第三話 結婚するけど

 アリエスの結婚が決まったとはいえ、ジョルジュの意思も確認してからの話になるので、それを彼が断ればパーティー"ギベオン"に誘ってみるのも良いかということになった。


 ハインリッヒは、「アリーが結婚かぁ……。あっという間だな」と、寂しげな態度であったが、アリエスから結婚しても何も変わらないと言われて持ち直していた。

恋愛結婚ではなく保護を目的とした政略結婚なので、今のところアリエスに変化が訪れている気配はないが、ジョルジュもそうだとは言えないことに、彼女だけが気付いていなかったのだった。


 ディメンションルームから出て来たアリエスたちに、ぱあぁーーー!と笑顔を輝かせてお出迎えするジョルジュに「やべぇ、懐っこいポメみてぇ」というアリエスのつぶやきに、ウェルリアムが吹き出した。

ジョルジュの髪は全体的に青緑色で、前髪の一部分だけに栗色のメッシュが入っており、アリエスがいた世界のポメラニアンとは似ても似つかないのだが、彼の行動や表情がそれを彷彿とさせるのだ。


 「おかえりなさい!」

「ふふっ、ただいま、ジョルジュ」

「お話は、もう終わったの?」

「ああ、そのことなんだけどな、父ちゃんから私とジョルジュとの婚姻の許可が出たぞ?そうすれば当てになるか分からないジオレリア王国まで行く必要もないし、私たちの庇護も得られるんだけど。どうする?」

「えっ……。え?こんいんの許可って、こんいんって、なぁに?」


 ジョルジュの発言に固まる一同。

いち早く反応を返したのは、彼の側仕えクロヴィスで、婚姻とは結婚のことだと説明したところ、ジョルジュは顔を真っ赤にして照れてしまった。「婚姻」が分からなかったことに対してではなく、アリエスと結婚するということに照れているのだ。


 ガストンたちは、ハインリッヒからアリエスがどういった人物であるか聞いていたため、ジョルジュが彼女と結婚することでパーティー"ギベオン"に加入し、ハルルエスタート王国の庇護下にも入れるのならば、そんな有り難い話はないと、ジョルジュの返答を固唾を呑んで待った。


 両手を下げてモジモジするジョルジュは、チラっ、チラっとアリエスを見ては、「きゃー」と顔を手で覆う、ということを繰り返しており、どう見ても乙女であった。

その反応が面白くなってしまったアリエスは、彼をペット枠にカテゴライズしてしまった。あーぁ。


 エントーマ王国の不穏分子を焚き付けていた第一王女コンスタンサがいなくなれば、ジョルジュが自由にしていても問題ないように思われるが、エントーマ王国国王だった人物を父に持ち、王位継承権が優先される精霊眼の持ち主となると、スペア扱いとして国外に出してもらえる可能性はかなり低くなる。

そのため、アリエスと結婚してしまえば、ハルルエスタート王国よりも国力が低いエントーマ王国は引き下がるしかなく、ジョルジュは自由を手にすることが出来るのだ。ましてやソレルエスターテ帝国の影響力も下がった今となれば、余計にハルルエスタート王国へ楯突くわけにはいなかい。


 「あのね、アリエスさん。僕、財産になるようなものは、なんにも持ってないの。戦うことも出来ないし、目が見えないことで出来ることは限られていたし。でもね、編み物は得意なんだよ?だからね、アリエスさんが生活に困っても、頑張って僕が養うからね!だからね、だから、僕と結婚してくださいっ!」

「ふふ、ああ、そのときは頼りにさせてもらうぞ?これから、よろしくな、ジョルジュ!」


 モジモジしながらもやはり男性であることには変わらず、求婚の言葉を紡ぎ出したジョルジュ。

そんな彼をアリエスは、忠犬がオモチャ取ってきてドヤってるのが可愛いといった心情で聞いていたのだった。


 ジョルジュがアリエスに求婚して結婚という形を取りはしたが、お互いに夫婦として生活するつもりはサラサラなく、思いを寄せる相手が出来たらそのときに考えれば良いだろうということになった。

つまり、パーティー"ギベオン"のメンバーが増えただけである。


 メンバーが増えたといっても、領主となったことで少し腰を落ちつけたいと思っているアリエスは、冒険者活動はお休みするつもりでいる。

ジョルジュは少し衰弱していたし、護衛を含む側近たちは傷が治っているだけで体力や気力までは回復していないこともあり、どちらにしろ動くことは出来ないからであった。失った血液はブラッディ・ライアンお手製の流血小道具人工血液を使ったのでフラつくことはなくなっている。


 せっかく領地をもらったのだから何かしようと思うアリエスであったが、これといって何も浮かばないので森の中を散策してみることにした。

村人が見慣れているものでも、アリエスの万物鑑定で見てみれば何か違ったことが分かるかもしれないと思ったからである。


 お散歩に行くなら一緒に行きたいと言うジョルジュに益々「ワンコだな」と思ってしまうアリエスは、しばらく散歩した後はベアトリクスに乗るようにジョルジュへと言うと、仲間を連れて森へと入って行ったのだった。

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