第五話 行った先

 ジョルジュが引っ張られるままについて行った先には、滝があったのだが、その滝の規模にしては水量が少なく、滝壷には枝や枯葉、泥などが溜まっており、水は濁っていた。

それを見たアリエスは、「掃除して欲しいんかな?」とつぶやいたのだが、ファングは手を「違う違う」と振り、滝の上を指さした。


 アリエスは規模の割に水量が少ない滝というのを見たことがあるため、水量に関してはスルーしていたのだが、どうやら精霊は水量をどうにかして欲しいと訴えているのだった。

ロッシュは、「水量さえ増えればゴミは勝手に流れていくでしょうが、それでは下流に被害が出るかもしれません」と言った。


 「アリエスアリー様、精霊の言うことだけを聞いてはなりませんよ。位の低い精霊は、自身のことしか考えないので、それにより周りがどうなるかまでは関知しません」

「なるほど。そうだな。あれ?ジョルジュ、何してんだ?」


 ロッシュがアリエスに注意を促していると、視界の隅にジョルジュがしゃがんでいるのが見えた。

アリエスに声をかけられたジョルジュは、そろーりと彼女の方に振り向くと、ちまっと指を咥えたのだが、ここにクロヴィスがいたらまた叱られていたことだろう。


 ジョルジュがしゃがんで見ていたのは、ピンポン玉より少し小さいくらいの、ぽてっとした半透明の物体であった。

何だろうかと、それに近付いて見たアリエスは、「おー、クラゲか?いや、海じゃねぇしな」と首を傾げたのだが、その物体は弱弱しく「クゥ……」と鳴き声をあげた。


 何故にジョルジュが指を咥えたのかといえば、彼はアリエスの夫となってパーティー"ギベオン"にも加入することになっているが、現状は居候である。

そんな自分がペットを飼いたいなどと言い出せるわけもなく、文字通り指を咥えていた、というわけであった。


 それを察したロッシュが「飼いたいのですか?」と尋ねると、おずおずと小さく「うん」とだけ答えたジョルジュ。

それを聞いたアリエスは、とりあえず弱っているのか、そんな鳴き声なのか分からなかったので万物鑑定してみたところ、死にかかっている精霊のファルブロースであることが分かった。


 「おぉ、ジャオと同じじゃん!」

「ジャオ?え?ジャオと同じなの?」

「そうだよ、ジョルジュ。でも、すっげー弱ってるな」

「どうしたら元気になる?」

「甘い物が好きなんだが……、色々と並べてみるか」


 アリエスが色々と並べてみた結果、果物がたっぷりと乗ったケーキが気に入ったようで、貪るようにして食べていき、けぷっと小さなゲップをしたあと「クゥっ!」と元気よく鳴いたのだった。


 お礼を言うようにしてアリエスへと擦り寄ったファルブロースは、ジョルジュのズボンの裾を小さな手でちょんちょんと引っ張り、「クゥ、クゥ」と鳴いたので、彼は嬉しそうに微笑みシラタマと名付けた。

その途端にジョルジュとの契約が成され、死にかけていたファルブロースことシラタマは、銀色のボディに青と緑と紫の斑点模様、茶色の流線模様が入ったのだった。白玉感ゼロである。


 それを見たジョルジュは、「シラタマに白玉感がなくなっちゃった……」と目を見開いて驚き、まあいいかとなった。

その反応にズッコケそうになったアリエスは、ファルブロースは契約者の所持属性が反映されることを教えた。


 「ということは、タマちゃんシラタマも鏡を使えるの?」

「いや、シラタマが精霊と契約してなきゃ意味なくねぇか?」

「あ、そっか。そうだよね。契約している精霊が見ているものを映すんだもんね」


 一緒に練習しようと思ったけど残念!と笑うジョルジュに和むメンバーたちは、彼が何故ここに来ているのか忘れていた。

ジョルジュを引っ張ってきた精霊はそれを察し、遠慮がちに水面をとぽんっと波立たせたのだった。


 何をしに呼ばれたのか思い出したアリエスは、この状態で水量を増やしてしまえば下流にゴミを押し流してしまう可能性があるため片付けることにした。

「んじゃ、やらかすか!」と言ってベアトリクスに乗るとゴミをインベントリへと回収していき、溜まった泥をさらえるためにそこそこ深い滝壺を凍らせて水ごと泥を排除し、凍らせても取り切れなかった泥はハインリッヒが魔法で集めてくれたので、それもインベントリへと回収した。


 その大雑把なやり方にジョルジュは「すごいねぇ!」と、目を輝かせて喜び、メンバーは「相変わらずやり方が雑」だと思ったりもしたが口には出さなかった。それが、アリーたんらしさというものであるからだ。


 綺麗になったというか、キレイさっぱり何もなくしたというか、そんな結果ではあるが、ジョルジュを引っ張って来た精霊は満足したようで、水の粒を煌めかせて喜びを表したのだった。


 ものはついでと、アリエスはベアトリクスに乗ったまま滝の上まで行くと、流れ込んできている川の途中に穴が開いており、そこへ水の大半が落ちて行っていた。

水量を増やすにはこの穴を塞がなければならないのだが、何故開いているのかも分からずに塞いでしまうのも良くないだろうと思案するアリエスであった。


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