第四話 ついて行く

 森に入るメンバーは、ロッシュ、ハインリッヒ、クララ、スクアーロ、コメット、ベアトリクス、サスケ、ミロワール、ファングにジョルジュである。

ジョルジュの護衛は体力が戻っておらず、何かあれば足でまといになるので、泣く泣くお留守番をすることになった。


 クイユがいないのは、アリエスが「娘ほっとくと、そのうち『おじちゃん、だぁれ?』とか言われるぞ?」と言って、家族団欒の時間を取らせたからである。

夜は一緒に過ごしているが、たまには昼間に遊んでやれということで、クイユは休日のお父さんをしている。


 ジョルジュの歩く速さに合わせているため、そこそこゆっくりな移動なのだが、アリエスがあちこちを万物鑑定しながら歩くので丁度良かった。


 これといって珍しい物もなくアリエスがぼちぼち飽きてきた頃、やぶに隠すようにして開いている穴を見つけた。

勝手に穴が開くとは思えずアリエスは鑑定をしてみたのだが、その穴はドードンという名前の鳥の巣であった。


 ドードンの卵はとても栄養価が高く味は少し濃厚な鶏卵といったところで、安全を確保できる環境であればじゃんじゃん卵を産む性質を持っているのだが、その鳥自体はとてもではないが食べられたものではない。

しかし、安全な環境を整えたところで人が近付くと卵を産まないため、今まで飼育出来たことはない。


 というような情報を得たアリエスは、「人じゃなければ飼えるってことか?」と、ファングを見た。

人型の精霊であるファングならば可能なのではないかと思ったアリエスは、彼に「穴の中にいるドードンっていう鳥に警戒されないか試してみてくれ」と頼んだ。


 コクリと頷いたファングは、スルスルと穴の中へ入って行くと、しばらくして中型犬ほどの大きさのずんぐりむっくりとした翼の小さい鳥を抱えて戻ってきた。

大人しくファングに抱っこされていたが、穴の先に人がいるのを見て暴れだし、ファングが降ろしてやると一目散に穴の中へと帰って行った。


 それを見たアリエスは、「養鶏が出来そうだな」と、ニンマリと笑ったのだった。


 ふふん、ふふん、と鼻歌混じりでご機嫌なアリエスにハインリッヒは、どうやって飼うつもりなのか尋ねた。


 「まず、人が近付いてどの程度の距離で逃げるか確認して、その距離よりもかなり広めに囲いを作る。次に巣の代わりに暗くて狭い箱をいくつも用意する。そんで、餌は草で良いんだけど野菜クズでも大丈夫。ほら、魔物除けの草を育ててじゃん?あれの捨てる部分とかでもイケるわけよ」

「え?魔物除けの草って、死んじゃわないの?」

「ジョルジュ、さっきの鳥さんは魔物じゃないから大丈夫だぞ?」

「えっ!?そうなの!?」


 サスケを頭に乗せて驚くジョルジュに苦笑したアリエスは、「卵を得るためにはジョルジュに頑張ってもらわないとな」と言った。

彼女にそう言われたジョルジュは、自分にもやれることがあるのだと嬉しそうに笑ったのだった。


 他にも何かないか探すアリエスを微笑ましく見つめるロッシュであったが、ジョルジュの行動が気になりだした。

何もいない方向を見てはソワソワとして、そちらへ行こうとしては踏みとどまるということを繰り返しているのだ。


 何か気になることがあるのか、それとも本人の意思ではないのか、何にせよ危険なのでロッシュはジョルジュに声をかけることにした。


 「ジョルジュ殿、何か気になることがございましたか?」

「あ、ロッシュさん。あのね、あっちに引っ張って行こうとするの」

「引っ張る?……精霊ですか?」

「うん、そうなの。とっても弱ってるの」


 弱っているのに引っ張って行こうとするとは、どういうことなのかと思案するロッシュにハインリッヒは、「ルナールが抜けて斥候がいねぇからな。ジョルジュ、それ今じゃないといけねぇか?日を改めるのは?」と聞いた。


 しかし、それに答えたのはジョルジュではなく、アリエスであった。


 「斥候か?それなら、ジョルジュがやれるぞ?」

「えっ、僕?行ってくればいいなら行くけど、やれるかな?」

「いや、行く必要はねぇよ。ていうか、ジョルジュ。お前、自分の所持属性を把握してるか?」

「うん!水と風、ちょこっとの土だよ!」

「……読めないやつあるだろ?」

「えへっ。うん、読めないのあるー」


 アリエスはジョルジュを万物鑑定で見たときに精霊眼が何であるのか知ったのだが、精霊眼とは、水魔法で作り出した水鏡に契約している精霊が見ているものを映す、というものだった。

つまり、精霊眼と呼ばれている瞳の特徴は「鏡属性」によるものであり、エントーマ王国の国王は精霊を通すことで、その場にいなくても色々なものを見ることが出来ていた。


 しかし、色々と見ることが出来るといっても、所持属性の能力の高さや契約している精霊によって、その範囲は限られるため、世界中を見ることが出来たりはしないのだが、エントーマ王国王都にある城から国境までくらいならば、それほど高い能力は必要としないため、国内のことはある程度、把握することは可能なのだ。


 それは、精霊眼を持つ王太子が国王になったときにのみエントーマ王国の守護神から教えられるので、今の新国王の弟は知らない。

それをアリーたんは国王でも王太子でもないジョルジュに教えちゃったのである。


 水魔法で水鏡を作ろうと頑張るジョルジュであったが、なかなか平にならずぐにゃぐにゃな水面になるため、これでは映したところで何か判別するのは難しい。

これは要練習だと結論付けたメンバーは、ジョルジュを引っ張って行こうとしている精霊と話が出来ないかファングに聞いてみた。


 その結果、ファングは両手で大きな丸を作ったので、問題はなさそうだと判断し、ジョルジュが引っ張られるままについて行くことになったのだった。

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