第七話 精霊眼

 目を治さないかという突然の提案に驚くジョルジュたちをよそに、アリエスはクララへと視線を向け、やれるかどうかを確認した。

尋ねられたクララは、呪いの類いではなくただの傷なのであれば可能だと答えた。


 顎やその他の傷に関しては問題ないとしても、精霊に好かれやすいと言われている精霊眼に関しては状態を調べるために万物鑑定をしなければならないのではないかと考えたアリエスは、それをジョルジュに説明した。

万物鑑定がどういったものか知ったジョルジュの護衛たちは、全てをつまびらかにするような、そんなスキルを受け入れることなど到底無理だと、それにかこつけて個人の情報を抜き取るつもりなのではないか、と疑ったのだが、ジョルジュだけは顔を赤らめていた。


 「えっと。何か、恥ずかしいね。全部見られちゃうのか」

「いや、必要なところだけ見て、あとは飛ばすからな?瞳を治すのに、ただ元に戻せば良いだけなのか確認するだけだし」

「う、うん。でも……、でも、アリエスさんになら、いいよ?助けてもらった恩もあるから。うん、大丈夫」


 照れ照れモジモジして顔を赤らめながら「アリエスさんになら、いいよ」と言うジョルジュを見てアリエスは、「何か私がいかがわしいことをしようとしているオッサンみたいじゃないか」と項垂れた。


 気を取り直したアリエスは、ジョルジュの目があったであろう場所を万物鑑定してみたのだが、「精霊眼」といった情報が出て来なかった。

そのことを不思議に思ったアリエスは、ジョルジュから少し離れて全体を見ながら鑑定をしてみたところ、精霊眼というのは、精霊に好かれやすい体質が瞳に現れている状態なだけで、その瞳がなくなっているからといって、精霊に好かれなくなるかというと、そうでもないというのが分かった。


 なんじゃそりゃとつぶやいたアリエスにジョルジュは、「どうしたの?何かあった?」と、不安になって声を掛けた。

傷のせいで表情は歪になってしまっているが、ジョルジュが不安に思っていることは分かったので、アリエスは「あー、大丈夫、大丈夫。何でもないから」と言い、精霊のことに関して質問をした。


 「あのさ、精霊眼って、精霊に好かれやすいって話だったよな?」

「うん、そうだね。そう聞いてるよ?」

「怪我を負う前と後で精霊の態度とか何か変わったか?」

「………………あれ?」

「気付いてなかったのか?」

「言われてみれば周りの人の態度が変わっただけで、精霊は変わってないような……?うん、そうだね。精霊って、気まぐれなところもあるから、その辺ってよく分からないね。あれ?どういうこと?」

「ぶっちゃけて言うと、精霊眼って人が言ってるだけだぞ」

「えっ?人が?」

「精霊に好かれやすい体質が瞳に現れてるだけで、瞳に能力があるわけじゃねぇんだわ」

「うそっ……。え、それじゃあ、あの継承順位の意味って何だったの?」


 ハルルエスタート王国王家の血を継ぐ王族が大なり小なり聖属性を継承しているように、エントーマ王国の精霊に好かれやすいという特徴も大なり小なり受け継がれていっているのだが、人というものは見て分かるもので判断したがるもので、「輝くような銀の瞳に紫、青、緑の虹彩」という他に類を見ない特徴を持っている者を王位につけてきた。


 つまり、精霊に好かれやすい度合いに瞳は関係なかったりするし、ぶっちゃけて言うとエントーマ王国でちょっとだけ新国王になっていた第二王子が、生まれた兄弟姉妹の中で一番精霊に好かれやすかったりするのだ。

だからこそ彼は国政なんぞに携わりたくなかったのだ。精霊に好かれるというのは、とても大変な思いをするからである。


 しかし、精霊に好かれやすい体質が瞳に現れているのに、それを変えてしまっても大丈夫なものなのか分からなかったアリエスは、ファングに聞いてみることにした。

ファングも精霊なので、アリエスと契約しているとはいえジョルジュに惹き付けられるらしく、彼の肩に仁王立ちしてはアリエスの頭に戻るということを繰り返している。


 「なぁ、ファング。ジョルジュの瞳の色を変えてもいいと思うか?て、私の頭の上にいるんじゃ分からないじゃんか」

アリエスアリー様、ファングは手をバツ印にしておりますよ」

「それ、変えちゃダメってことか?あー、特徴がそこに現れてるから、その瞳も好きなわけか」

「そっかー、瞳の色を変えられるなら狙われなくて済むと思ったんだけどなぁ。ダメかぁ……」


 がっくりと項垂れたジョルジュの頬を首に巻かれているムーちゃんが尻尾でぽふぽふと撫でて慰めてくれたので、ちょっと照れるジョルジュ。


 どうすっかなーと頭をかくアリエスに伯父ヘルマンは、「なあ、ジョルジュ君は国王の息子なんだろう?」と尋ねた。

それに対してアリエスは、「まあ、そうだな。認知はされてんのか?」と、ジョルジュに聞いた。


 「ううん、されてないよ。王妃様が、あ、今は王太后様だっけ?が、お許しになられないからね」

「あー、てことは、認知されてない庶子か。母親は、どうなったんだ?」

「母さんは戒律の厳しい修道院にいるから王太后様は手を出せないって聞いてるよ」

「何でまたそんなところに?」

「母さんが陛下の愛人になったのをお祖母様が怒ったからって言ってたけど、そこが一番安全なんだって」

「なるほどな。今の状況だと人質に取られてもおかしくねぇもんな」

「だったら、アリーが婿にもらってあげたらどうだ?」

「は?」


 伯父ヘルマンの「婿にどうか」という発言に顔を真っ赤にするジョルジュ。

それに対してアリエスは、ポカンとしているだけだった。


 しかし、そんなことを言われて黙っていられないのが、「アリーたんを愛でる会」のメンバーたちである。

この発言がヘルマンでなければ血の雨が降ったことだろう。恐ろしいことをするものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る