第二話 ダイヤモンドの輝き
ゴロゴロと出て来た宝石の原石に騒ぐでもなく、穴から水路へと落ちていったものは作業をしてくれている暗部にあげると言うアリエスに、ジョルジュの側近たちは驚いていた。
お金に困っていないと本人は言っていたし、実際にそうなのだろうが、だからといって宝石の原石、しかもかなりの大きさのものを簡単に手放してしまう彼女に、ハインリッヒから聞かされていた人柄が本当なのだと思い知った出来事であった。
見つかった宝石の原石を何かに使えないかとアリエスに呼ばれたミストとブラッディ・ライアンは、その原石の大きさに声を失った。
アリエスと10年ほど行動を共にし、高価な素材を扱うことにも慣れ、金銭感覚が世間一般とズレてきていたミストであっても、この大きさには声を失わざるを得なかった。
ブラッディ・ライアンは声を失っていたというよりは、いかに無駄なく最高の状態に仕上げるかに考えを巡らせていたからであり、それを遂行するためにアリエスへとお願いをした。
流されて滝壷で揉まれるうちに割れたり削れたりした可能性もあり、泥の中に見逃してしまいそうなほど小さな原石もあるかもしれないと言い、それを集めてほしいと頼んだ。
それを受けてアリエスは、ジョルジュの側近たちに目の細かいザルに泥を入れては水で流すという作業を繰り返させた結果、かなりたくさんの原石を見つけた。
ブラッディ・ライアンは、その中からクズ石を集めて研磨機を作ることから始め、原石を勝手に割ったりしないようにと注意してから、ディメンションルームのコテージへとミストと共に入って行った。
それを疲労の残る顔で見送ったガストンはアリエスへと問い掛けた。今のままでは技術が途絶えてしまうのではないのか、と。
「あー、一度途絶えてるっていうか、ミストが生まれた家は没落してる。家を継いだのが正当な跡取りじゃなかったもんで、技術の継承がされなかったんだよ。ライアンはたまたま拾って、ミストもたまたま奴隷市で買っただけだし。本当にこんな偶然があるのかって、あの時は驚いたよなー」
「そうだったのか……。いや、しかし、口を出す権利はないと分かってはいるのだが、後世に技術を残すことはしないのかい?」
「王家お抱えの錬金術師たちが『目指せミスト親子!』って言って必死にやってるぞ?まだ、冷却装置の核を作るまでには至ってねぇけど、このまま努力していけば時間の問題だってライアンは言ってたな。まあ、所持属性が関わるところはどうにもならねぇらしいけど」
「ああ、それがあるのか。努力だけではどうにもならないものというのは厄介だな」
「努力だけでどうにかなるなら神様はいらねぇんじゃね?」
「確かに……」
努力すればある程度はスキルを得られる。
しかし、それで得られるのはスキルであって属性は手に入らない。
例外として神や高位の精霊や妖精から与えられることはあるが、努力だけでどうにかなるものではないのだ。
その話を横で聞いていたシャルルが、ふとハインリッヒに違和感を覚えた。
彼に水属性はなかった覚えがあったからだ。
ダンジョン探索中にハインリッヒに水を出してやった覚えがあるシャルルは、そのことを問うと、何故自分に水属性が生えたのかをハインリッヒは語り始めた。
マルテリア王国の有名な「水寄越せ妖精ロスエテ」の話から始まり、それを聞いたアリエスが1個として同じものがないコップを100個以上も部屋に並べて置いたこと、そのせいでどれを選んで良いのか分からなくなった妖精がガチ泣きしていたこと、憐れに思ってロッシュと二人で一つずに少量の水を入れて全てのコップを使わせてあげたこと、そのお礼に水属性が与えられたことを話した。
それを聞いたシャルルとガストンは顔を引きつらせた。
下手をすれば喉が渇く呪いを受けることになったかもしれないのに、と。
「コップは用意してあったんだから、喉が渇く呪いは使えないだろう?だいたいが、水くれなきゃ呪うって勝手過ぎんだよ」
「ははっ、まあ、妖精ってのはそういうもんだ。でも、あのとき真剣な顔して器はコップじゃなきゃ嫌だなんて二度と言わないって去って行ったから、もう大丈夫だろ」
あのときの100個を超えるコップが「ロスエテ除け」と呼ばれるものに変化したことは言わないアリエスであった。
色々な原石が大小様々出てきたが、ジョルジュが最初にアリエスへと手渡したダイヤモンドの原石が一番大きく、ブラッディ・ライアンが目をすがめながら見つめた結果、ペンダントトップ2個に分けた方が輝きが増すという結論に至った。
その提案を受け入れたアリエスは、ブラッディ・ライアンに全てを任せることにした。
そして、出来上がったのは、アリエスがデビュタントの夜会の際に身につけていた最高品質のダイヤモンドネックレスよりも少し小さめのペンダントトップが一つと、それと同じか少し小さいくらいのブローチ、イヤリング、指輪2個であった。
どれも宝物庫にある品に引けを取らない品質で、ネックレスとイヤリング、指輪の片方をアリエス、ブローチともう片方の指輪はジョルジュが身につけることになった。
若い男性は正装した際にフリフリの襟にブローチをつけることもあるため、アリエスがジョルジュに渡したのだ。
青空の下でも凄まじい輝きを放つダイヤモンド。
「ふわぁ〜……」と惚けた声を出すジョルジュにアリエスは、「シャンデリアの下だともっと凄いかもな」と笑ったのだった。
……夜会に出る気になったのだろうか?
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