第二話 結婚する相手
話が決まったアリエスたちは、第一王女コンスタンサのことは駆け落ちしたと秘かに、そして確実に噂が広がるようにして、エントーマ王国へはジョルジュがアリエスを訪ねて来てそこで仲良くなったという報告をしようとなったのだが、この案を採用するかどうかは国王の判断を待たなければならない。
そのため、ウェルリアムは転移で国王のもとへと飛び、その間にアリエスはジョルジュとのことを考えていた。
理不尽な理由で命を狙われ、目が見えなくなり、歩行にも杖が必要になり、母親は戒律の厳しい修道院へと身を隠すこととなった。
そして、亡命しようと旅しているところを襲撃され、懐いている側近や護衛たちと共に再び命を落とすところだった。
それでもジョルジュは「どうして」と嘆くことはあっても恨み言を口にすることはなく、目が見えるようになった今では、その綺麗な瞳を輝かせて笑っている。
自分だったら全てを恨み憎んだだろうと、アリエスは思った。
母が若くして亡くなったのは結果的に誰を恨むことも出来ない理由からであったが、ロッシュたちがあんな目に遭えば全てを壊す衝動に駆られるだろう、と。
ジョルジュを異性としてどうかと聞かれても、今のところ恋情のようなものは抱いていないが、パーティーメンバーに入れて連れ回すのは問題ない程度には気に入っていると結論づけたアリエスは、そのことをロッシュに伝えた。
それを聞いた彼は「
30分ほどで戻ってきたウェルリアムにアリエスは、「
「えーっとですね、まず、国益を考えればアリエスさんとジョルジュさんの結婚はアリですが、父親としては苦虫を噛み潰したような顔でした。コンスタンサは表向き『駆け落ち』ということで国外追放が決まり、秘密裏に隔離する指示が出ましたので、数日の内に不妊の処置をされた後、僕の転移で捨てて来ます。エントーマ王国が何を言ってきても知らぬ存ぜぬで通すとのことです。そして、僕の婚約者が第四王女アウレーリア様になりましたので、これからも甥っ子として、よろしくお願いします!」
「お、おおう、そうか。第四王女?よん……、四?てことは、フェリ様の妹か?」
「はい。第三王女フェリシアナ様の2ヶ月後にお生まれになられた方だそうで、今年14歳になられるとのことです。結婚は彼女が成人したらすぐにということでした」
「そうか。あれ?フェリ様って
婚約した第四王女アウレーリアが、第一王女コンスタンサのような性格をしていてはウェルリアムが可哀想だと思ったアリエスは、王族のことならロッシュに聞けば分かるだろうと尋ねてみたのだが、彼はとても、そう、とってもいい笑顔で「素晴らしい方ですよ。第一王女が余っていなければ、彼女がウェルリアム殿の婚約者になられていたはずですから」と言った。
ちなみに国王は第一王女コンスタンサの行動を把握していたのだが、彼女にその行動を起こす切っ掛けを与えたのが第四王女アウレーリアであったことも知っていた。
理由が何であれ婚約者のいない第一王女コンスタンサを差し置いて、第四王女アウレーリアに公爵家と婚約者を与えるわけにはいかず、ウェルリアムの婚約者は第一王女コンスタンサに決まったのだが、それを第四王女アウレーリアは納得していなかったのだ。
第四王女アウレーリアは、異母姉である第一王女コンスタンサのことを努力もせずにいい歳をして婚約者もいなければ、最低限の政治知識や流れを読むことも出来ないと言っており、そんな彼女のことが大嫌いであった。
そこへ来て、第一王女なのに婚約者がいないからという、それだけの理由で自分と婚約するはずであったウェルリアムの婚約者におさまり、公爵位も賜わることとなった。
第一王女コンスタンサが婚約した後にウェルリアムに歩み寄ることをしていれば、婚約者のいる身でソレルエスターテ帝国の若き皇帝に皇妃として嫁ぐなどと恥知らずなことを言い出さなければ、第四王女アウレーリアは大人しく引き下がるつもりでいたのだ。
それなのに、第一王女コンスタンサは、ウェルリアムに対して歩み寄ったかと思えば、それは入手困難なダンジョン産の化粧品を得るためでしかなく、彼に敬称無しで呼ばれれば裏で「妾の息子が無礼な!」と悪態をつき、どうにかして王妃になる道はないかと悪あがきをする始末であった。
それを知った第四王女アウレーリアは、己が与えられたものがどれだけ素晴らしく得難いものであるか分からないのであれば、持っている必要などないと、第一王女コンスタンサの耳にジョルジュのことが入るように仕掛けた。
つまり、第四王女アウレーリアは影向きなのだ。
レベッカが彼女に婚約者がおらず嫁がせる予定もないのであれば、暗部に欲しいと言ったほどの逸材である。
というようなことを国王から聞かされたと語るウェルリアムは、「僕の仕事は、教育向上推進部門室長ですが、陛下の側近も兼ねていますし、暗部の仕事も手伝っていますからね。第四王女アウレーリア様とは公私共に合うだろうと陛下も仰せでした」と、遠い目をしたのだった。
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