第六話 結婚の誓い

 ハインリッヒたちの両親が白目になり、ローデリックが頭を抱え、ローザリンデとローデリックの嫁が羨ましそうにする中、気合いを入れて赤袴の巫女装束を着た聖霊マリーナ・ブリリアント様がキラッキラの笑顔で祭壇の向かい側に立った。

彼女が着ている巫女装束は、アリエスがお買い物アプリで購入したコスプレ衣装である。


 今回の合同結婚式にはせっかくだからと、レベッカから預かっているシャルドンとトラントも一緒に行なうことになったのだが、二人とも最初は「いい歳して恥ずかしいからいいって!!」と断っていた。

だが、準備が進むにつれ少し羨ましくなり、ドレスが形になるにつれて「やっぱり一緒に挙げたい!」となったのだった。


 こちらの世界では考えられないほど安価なのに、色ムラもなく鮮やかなコットン生地をふんだんに使ったドレスを着た新婦たち。


 トラントにとって妻のシャルドンは同じ帝国の諜報員であり仕事の相棒でしかなかったのだが、彼女がまさか帝国の天敵ピートに手懐けられた二重スパイだとは思わなかった。

しかし、だからといって何かを思うことはなかったのだが、そのときに自分にとってシャルドンが既に相棒ではなく「妻」だったのだと自覚したのだ。


 つまり、自分の色をまとったシャルドンが恥ずかしそうにチラチラと見てくるのがたまらなく愛しくなり、帝国でクーデターが起きたのを機に離れ離れにならなくて本当に良かったと思ったのだった。


 それぞれ夫となる人物の色をまとった新婦を少し羨ましそうに見つめるハンナは、夫のチェーロに慰められていた。

ドレスとまではいかなくても平民や冒険者としてはかなり贅沢な装いでチェーロと共に教会で結婚の誓いをしているため、今回の合同結婚式に新郎新婦として参加することは叶わなかったのだ。

 それに、バルトとアドリアが何の含みもなく楽しそうにメンバーを祝ってあげているのを見て、祝いの席であまりそういう態度を取っているのも良くないと、自分の気持ちに踏ん切りをつけることにした。


 クイユは妻のクリステールと揃いで作った結婚式用の衣装もあるのだが、他のメンバーが王都で吊り下げの正装を買ってきているため、彼も一緒にそれを着ることにしている。

クリステールは前回実家で着たドレスを微調整して着ているのだが、産後でお腹周りと胸のサイズが合わなかったのだ。妖艶な美女が色気マシマシなことになってしまっているが、メンバーは慣れたものだ。


 クララのドレスはスクアーロの色なので言わずもがなほっぺちゃんホホジロザメカラーなのだが、白いリボンとブルーグレーのリボンで涼しげな雰囲気になっており、彼女の知的な見た目にとても似合っている。


 グレーテルのドレスはルシオのトレードマークである赤と青のストライプカラーなのだが、彼女の朱色の髪に合わせて赤色の生地に青色のストライプを細めに入れてある。


 カルラのドレスはフリードリヒの瞳の色であるオレンジ色を使っており、彼女のミルクティー色の髪にとても似合っていた。

オレンジ色のドレスにはフリードリヒの髪色であるダークブラウンを使った花も添えられており、これを見たアリエスは「美味しそう……」とつぶやいたのだった。アリエスがお買い物アプリでオレンジピールチョコレートをポチったのは言うまでもない。


 ビーネのドレスはゾラの瞳の色である緑色を使っており、彼女の明るめの茶髪にピンク色の瞳と合わさって花の妖精のようであった。

結婚式を挙げられるとは思ってもいなかった彼女は、化粧が崩れないように必死で涙を我慢しているが、使われている化粧品はウォータープルーフなので心配無用である。


 神像が置かれた祭壇の向かい側にズラリと並ぶ6組の新郎新婦。

感動の面持ちで見つめてくる面々に気を良くした聖霊マリーナ・ブリリアント様は、厳かに結婚の誓いを始めた。

彼女は「何があろうとも、互いを信頼し愛することを誓いますか?」と口にしたのだが、それを聞いたアリエスは「だいぶ端折ったな。そんなに早くご馳走が食べたいのか」と残念な視線を向けたのだった。


 聖霊マリーナ・ブリリアント様の誓いの言葉にハンナは、「私のときは長ったらしく色々とあったけれど、マリーナ様ほどになられると一言で済むのね」と、斜め上方向な解釈をしてしまったのだが、教会の人が可哀想になる。


 雰囲気だけは厳かだった結婚の誓いは恙無く終了し、新郎新婦は着ているものを汚さないうちに着替えに行き、その間に片付けてあった椅子テーブルを並べ、食べ物と飲み物を出していった。

新郎新婦が自分の結婚式の料理を作るのもどうなんだとアリエスは思ったのだが、そうなると厨房係にはテレーゼしかいなくなる。さすがにこの人数分をテレーゼだけに作らせるわけにはいかないと、アリエスはお買い物アプリでぽちぽちぽちーーーっと買っていった。ここで自分も作るという考えがないところが彼女らしい。


 アリエスが買いまくったオードブルやケーキなどはロッシュが綺麗に盛り付けをしてくれたので、パックのまま提供されるようなことはなかった。

彼が気付かなければ恐らくそのままテーブルの上にドーーーンっ!と並べられたことだろう。何せ、アリーたんは無頓着だからな。


 テーブルに並べ終える頃には着替えた新郎新婦も食堂へと戻ってきて、シャンパンが注がれたグラスを各々手に取った。

それを確認したアリエスは、「結婚おめでとう!乾杯っ!!」と言って、昼食を兼ねたパーティー開始を宣言したのだった。



 

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