11 これをあげよう

第一話 中から出てきたもの

 領内に何かないかと森に入ったことで、思わぬ発見をしたアリエスたち。

滝へと流れる川に開いた穴は、ハルルエスタート王国の暗部が責任をもって塞いでくれるということになったので、アリエスは任せることにした。彼女が土属性を持っておらず、メンバーにも土木作業に長けたものがいなかったのもあるが、めんどくさかったのだ。


 ベアトリクスに乗って上空から領地を見てみたアリエスは、森がかなり広いことを知り、少し伐採して土地を広げても問題ないように思えたため、それを実行することにした。


 愛用の竜骨モーニングスターを頑丈で鋭い斧へと持ち替えて、フルスイングしては木を伐採していき、切り株は根を数ヶ所切断してしまえば、あとはインベントリに収納できるため、通常の開墾よりもサクサクと進んだ。


 ある程度、土地を広げたアリエスは少し飽きてきたので、更地にする作業はジョルジュの側近たちに任せ、自分はインベントリの整理をすることにした。

何でもかんでも入れては忘れていることが多いのだが、そのほとんどをロッシュが控えているため彼に聞けば大概のことは判明する。


 今回は、先日収納した滝壷のゴミや泥をさっさと始末しようと、遺跡があった更地にべしょっ!と放り出し始めた。

たまたま遊びに来ていた祖父クラウスがそれを見て、「いい肥料になりそうだ」と言ったことで、アリエスはそれをいそいそと片付けて、都合のいい場所へと持っていくことにしたのだった。


 泥も少しずつ畑に混ぜて使うということだったので、凍らせてあるのを溶かすためにデデンっ!と置いたのだが、滝壷で見ていたよりも更地に出すとその大きさがかなりのものであることが分かる。


 「うわ、でけぇー……」

「なあ、アリー。これ、溶けるまでに何日かかんだよ」

「炙っていけば良くね?」

「あー、それもそうか。でも加熱し過ぎるなよ?危ねぇから」

「へーい」


 温度の低い火を広い範囲で展開し、それを凍った塊に押し当てて徐々に溶かしていくアリエス。

火属性を持っているメンバーもいるのだが、戦闘以外の用途で使うことに慣れておらず、アリエスに任せるしかなかった。魔法って便利なのにな、という彼女の言葉に「本当にな」と、しみじみ思う面々であった。


 溶けて流れていく泥の中にはアリエスが凍らせてしまったことで、お亡くなりになった生き物もいたのだが、それを見た祖父クラウスが「なかなか捕れなくて珍しいヤツだ。結婚祝いに贈るのに村人が頑張ることもあるほど美味なものだ」と言ったことでテレーゼ行きとなった。

テレーゼは、「調理方法を村人に聞いてまいります」と最高のものを出せるように、アマデオに荷車付きの馬車をひいてもらい、ミロワールに御者、コメットに護衛をしてもらい、村へと行ってしまった。


 徐々に溶かされていくのを見ながら「結婚祝い、自分で用意しちゃったよ!」と、ゲラゲラ笑うアリエスであったが、魔法のコントロールはきちんとしている。

そんな彼女の横ではジョルジュが目をキラキラさせて泥んこ遊びをしていた。目が見えるようになってから、色んなことが楽しくて仕方がないのだ。


 「見て見てー!アリエスさん、これ、すごい綺麗っ!向こうが透けて見えそうだよ!」

「おー?ホントだ。めっちゃ綺麗じゃん!」

「ねぇー?何だろう?ガラス?宝石かな?」

「川に宝石なんて落ちて……、いや、落ちてることもあるか」


 アリエスは、前世で翡翠が取れる川があったことに思い至り、有り得ないことでもないのかと思い直した。

万物鑑定で見れば何か分かるだろうと、それを受け取って鑑定してみたアリエスは固まって動かなくなり、そんな彼女を不思議そうに見上げるジョルジュは、「どうしたの?」と、泥の撥ねた顔で見つめたのだった。


 ジョルジュが泥の中から取り出してアリエスに見せたのは、ダイヤモンドであった。

しかも、最高品質で、ハルルエスタート王国の宝物庫に入れられているネックレスに匹敵する。そう、アリーたんが参加したデビュタントの夜会。そのときに身につけていた最高品質のダイヤモンドネックレス、あれに匹敵するのだ。


 やっとこさ起動したアリエスは、「研磨したとしても、あれを超える大きさになるんじゃ……」と、普段の無頓着能天気な彼女にしては珍しく狼狽えている。

そこへジョルジュが、「僕からの求婚の指輪ー。なんちゃって!」と、楽しそうに笑うので、どうでも良くなったアリエスは、「この大きさだと凶器になるぞ?」と、笑い返したのだった。


 メンバーで手分けして泥をさらった結果、ゴロゴロと宝石の原石が出てきたことで、アリエスはもしかしたら水路にも流れていっているかもしれないと、このことをウェルリアムへと伝えた。

即座に転移して行った彼がしばらくして戻ってくると、満面の笑みを浮かべていた。


 「埋める前で良かったですよ。アリエスさんが見つけたほど数は無いかもしれませんが。これが、水路で見つかったものです」

「おっ、サファイアじゃん。大きさもそこそこあるけど、あちらさんソレルエスターテ帝国は気付かなかったのかな?」

「そのようですね。地中に埋まっていたのならともかく、川から落ちてきていたとなると、あると思って探さないと見つからないかもしれません」

「まあ、水路にあるやつはそっちに任せるわ。私、お金に困ってないし、宝石にも興味ないしな」

「では、献上品ということにしておきます。今回、作業にあたっているのは暗部の方々ですので、陛下からのお褒めの御言葉や下賜品の方が喜ばれるでしょうから」


 希少で高価な品を与えられるよりも、国王から褒められる方が万倍も嬉しい暗部の皆さん。

国王は、きちんと暗部の皆さんの名前を把握しているので、そこも喜びポイントである。


 アリエスから「リムも新しい婚約者の土産に持って行けばいいぞー」と、お許しが出たので、「では、遠慮なく!」と、嬉しそうに仕事に戻って行ったウェルリアム。

そんな彼を見てジョルジュは、「彼は、僕の甥っ子にもなるんだね!」と、嬉しそうにしていたのだった。


 

 



 


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