第三話 結婚式の準備

 完成した宿屋で結婚式をするといっても、衣装はどうするのかという話になったのだが、立場的には子爵家令嬢となるグレーテルは未亡人からの再婚で、ルシオは両親も自身も平民ではなく冒険者のため衣装は必要ないと言い、ゾラは平民であるため、お互いの色を交換したカフスボタンとネックレスを自分で用意するということだった。

そうなると婚礼衣装を着たくても言い出せない雰囲気になったと思ってしまったのかカルラも「カフスボタンとネックレスで良いよね?」と言い始めてしまった。


 しかし、そんなことを気にしないクララは「アリエス様、よろしくお願いします」と、お買い物アプリで既に染められている生地を購入してほしいと、おねだりしてきた。

夫となる男性たちは、王都にある仕立て屋で出来合いの礼服を買って、女性陣はアリエスに代理で購入してもらった異世界産の生地でドレスを作ることになったのだが、ミシンがあるのですぐに出来るということだった。


 「貴族ではありませんので、花飾りをつけた安全ピンなどで微調整して誤魔化してしまえば、おおよそのサイズで作れます」

「なるほどな。まあ、その辺はテレーゼたちに任せるよ。私には、よく分からないからな。必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ」

「かしこまりました」


 女性陣は4人分のドレス作りに取り掛かり、男性陣は既に手元に用意してあった宝石などをミストとブラッディ・ライアンに渡し、カフスボタンとネックレスを作ってもらうことになった。

カフスボタンは一般的なデザインということに落ち着いたが、女性が身につけるネックレスのデザインに新郎になる男たちは頭を悩ませていた。


 「デザインがあり過ぎて選べねぇ……」

「いや、フリードリヒよぉ、デザインはいっぱいあるが、似合うやつってのがあるだろうよ」

「それが分かりゃ苦労しねぇよ……。何でルシオはそんな早く決められんだよ」

「姉と妹の買い物に付き合って選んでやってたからじゃねぇかな?フリードリヒはしなかったのか?」

「そういうのは、ローデリックかクリステールの担当でな。俺と兄貴ハインリッヒはお呼びじゃなかったんだよ」

「あぁー、なるほどな」


 皆の兄貴ルシオは戦闘だけでなく、女性のこともそつなくこなすオールマイティな兄貴であった。これで見た目がストライプモヒカンでなければ、かなりモテたであろうな。


 さっさとグレーテルに似合うデザインを選び終えたルシオ以外は、頭を悩ませつつも自らが選ぶことに意味があるのだと、煙が出そうなほど悩みに悩んで何とかデザインを決めた。

そんな仲間たちを微笑ましく見つめるカミロであったが、彼は結婚する気はない。キレイな女性にお酌され、気分によって相手を変えられる娼館通いの方がしょうに合っているのだ。


 アリエスは、頭にカチューシャのようにして乗っかっているヤエちゃんに頼んで、王都へ男性用の礼服を買いに行くので送り迎えをしてほしいと、ウェルリアムに伝言してもらった。


 慌ただしいメンバーをよそにアリエスはこれといってすることがないので、ムーちゃんを首に巻いて、砂場で待機モードになっているジャオの背中でダレていた。

なんとなく彼女の寂しさを感じ取ったのか、ベアトリクスはふわふわ仔猫サイズになってほっぺにスリスリしており、サスケとファングはアスレチックでタイムアタックをしては、アリエスに向かってドヤ顔している。


 そんなふうに気遣ってくれる仲間が頼もしくて微笑ましくて、そのうち声を出して笑い始めたアリエスは、「いつでも会おうと思えば会える」と思い直し、お別れではなく門出なのだからと寂しげな顔をするのをやめた。

というか、フリードリヒが宿屋をやってみたいという話を聞いて、オーナーになったのは自分なのだから、そこで寂しい顔をするのは違うだろうと思ったのだ。


 成人してから10年が経ち、今まで色んなことがあったと思い返していたアリエス。

ベアトリクスとサスケ、クララとクイユ、バルトとアドリアをお供に冒険者として生きて行くんだと出発しようとしたところで、ロッシュとテレーゼ、ロッシュが設立者のクラン"ロシナンテ"のメンバーたちと一緒に活動することになった。


 この10年で何故か老いるのではなく、肌にツヤとハリが戻ったように若返ったロッシュが謎すぎると笑うアリエスに、「楽しそうでございますね」と、ロッシュが声をかけてきた。

ロッシュのいる方へと、くるりと寝転がったまま首を傾げるアリエスがあざと可愛くて「はぅあ!?」と胸を押さえる爺さんロッシュ


 「ははっ、10年前のこと思い出してたんだよ。何故か10年前よりロッシュが若返ってんなーと思って」

「生きがいを得ることが出来ましたからね。母のように仕えるあるじを得られずに生涯を終える一族もそれなりの数おりますので、わたくしは果報者にございます」

じいちゃんクラウスに会えたけど、ロッシュのこともじいちゃんだと思ってるからな。もちろん最高の執事だとも思ってるぞ!」

「ありがたき幸せにございます、アリエスアリー様」


 ロッシュは、新郎たちと共に王都へと礼服を買いに行っていたのだが、それは購入資金がパーティー"ギベオン"の財布から出ているからであった。

もちろん何を買えば良いのか分からないメンバーにアドバイスをするためでもあったのだが、彼がいなければ吊り下げられている礼服だけを買ってきて、靴を買い忘れていたことだろう。礼服に冒険者仕様のブーツを合わせるわけにはいかないと言われて、ハッとした新郎たちであった。


 何はともあれ、これで結婚式の準備は整った。

あとは完成した宿屋にて人前式をしたら、そのまま宿で新婚初夜を迎えるだけである。

 


 

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