第六話 何の穴?

 穴を見つけたアリエスは、とりあえず仲間たちに報告することにした。

何の準備もなく行動に移して困ったことにでもなったら大変だから、というのもあるが、日が暮れる前に戻らないとジョルジュの側近たちが心配するからだ。


 滝の上から戻ってきたアリエスの話を聞いたハインリッヒは「中に何かいたか?」と尋ねた。


 「うんにゃ、そんな気配はなかったな。私じゃ分からないだけなのかもしれないけど」

「そうか。まあ、何にせよ、もう戻る時間だな。詳しくは明日に回すか」

アリエスアリー様、帰りはメンバーをコテージへと入れて、わたくしめと二人でアマデオと帰るという手もございますが、如何なさいますか?」

「あー、そういう手もあるか」


 この場にアマデオがいなくてもロッシュが呼べば地面を抉る勢いで来てくれるため、その話を聞いたメンバーは、それで構わないということになり、時間いっぱいまで滝に流れ込んでいる川に開いた穴を調べることになった。


 安全が確保されていない先を調べるのは私の仕事ですよ!と、ミロワールが手の先に目を作って穴の中へと降ろしていった。

穴は垂直で3mほど、そこから先は下へなだらかに続いており、かなりの距離があるためミロワールの身体が足りなくなってしまい、それ以上先へは進めなくなったが、穴がそこそこ広いことは分かった。


 身体を元に戻したミロワールは不思議そうに首を傾げると、「ちょっと変ですねぇ」と言った。


 「何がだ?」

「あのですね、アリー様。中には魔物除けが施されているんですけど、それって人工の穴ってことじゃないですか?」

「マジかよ……。誰だよ、こんなとこに穴を開けたの」

「ふむ。西側の、王家が管理していた森に人工の穴ですか」


 ロッシュのその発言に「あっ、察し」となったジョルジュ以外のメンバー。

つまり、彼は見つかった穴がソレルエスターテ帝国へと繋がっているのではないかと言うのだ。


 ニタっと笑ったアリエスは、「じゃあさっさと片付けちまおうぜ!」と言って穴へと入る準備を始め、ジョルジュにはディメンションルームへと入っているように言った。


 「ついてっちゃ、ダメ?」

「危ねぇからな。帝国の犬がもし中にいたら戦闘になる。だから、いい子で待ってて。な?」

「……うん。分かった。ちゃんと帰ってきてね?約束だよ?」

「ふふっ、分かった、約束するよ」


 シラタマを抱っこしたジョルジュは、ディメンションルームの中へと入って行った。

少し寂しげな彼はアリエスから、「ジャオにシラタマを紹介してやって」と言われて、周りに花を咲かせながら嬉しそうに頷いたのだった。


 防水仕様の装備に切り替えたアリエスたちは、次々に中へと降り立って行く。

周囲を見渡して、下水路のように端を歩けるように加工してあることから人工の穴であることは確実となった。


 しばらく進んで行くとロッシュが「アリエスアリー様、ウェルリアム殿が合流出来るようです」と、言った。

第一王女コンスタンサのことで忙しいのは分かっているので、可能であれば、ということでロッシュが預かっているヤエちゃんに呼んでもらっていたのだ。


 ディメンションルームを展開すると、頭にシラタマを乗せミニサイズのジャオを抱っこしたジョルジュと、ロッシュに呼ばれたウェルリアムがレベッカとルナールを連れて来ていた。

ヤエちゃんは細かいことを伝えるのは難しく、手短な用件とか誰が呼んでいるかくらいしか言えないため、呼ばれた先が真っ暗だったことにウェルリアムたちは驚いている。


 「何が起きたんですか?」

「お、リム、来てくれてありがとな。ここは、私の領内だ。森の中に滝があったんだけど、そこへ流れ込む川に穴が開いていてさ。それがどうも帝国へ続いてるみてぇなんだわ」

「うわ……。よく見つけましたね」

「切っ掛けはジョルジュだよ。お手柄だったんだから、なぁ?ジョルジュ」

「えへへ。役に立てたよ!」


 ディメンションルームでジャオとシラタマを抱っこして寂しそうにしていたジョルジュを見てルナールは、「これだけのメンツがいれば連れて行っても大丈夫なんじゃない?」と言ったことで、ジョルジュも連れて行くことになったのだが、ベアトリクスに乗っての移動となった。

何かあってもウェルリアムがいれば即座にジョルジュを転移させることが可能なのも大きかった。


 周りが警戒しながら移動しているためジョルジュは、いつものほのぼのした雰囲気を片付けて静かに耳をすませていた。

彼は夜目スキルは持っていなくとも暗闇には慣れ親しんでいるため、目よりも耳の方が頼りになるのだ。


 そして、かなりの距離を移動したところでジョルジュが「えっ……」と、声を上げたため、それに気付いたレベッカがどうしたのか尋ねると、「あっち」と何もない場所を指さした。


 「ジョルジュ、どうした?」

「あのね、アリエスさん、あっちに引っ張るの」

「ん?どこだ?あっち?何もねぇけど?」

「私が見ます!」


 ミロワールがジョルジュが指さした方へと近付いて行き、壁にそっと触れてみたが何も分からなかったため、「危険はなさそうですが、アリー様、鑑定してみますか?」と言ったので、アリエスは見るだけなら危なくはないだろうと万物鑑定してみたところ、隠し通路があることが判明した。


 アリエスは、ジョルジュに「お手柄だぞー」と褒めてやっていたが、レベッカは訝しんでいた。


 「ねぇ、アリエス様?ここへ繋がる穴も、隠し通路も、見つけたのは彼なのよね?」

「そうだぞ。ああ、万物鑑定で丸裸になってるから心配はいらんぞ?」

「あ、はい。了解です」


 表に出せないような情報でもそんなの関係ねぇとばかりに開示させる万物鑑定。

そんなもので丸裸にされているのならば疑う必要は何もないと、レベッカは即座に納得したのだが、それを聞かされたジョルジュは両手で顔を覆ってテレテレしていた。


 真っ暗なのでほとんど分からないが彼の顔は真っ赤になっていたのだった。

 









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