第八話 婿候補?

 ヘルマンの「ジョルジュをアリエスの婿にすればどうか」という発言にロッシュは冷ややかにブチ切れ、ハインリッヒは掴みかかりそうになるのを抑え、クイユは不快感を顕にした。

その様子にスクアーロは「何でそういうこと言う!?」と、ハラハラしており、ロッシュたちの不穏な空気を感じたアリエスは「ちょっと落ち着け」と周囲を宥めたのだった。


 「ヘルマン伯父さん、どこからそういう話になったんだよ」

「えー、だってアリーは王女で領主だろう?だったら婿さん何人でも持てるじゃねぇか。それならジョルジュ君をもらったって何の問題もないだろう?」

「あー、まあ、そうかもしれないけどさぁ……」

「それに、ジオレリア王国に行くっていうのも保護してもらえるか分からないんだろう?それならアリーと結婚してこの村にいれば、あちらさんは手出し出来ないし、アリーも変な縁談を持ってこられても断る口実が出来るじゃん」

「いや、縁談は父ちゃんが断ると思うぞ?」


 ヘルマンとアリエスのやり取りを聞いてジョルジュは、「フラれちゃった」と、しょんぼりしてしまった。


 自身の姿を見ることは出来ないが、それでも手で触れば酷い有り様なのは分かるし、周囲の反応も耳にすることはあるため、「こんな僕じゃお嫁さんなんてもらえないよねぇ」と日頃から思っていたのだ。しかも命を狙われていたというオプション付きである。

そこに来て「婿にどうか」という言葉を聞いてちょっと舞い上がってしまったが、自身が求婚してもいないのにフラれた形となってしまったので、それはそれは落ち込んだ。


 坊ちゃんの何が気に入らないんだ!?というジョルジュの護衛たちは、そうは思っていても口に出来なかった。

助けられた恩もあるが、ジョルジュとアリエスでは立場が違うためだった。

 ジョルジュが国王の息子とはいえ認知のされていない庶子に対して、アリエスは王女なのだ。亡くなった母親が元はメイドだったとしても今は側室の身分を与えられているため、更に立場が違ってくる。


 あまりにもジョルジュがしょんぼりしているためアリエスは、「いや、別にジョルジュが嫌とか、そういうんじゃないんだぞ?」と、慰めるはめになってしまった。


 「ま、まあ、あれだ。婿云々うんぬんは置いておいて、目を治すか?色々と見たいだろう?」

「あ、うん。そうだね、見てみたいねぇ」

「じゃあ、クララ頼むわ」

「かしこまりました」


 うやうやしく礼を取ったクララは、手のひらをジョルジュの顔へとかざし、「元に戻れ」と治癒魔法を使った。


 みるみるうちに治っていくジョルジュの顔を驚愕の面持ちで見つめる護衛たちをよそにジョルジュは、「うわ、かゆっ!痒いよ?え?何で?」と、ちょっと慌てていた。

苦笑したアリエスは、「怪我が治るときって痒いだろ?かさぶたが治るときか。あれと同じだよ」と、教えてあげたのだった。


 顎にあった傷跡も綺麗に治ったジョルジュの顔は美しかった。

ゆっくりと、もう何年もその存在がなくなっていた目蓋まぶたを持ち上げていくと、二度と見られないと思っていた外の世界があった。


 輝くような銀の瞳に紫、青、緑の虹彩が入った綺麗な目を潤ませたジョルジュは、「み、見える……。ちゃんと……、ぐずっ、見えるよぅ〜」と、泣き出してしまった。

ジョルジュの護衛たちも肩を抱き合い、嗚咽を堪えながら喜びを噛み締めていたのだが、アリエスの追加の一言に固まってしまった。


 「よかったな、見えるようになって。んじゃ、他の傷も治していくから脱げ」

「ヒック……っ。ぅえ?ぬ、脱ぐ……?」

「おう。さすがのクララ先生でも見なきゃ治せねぇからな。傷のあるところを出せ」

「えっ、えぇ!!?い、いや、ちょっと待って!!若いお嬢さん相手に脱げって言うの!?」

「若いのは若いがクララ先生は人妻だぞ?」

「人妻っ!!?」


 ズル剥けのクイユを治療したことを知っているスクアーロは、嫁さんのクララが彼の素っ裸を見ていることも知っているため何も言わないが、あまり気分の良いものではなかった。

それを察したクララはスクアーロに「治療ですよ?」と、苦笑したのだった。


 若いお嬢さんだろうと人妻であろうと、裸を見せるのはダメだと言うジョルジュ。

ガストンも古傷を治してもらうにしてもさすがに裸になるのはよろしくないと、行動に支障をきたしている古傷だけを治してもらうのはどうかと提案し、そこだけ服をめくってクララに傷を見せることとなった。


 クララ先生によって治療を施されたジョルジュは、ゆっくりと椅子から立ち上がると、最初は少しフラついたものの、段々と上手に歩けるようになった。

普段は杖をついて歩いていたのだが、長距離の移動や旅となると自力で歩くことは困難であったため、そういう場合は小型の馬車に乗っていた。


 それを聞いたアリエスは、「今回は、どうしてたんだ?」と首を傾げた。

村人が回収したのは、死体と怪我人だけだったからだ。


 バツの悪そうな顔をしたガストンは、「俺の判断ミスだ」と言った。


 「ここにある村を通るルートがあまり魔物も出ず、ハルルエスタート王国王都へと続く街道も整備されているため、坊ちゃんに負担が掛からないと思ったんだ。だが、俺たちがエントーマ王国へ向かった頃より人通りが減っていたようでな……。襲撃の隙を与えることになってしまったんだ。馬車は大奥様から預かった魔法収納袋に片付けることが出来たから良かったが、その馬車をひいていたヤツはやられちまった」

「あー、若い連中が減ってここ最近は森へは入らなかったからなぁ。今回、森へ入ったのはスープの仕上げのためだったからな。やっぱ、出会うべくして出会ったんじゃねぇの?なぁ、アリー?」

「その話、まだ引っ張んのかよ!?」


 アリエスとジョルジュが出会うべくして出会ったのだと、運命なのではないかと言い出したヘルマン。

しかし、ジョルジュは「スープの仕上げに何で森?」と、違うことを考えていたのだった。


 アリーたん。やっと、お待ちかねの10日かかる特製スープが食べられるようだぞ?よかったな。


 

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