10 結婚という名の……

第一話 ご報告

 村へと食材を届けたテレーゼたちがスープを仕上げて研究所へと戻ってきたので、皆で美味しく頂いたのだが、それは祖父クラウスが気を利かせてのことだった。

怪我人を仲間のところへ連れて行き、あとは放置するということをアリエスはしないだろうから、こちらのことは気にせず皆で食事を楽しんでほしいという伝言が添えてあったのだ。


 祖父クラウスの心遣いに頬を緩めたアリエスは、出来上がったスープを亡き母アデリナにお供えして手を合わせることも忘れなかった。


 今後をどうするか、という話になって、とりあえずジョルジュたちが住む場所は研究所を使えばいいということになり、その他のことは調査に向かったウェルリアムの報告を待つこととなった。


 それまでの間にハインリッヒとロッシュはシャルルとガストンから話を聞き、これといってすることがないアリエスは、たわむれるジョルジュを眺めていた。

サスケとファングに身体を縦横無尽に走り回られキャッキャと嬉しそうに声を上げて笑うジョルジュは、まるで童話の中から出てきたような愛らしさを持っているので、見ていて飽きなかったのだ。青年なのに不思議なものである。


 ミストとブラッディ・ライアンには、ジョルジュが自由に動けるように瞳の特徴を誤魔化すための物を作ることになり、ディメンションルームのコテージに残っているのだが、ジョルジュの髪色を参考に青か緑のコンタクトレンズにするか、虹彩を見えなくする程度のメガネを作ることになった。


 クリステールとビーネはずっとコテージにいるのも良くないだろうからと、ジンユイを連れて外に出ており、護衛にクイユとスクアーロがついているのだが、ベアトリクスとジャオも一緒にいるのでこの森では過剰戦力である。


 そんな長閑な日々を過ごしていると、情報を集め終えたウェルリアム、レベッカ、ルナールがコテージを経由して研究所に現れた。

アリエスは、仲間がいつでもコテージへ戻れるようにとディメンションルームへの出入口を研究所に展開したままにしていたのだ。


 突然現れたウェルリアムたちに警戒するジョルジュの護衛へアリエスは、「仲間だから安心しろ」と言って落ち着かせたのだが、ウェルリアムは、しょんぼりした顔だった。


 「なんだ?どうしたんだ、リム」

「はぁ……。僕、アリエスさんの甥っ子じゃなくなるかもしれません、というか、もう無理です。嫌です。我慢の限界です」

「おいおいおい、なんだ、どうした?とりあえず、落ち着け。あ、アップルパイあるぞ?しかも、安納芋のペースト入り」

「食べます!!お土産にも下さいっ!」

「あははは、わかった、わかったから落ち着けって」


 報告を聞くよりも落ち着かせる方が先だと、お茶にすることになったのだが、そこにはちゃっかりと自分の場所を確保しているジョルジュの姿があった。馴染み過ぎである。


 ひと息ついたウェルリアムにレベッカは、「とりあえず私は口を挟まないでおくから」と言ってディメンションルームへ行くように促した。

アリエスもジョルジュたちより先に聞いておいた方が良いのだろうと判断し、ロッシュとハインリッヒを伴ってディメンションルームへと入って行ったのだが、ジョルジュが少し寂しそうな顔をしていたことには気付いていなかった。


 ディメンションルームのコテージにてウェルリアムの話を聞いたアリエスは天を仰ぎ、ロッシュは冷たく微笑み、ハインリッヒは頭を抱えた。

第一王女コンスタンサがエントーマ王国へクーデターを起こさせようとしていたと知ればそうなるだろう。


 「そんで?『残念だったわねぇ?』みたいな感じで私とジョルジュに結婚してほしい、と?」

「ダメですか?やってくれるとスカっとするんですけど」

「んー、ロッシュ、どう思う?」

「そうでございますね。未然に防げたことから、エントーマ王国からは抗議されるだけで賠償などは回避出来るでしょう。証拠も回収してあるとのことで、知らぬ存ぜぬで通すことも出来ますし」


 そう言ったロッシュはシナリオとして、ハインリッヒがアリエスのパーティーメンバーであることを知ったガストンが、昔の伝手ハインリッヒを頼りにジョルジュの古傷を癒そうとしてアリエスを訪ねて来た。というように、事の始まりをジオレリア王国への亡命ではなく、アリエスを訪ねて来たことにしてしまい、襲われたのはジョルジュとアリエスが仲良くなった後にしてしまえば、エントーマ王国も襲撃者たちを表立って罰することが出来る、というものであった。

今のジョルジュでは、認知されていない国王の庶子でしかなく、肩書きは貴族令嬢の私生児なのだが、そこにアリエスとの仲が加算されると、ハルルエスタート王国を敵に回したことになるため、国際問題に発展させることが出来るからだ。

 

 そうなれば不穏分子の一掃にも大義名分が出来るため、第一王女コンスタンサがやらかしたことと相殺することも可能だと語るロッシュにアリエスは、「んじゃ、それで行くとして、第一王女はどうするんだ?」と首を傾げた。

このシナリオで行くと、第一王女コンスタンサのことを黙っていても問題なさそうに思えたからである。

 

 それに対してロッシュは、「駆け落ちでもしたことにして処分してしまえば、それで片付きます」と、清々しい笑顔で言った。


 「追放処分か、幽閉か、どっちにするかは父ちゃん国王次第か?」

「いえ、幽閉はありえません。そんなこと・・・・・のために税金を使うわけにはまいりませんので、子を出来なく処置した後、国外に追放されることになるでしょうね」

「うわ、マジか」

「ええ、マジでございますとも。陛下の決められた公爵家をおこすことと、ウェルリアム殿との婚約、それを反故にして他国にクーデターを起こさせようとしていたのですから、国家反逆罪となります。未然に防げたこととジョルジュ君たちが結果的に無事であったことをふまえて処刑ではなく国外追放処分となるのは、温情でございますよ?」


 うら若き乙女を、しかも大国の第一王女を護衛も付けずに国外に放り出すのが温情だと言うロッシュは、とてもとても冷たい表情をしていたのであった。

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