第四話 少数精鋭

 研究所から出たアリエスたちは、生きてはいないだろうが遺品くらいは回収できるかもしれないと、森を捜索することにしたのだが、人手はあった方が良いだろうと村へ戻って人足を雇うことにした。


 事情を説明するためにアマデオに二人乗りしたアリエスとロッシュが村へ行き、ハインリッヒ、クイユ、クララ、スクアーロ、コメットはとりあえず森へと入ることになったのだが、戦闘になる可能性も考慮してベアトリクス、サスケ、ミロワール、ファング、ジャオもハインリッヒたちと共に行動することになった。


 騎乗していられるギリギリのスピードで爆走したアマデオ兄貴によって、あっという間に村に着いたアリエスたちは、門番からヘルマンが探していたと聞かされ、見かけたらトビアスの家まで来て欲しいと伝言を頼まれていたと言う。

どの道、捜索するための人足を雇うつもりでいたので丁度いいと、トビアスの家へと向かったアリエスたち。


 トビアスの住んでいる家へと着くと、バタバタと人の出入りが激しく、アリエスを視界に入れた人たちは皆、ホッとした様子であった。

何かあったのだろうかと首を傾げながら玄関を開けると、ちょうどトビアスの妻ヘレナが通りかかったところであった。


 「ああ、よかった!!お義父さんたちが探してたんだよ。何だか森で人が何人も死んでたらしくってね。アリエスちゃんに報告しなきゃって宿に向かったら出掛けた後で」

「そのことで私も話があったんだけど、じいちゃんは?」

「お義父さんは、食堂にいるわ。私は怪我人の様子を見てくるから」

「ちょっと待った!!怪我人?森で死んでた中にまだ息のあったヤツが残ってたのか!?」

「え、ええ、そうよ。でも、大丈夫よ。エドさんたちから魔封じの枷を借りて、抵抗できないようにしてあるから。……でも、そんなことしなくても、もう長くはなさそうなんだけどね」

「じいちゃんのとこ行く前にそっちが先だ!ヘレナさん、案内して!」

「ええ、わかったわ」


 戸惑うヘレナに案内されて入った部屋は、濃い血の臭いで吐きそうな空気になっていた。

顔を顰めたアリエスは、床に寝かされている怪我人を一人一人、鑑定していき、その名前をロッシュに伝えたところ、ここにいるのが青年の護衛だけだったと判明した。


 先程、青年が一人一人、名前をあげていっていたのをロッシュならば覚えているだろうと判断したからなのだが、さすがロッシュとキラキラした目で見てくるアリエスにデレっとするのだった。


 怪我人が青年の護衛ならばさっさと回復してやろうと、アマデオ兄貴に「村人が青年の護衛を発見。クララを寄越して」というメモを持たせて爆走してもらった。


 ほどなくしてベアトリクスに乗ったクララとスクアーロがアマデオの先導でトビアスたちの家へとやって来たので、アリエスは怪我人は青年の護衛なので治療を頼むと彼女に言った。

この家にあった回復薬では止血程度にしかならず、かなり状態が酷いのだが、人型の肉塊であったクイユに比べれば断然マシである。


 アリエスはスクアーロへ治療に向かうクララと共にいるように言うと、祖父クラウスがいる食堂へと向かった。


 食堂にはクラウスやヘルマン、トビアスたち一族や村人もいた。

深刻な顔をして話し合う彼らはアリエスに気がつくと、少しホッとした様子で肩の力を抜いた。


 アリエスは、研究所であったことと聞いたことをクラウスに話し、世話をしていた怪我人は、件の青年の護衛であったと言った。

それを聞いたクラウスは、エントーマ王国からの正式な引渡し要求ではなく、一貴族が騒いでいるだけならばいいが、そうでないとすれば国家間の問題になるかもしれないと、渋い顔をした。


 「そのことについては、早急に探ってもらうように頼んでありますので、その報告待ちになりますが、後ろ盾を無くしたとはいえ王妃が産んだ第一王子を差し置いて、愛人の子を王位につけることは難しいでしょうな」

「そうなのか、ロッシュ?」

「ええ、アリエスアリー様。第一王子は精霊眼を持っておられますし、お人柄も国王になるのに問題ないと聞き及んでおります。そうなりますと、愛人の子で、しかも王位につく教育を受けていないあの青年を担ぎあげたところで、それに乗る者は少ないかと存じます。傀儡にしたいのであれば別でしょうけれど」

「……もしかして、そいつら頭悪い?」

「そうでしょうね。頭の悪い者は得てしてそういう者と繋がりやすくなるのですよ。賢い者は近寄りませんから」


 なるほどなぁ、とアリエスが暢気にロッシュの話を聞いていると、クラウスから森で発見された遺体は、遺品となる装備などを回収して埋葬してあると報告された。

汚れなどを落とした装備品を見たところ、服装は冒険者を装っていたが、武器は揃いで上等なものを使っていたことから、どこかに仕えている人物であったことが推察されるということであった。


 「武器の特徴がほとんど同じであったことから、死んでおったのは襲ってきた連中だけじゃろうな」

「てことは、あの青年は少数精鋭に守られてたってことか」

「そうかもしれんの。多勢に無勢では限界があったんじゃろうが、何とか守りきったというところじゃな。よほど慕われておるんだろうな、その青年は」

「みてぇだな。坊ちゃんって呼ばれて甲斐甲斐しく世話されてたし」


 お互いの問題は、とりあえず一旦は片付いたということで、アリエスは青年に護衛が生きていたことを知らせに戻ってやることにした。

クララに回復してもらったことで意識はなくとも治ってはいるので、馬車の後ろに荷車を連結させて研究所まで彼らを運ぶことにしたアリエスは、村人を労ってあげてほしいとお酒と王都でしか買えないお菓子をインベントリから出してクラウスへと渡した。


 それを見たヘルマンは、「おっ、アリー気が利くじゃねぇか!」と喜び、彼の末息子マルクスは「いくら姪っ子でもエストレーラ侯爵様に失礼だよ!!」と頭を抱えたのだった。


 

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