第八話 繋がっていく家族
アリエスが食事している背後ではロッシュが執事らしく料理を取り分けたり飲み物を注いだりと、優雅に動いていた。
それを何の違和感もなく受け入れている彼女に親戚たちは、「本当に王侯貴族なんだな……」と、認識を改めたのだった。
大家族が住んでいる家だけあって食堂も広く、アリエスのパーティーメンバーも一緒に取れるということで、隅っこで固まって料理を堪能していたのだが、彼らの中に奴隷が混ざっていることに気付いた親戚の若い連中がチラチラと視線を向けていた。
それに気付いたクラウスは、「まだ理解しておらんのか……」と青スジを立てて、食事が終わったら1回シメておくことにしたのだった。
母アデリナの好物を堪能したアリエスはご満悦で、愛らしい顔には満面の笑みが浮かんでいた。
その様子を「アデリナを見ているようだわ……」と涙ぐむチェリおばあちゃん。
チェリおばあちゃんとトビアスの妻ヘレナから、クラウスの妻でありアリエスからすれば祖母にあたる人物が既に亡くなっていることを聞かされた。
第一子で長男のヘルマンの年齢を考えればおかしくないことなのだが、それならば何故クラウスはあんなに元気なのかと思ったアリエスに、答えをくれたのは伯父ヘルマンだった。
「親父の母親、つまり俺らの祖母がドワーフ族だったんだよ。ドワーフ族は人間と比べて寿命が長いからな」
「へぇー、それならじいちゃんが長生きなのも分かるわ」
「長生きになるのは孫くらいまでは続くらしいからな。アリーも他の人間に比べれば少しは寿命が長いはずだぞ」
「でも、孫くらいになると誤差みたいなもんだろ?」
「まあな。だから俺たち兄弟は子供が多いんだよ。親父を一人にしないように、寂しくないようにってな」
家族思いなヘルマンの言葉にニコニコしているチェリおばあちゃんと違ってトビアスの妻ヘレナは、「産む方の身になってちょうだい……」とげんなりしたのだった。
食事の後はティータイムをするのが常であるアリエスであったが、親戚からの視線がチクチクと刺さり始めたので、ディメンションルームを展開するべく宿泊施設へと行くことにした。
田舎の村特有の馴れ合いは肌に合わないアリエスにとって、親戚の中に長くいるというのは少々疲れるのだ。
「とっても美味しかった!ごちそうさま、またねー!」という挨拶をして去っていったアリエスは、宿泊施設へと入るとディメンションルームを展開してコテージへと戻った。
そんな彼女を「おかえりなさい」と笑顔で迎えてくれた留守番組には、チェリおばあちゃんから料理を預かってきており、それを受け取ったビーネは「まあっ、ありがとうございます。では、さっそく頂きますね!」と、昼食の準備に取り掛かった。
普段であれば既に食事を終えている時間なのに、どうしたのだろうかと首を傾げる帰宅組にキートが「クリステールさんの陣痛が始まったので、準備していたんです!」と言った。
それを聞いて真っ先に走っていったのは夫クイユである。
それを見てビーネは、「あらあら、そんなに急がなくてもまだ始まったばかりよー?」と、のんびりしていた。彼女と元帝国の犬シャルドンの二人は出産経験があるため、テキパキと準備を進めていくのだった。
「まあ、早い人は半日掛からずに終えるが、人によっては1日掛かりか、大変だと3日とかあるからな」
「ああ、ルシオは弟妹の出産にも立ち会ったことがあるんだっけか?」
「おう。そういうハインリッヒはねぇのか?」
「俺の家、騎士爵だったからな。それに親父には嫁さん三人いて男手なんて必要なかったし、邪魔だとか言われてたな!」
「まあ、普通そうなるわな」
メンバーの中で弟妹がいる者たちはのんびりしているが、末っ子だったり兄弟と縁の薄かった者たちは「陣痛が始まった」という状況に少しハラハラしていた。
アリエスは自分に出来ることをしようと思い、聖霊マリーナ・ブリリアント様を呼ぼうとしたのだが、ふとクララの方を見て止めた。
クララはハルルエスタート王国の宮廷医の権威である大爺様に認められた女医である。
そんな彼女の覚悟を尊重したいと思ったからであった。
「アリエス様。私の力が及ばないときには、よろしくお願いいたします」
「ん。私もついてるからな。ふふっ、王妃様の高齢出産だって乗り越えたんだから大丈夫だ!」
「そうですね。あのときも何とかなりましたものね。うん、大丈夫です!やれます!!」
あまりの痛さに呻くクリステールであったが、彼女も元は冒険者。
自暴自棄になって無茶なことをした結果、大怪我をしたこともあったのだが、そんな痛みなど関係ないほどの激痛であった。
呻く彼女にクイユは何もしてやれないと悔しげではあるが、言われた通りに妻の腰を強めに押していた。
「クイユさん、遠慮はいりませんよ!意外と大丈夫なものです。しっかり押してくれた方がありがたいので、ぐいっと!ぐいっと!押しながら撫でてあげてください」
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
「しっ……かり、押し……てぇっ!!い、ぅー……」
体勢を変えたりしながら陣痛に耐えること11時間。
途中で体力が尽きないように食事を取りながら出産に挑んだクリステールは、元気な女の子を産んだ。
涙と鼻水でぐしょぐしょになりながら喜ぶクイユにアリエスは、「よかったな!今日からパパだぞ!!」と肩を叩き、疲れを滲ませながらも優しく笑うクリステールの腕に抱かれた赤子をホッとした様子で見つめた。
出産の手伝いを終えたビーネは、興奮して眠気の吹き飛んでいるキートとコメットに「あなた達もこうして産まれたのよ」と言って二人を抱きしめた。
妖艶でありながらも普段の大人しいクリステールからは想像もつかないほど、尋常ではない叫び声をあげていたのを聞いた二人は、お互いに手に手を取り合ってハラハラしていたのだ。
キートはゾラに、コメットはスクアーロの膝に乗って、産まれるのを待っていたのだが、ゾラは知らなかったとはいえ、ビーネがキートを産む際にそばにいてやれなかったことを後悔していた。
その表情を見て察したビーネは、「大丈夫よ」と言ってゾラも抱きしめ、スクアーロに「クララさんをお願いしますね」と言って微笑んだ。
11時間ずっと気を張って疲れ果てたクララは、出産用に整えた部屋のソファーでウトウトし始めていたので、スクアーロが優しく抱き上げておでこに口付けを落とすと部屋へと連れていった。
アリエスは、何かあっても自分が起きていればどうとでもなるからと、このまま徹夜すると言ってクリステールを休ませた。
前世も含めて、自分もこうして産まれてきたのだと物思いにふける彼女は、そんなふうにして産んだ子を残して逝ってしまわなければならなかった前世の両親と、今世の母親に「幸せだから安心してな」と、つぶやいたのだった。
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