製品を作る知識などが不足しているため、スクアーロは父親へと手紙を出すことにした。

結婚したことを知らせる手紙を書いている途中であったため丁度いいと、結婚報告を2行ほど書いてあった後に酪農を始めることになったと書いて、手紙を埋めたのだった。


 本格的にケーキ屋をするのか、おままごとの範囲でやるのか、どちらにしても作り方を習わないといけないジョルジュは、テレーゼと一緒にキッチンに立っている。

アリエスが滝壷で冷凍してしまったレア物は、村人から作り方を習ったテレーゼによって干されており、それが完了するまで手が空いていたのだ。


 見るもの全てが輝いて見え、やること全てが楽しくて仕方がないジョルジュは、キャッキャと材料を量って、混ぜたり捏ねたりしているのだが、その髪には小麦粉がついて所々白くなっている。


 テレーゼ指導のもと何とか完成した不格好なクッキーは、それなりに美味しく出来ており、アリエスに褒めてもらえたのだが、褒め方がペットに対するようであるのは、誰も突っ込まない。

ジョルジュの側近たちは、「坊ちゃんの手作り……っ!!」と、感動しまくりだし、坊ちゃんジョルジュが幸せならばそれで良いと思うことにしたためスルーである。


 髪に小麦粉をつけたままのジョルジュは、「作るのって楽しいけど大変なんだね!いつも、ありがとう!!」と、満面の笑みを咲かせたのだった。




 


 


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