第二話 改めて
アリエスは、ラングに対して恩赦を出したときに、ダームとコメット、ビーネは宿屋が完成したら奴隷から解放するつもりでいたため、そのことをメンバーに話した。
それを受けて戸惑いつつも喜ぶ当事者とその家族、メンバーたちであったが、「ルナールは解放されないの?」となっていた。
「ルナールは暗部へ行くことが決まった。さっき来て行ったリムが正式な要請が出されたと、書状を置いていった」
「そっか〜。まあ、私は闇の精霊欲しさに手を汚しちゃったからね。しかも、犯罪奴隷となっていたとはいえ素性を隠していたわけだから、恩赦は無理だとは思っていたわ。大丈夫よ」
「配属先はレベッカのところだから、それほど悪い待遇にはならないと思う。あんまりな扱いをするようなら私が回収に行くことも言ってあるからな」
「あら、そうなの?ありがとう、アリエス様。まあ、それを盾に好き放題したりしないから安心してちょうだい」
寂しくなるわね、とほんのり悲しさを滲ませたルナール。
それほど悪どいことに手を染めていたわけではないが、外患誘致の片棒を担いでいたことは確かなので仕方がないと思っている。むしろ、今までのアリエスたちとの楽しい生活が、残りの人生にあった幸運を凝縮した日々だったのだと思い、気持ちを切り替えた。
アリエスは、「宿屋が完成したら」といった感じでメンバーから相談を受けており、ルシオと結婚するグレーテルは、宿屋の経営者となる兄フリードリヒを手伝いたいと、そこで夫となるルシオと共に働きたいということで、それを了承していた。
そして、テレーゼから料理の手ほどきを受けていたルシオの妹カルラは、キッチンにいるうちにフリードリヒに惚れてしまい、猛アタックの末に結ばれたことで一緒に宿屋で頑張りたいと言ってきたので、それも了承している。
兄であるルシオと妹のカルラが宿屋へ行くのならば自分もそっちへ行きたいと、カミロも抜けることになった。
ということで、ルシオ、カルラ、カミロ、フリードリヒ、グレーテル、ルナールがメンバーから脱退、レベッカから預かっていたシャルドンとトラントも宿屋で働くことが決まっているため、コテージから去っていく。
ダームについては、聖霊マリーナ・ブリリアント様と対談したあとに、「奴隷から解放されることがあれば連れてきて」と言われており、彼女では対応しきれないカウンセリングを任されることになっている。心と身体が一致しない人や恋愛対象が異性ではなかったりと、そういう人たちへの対応に回されるのだ。
残るメンバーは非戦闘員を含め、ロッシュ、テレーゼ、ハインリッヒ、クララ、スクアーロ、クイユ、クリステール、ジンユイ(乳幼児)、ミスト、ブラッディ・ライアン、ゾラ、ビーネ、キート、コメットとなる。
残るメンバーを見回したアリエスは、
「そうですね。赤ちゃんって、ちょっと見ない間に首が座って寝返りうって、言葉を話すようになってと次々に起こりますからね。そばにいてあげられるならそれを見られますよ!」
「うぅ、俺もキートのを見たかった……」
「そ、それならさ!俺、弟か妹がほしいんだけどっ!!」
ビーネの無自覚カウンターがドスっとゾラに決まってしまったが、それに乗っかる形でキートが弟妹のおねだりをした。
母のビーネが奴隷から解放されれば、子供を産めると教えてもらっていたからであった。
思わぬおねだりに顔を真っ赤にするビーネとゾラに、アリエスはニマニマして「冒険者活動もしばらく休むから、心置き無く何人でも作ってくれ」と言った。
そんな和やかな雰囲気にクララは、居住まいを正すとアリエスに向かって「アリエス様、私、スクアーロと結婚いたします」と宣言した。宣言する相手がスクアーロではなくアリエスというのがクララらしいところである。
アリエスはニカっと笑うと「やっとかよ!おめでとう!!結婚式は、どうするんだ?」と尋ねた。
それに対してクララは、「完成した宿屋で合同結婚式をしたいと思っているのですが、お許しいただけますか?」と答えた。
「ルシオさんとグレーテルさん、フリードリヒさんとカルラさん、ビーネさんとゾラさん、クイユとクリステールさんもご一緒にどうかと思うのですが」
「そうだなー。クイユとクリステールは、ミースムシェルにある実家で衣装とケーキとご馳走で済ませただけだもんな。んじゃ、リムに頼んでミースムシェルから家族を連れて来てもらうか。結局、夜会ではローデリックたちに挨拶できなかったしな。ルシオたちの方は?家族呼ぶか?」
「いや、俺たちのところは呼ばなくていいぞ。公爵家のご子息様に転移で連れてこられるなんて心臓が止まっちまう。結婚したって手紙を送るだけで十分だ」
「あー、まあ、そう……なる、か?」
アリエスにとってウェルリアムはウェルリアムでしかないためピンときていないが、世間一般の平民からすれば、公爵家子息にお目にかかれることなどほとんどないし、王族となれば余計にそうである。
そんな公爵家子息をパシリに使って呼ばれれば、生きた心地がしないどころか心臓が止まりかねないというのに、連れて行かれた先に王女が待っているのだから、勘弁してほしいだろう。
ルシオたちにとってアリエスはモーニングスターを振り回す気の良い女性でしかないが、彼女の挨拶を無視して立ち去ったというだけで、簡単に首が飛ぶのだというのを見て、「本当に王女様なんだな……」と改めて思ったのだ。
言い聞かせておけば、自分たちの親族がアリエスに対して無礼な態度を取ったりはしないだろうが、せっかくの祝いの席なのだから、何も気にせず幸せを噛み締め、楽しみたいと思っても仕方がないだろう。
胃痛案件になりそうなことは回避するに限るということで、ルシオたち兄妹の家族へは手紙を送って報告するだけになったのだった。
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