第三話 比べて

 宝石騒動が落ち着き、森の中で見つけたドードンという鳥を飼うことにしたアリエスたちは、ドードンがどの程度の距離で逃げるのかを確認してみたところ、個体差はあれどだいたい100mほどで逃げることが分かった。

それを知ったアリエスは、「運動場ほどあれば良いなら割と狭くて済みそうだ」と言い、遺跡があった場所に長さを測って杭を打っておくように指示をしたのだが、動くのはジョルジュの側近たちである。


 アリエスとジョルジュが結婚することになったとはいえ、今はただの居候であるため、率先して仕事をしているのだが、彼らには彼らの思惑がある。

というのも、ジョルジュの側近の中には妻帯者がおり、その中には子供を持つ親もいるのだ。

 ジオレリア王国に着いて生活が安定すれば呼び寄せるつもりではいたが、国を二つ以上跨ぐことを考えれば実際は今生の別れに等しかった。


 しかし、腰を落ち着けることになったのはジオレリア王国ではなく、ハルルエスタート王国で、しかもエントーマ王国に近い西側の領地だ。

脅威となる魔物もほとんどおらず、自分たちで対処できる環境なので、家族を呼び寄せることは可能になったのだが、それを実現するためには、きちんと仕事をこなして認めてもらう必要がある。


 家族への思いを胸に秘め必死で働く側近たちと、それを汲んで一緒に頑張る独身者。

そんな彼らの事情など知るよしもないクラウスは、「年頃の娘が村にいるのだが、見合いの場を設けてみないか?」と、アリエスとジョルジュに相談したため、ジョルジュが側近たちの中には故郷へ家族を残してきた者がいると告げた。


 「ジョルジュ。側近に嫁さんや子供がいるなら、さっさと言え!どんだけ奥さんや子供が不安な気持ちで過ごしてると思ってんだ!!」

「ご、ごめんね!?え?呼んでもいいの?」

「当たり前だろうが!あのな、働きに出ていない奥さんの世話をしているメイドがいたとして、給料はお前が払えよって奥さんに言うか?普通は旦那が支払うだろう?だったらジョルジュの側近への給料も私が払うんだから、その家族も養ってやれるだろう?」

「あれ?僕、奥さん?」

「そうだよ。ジョルジュは婿だからな」


 そっかー、と抜けた声を出すジョルジュの頭をわしゃわしゃ撫でるアリエスであったが、二人の身長にそれほど差はない。


 アリエスは、あまり人と深く関わったりしないため、ジョルジュの側近たちとも必要最低限のことしかやり取りしておらず、彼らに残してきた家族がいることに思い至らなかった。


 ということで、さっさと呼んでやろうとしたアリエスにロッシュは、彼らが住んでいるのは研究所であるため、家族で住むには適していないのではないかと言った。


 「あ、そっか。でもなぁ、ここにごちゃごちゃと人が増えるのは嫌なんだよな」

「ドードンの世話を彼らの仕事にして、アリエスアリー様は少し離れた場所に住まいを建てては如何でしょうか?」

「んー、そうするか。塀で囲んで庭でも作れば気にならなくなるかな?」

「ええ、そうなさるのがよろしいかと思われます」


 研究所を独身者へ、家族には長屋を建てることにしたアリエスは、ウェルリアムに頼んでハンナに仕事を依頼したのだが、既に完成間近だという返事がきた。

アリエスが領主になったと知ったハンナは、必要になったら即納品できるようにと建設を開始しており、彼女がいらないと言えば売ってしまえばいいと考えていたのだ。


 キッチンとトイレは後付け出来るようにして建てられた長屋、皆で使える男女別の風呂場、その二つをインベントリへと入れて運んできたウェルリアムは、ハンナ指導のもと整地を施した場所へと置いた。

突如として出来上がった住まいにポカンとした顔をするジョルジュの側近たち。


 「リム、ハンナ、ありがとな」

「うふふ、どういたしまして!キッチンとトイレはミスト君とライアン君がしてくれるだろうから、私の方では付けなかったの。ここが、魔道具の最新地だからね!」

「僕は、いつもの如くお礼は現物支給でよろしくお願いします!あ、駄菓子も追加で下さい」

「おう、わかった。ハンナ、代金はロッシュから貰ってくれ。ちゃんと利益出した金額で請求しろよ?リムのは、改めて買わねぇといけないからコテージでな」


 さっそくミストとブラッディ・ライアンは仕事に取り掛かり、アリエスはウェルリアムを伴ってコテージへと入って行ったのだが、そのときに、ちまっと指を咥えていたジョルジュも連れて行ったのだった。


 お買い物アプリであれこれと物色し、ウェルリアムの要望に応えていくアリエスは、もう一人の転生者である先見さきみのマディアにも品物を届けてくれと頼んだ。

引き抜く際の条件がお買い物アプリで購入できる品物、食品が中心になるが、それを提供することだったためである。


 「ああ、マディアさんが……、何て言ったかな。あ、そうそう『串カツあきな』って店ありませんか?て言ってましたね。それか、七重というお店。なければ、もうどこのでも良いので串カツが食べたいそうです」

「串カツかー。えーっと、お?両方ともあるし他の店もあるから片っ端から持たすわ」

「ねぇねぇ、くしかちゅって、なぁに?」

「ジョルジュ、串カツな。串に刺して揚げてあんの。ほれ、これだ。食ってみ?リムも、ほれ」

「うわっ、おいしそー!!あっち、ハフっ、っちっち!おいひーーー!!」

「っん、美味しいです!……僕が食べたことがあった串カツって何だったんでしょうね?ただの揚げた何かだったんですかね?……これが、串カツなんですね」

「いや、リム、お前何食ってたの?どこもそんな変わらねぇだろ?」


 ウェルリアムは前世でスーパーの半額お惣菜の串カツしか食べたことがなかった。

半額といってもアルバイト先のスーパーで閉店時に残っていたのを店長が持たせてくれたのだ。それとお店で出される揚げたての串カツとを比べてはいけないだろうが、彼の基準はそこなので仕方がない。


 食事の時間に響かない程度に串カツを間食しながら、アプリで買い物をしていったのだった。





 

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