第六話 領主になったよ!
遺跡を粉微塵にしたことで研究室も必要なくなったため、遺跡の研究者としてエドが給料をもらっていたのだとしたら、その補填をしようと言い出したアリエスに彼は、「私は自費でやっておったので生活には困らんのじゃ」と返した。
「自費って……。趣味か何かだったのか?」
「そうじゃのぅ、そんなもんかのぅ。以前はそこそこの人数が研究室におったが、遺跡からはもう何も出んじゃろうということで解散したんじゃよ。私は出土品の管理のために残りながら、ぼちぼちやっておったに過ぎんのじゃ」
「そっか……。んー、それならさぁ、これから暇じゃね?何か他にしたいこととかあるのか?」
「無いのぅ。まあ、住まいは調査村の宿泊施設じゃから、そのまま村に厄介になるつもりじゃ。そこそこの貯えはあるから心配無用じゃ」
遺跡を訪れる研究者というものの実態は、家から研究費という名の生活費を貰っている働かない貴族の穀潰しがほとんどだったのだが、仕事もなく何も無い調査村にいればやる事は一つくらいで、結局、村人とデキちゃった婚をする者が多かった。
中には、きちんとした研究者もいたので、そういう人たちが纏めた資料などは、王家へときちんと送られている。
「つまりは、体のいい厄介払いじゃよ。私も長男であったが側室生まれでのぅ。まあ、貴族の世界なんぞに未練はなかったので良いが、そうでない者たちは不憫であったよ」
「なるほどなぁ。そんな厄介払いされた人って、今の村に結構いるのか?」
「一番若いので既に40を過ぎておるが、その他はほとんど村に残っておらんかったと思うぞ。おぉ、おぉ、そうじゃった。レンとかいう男の娘婿がそれじゃ」
「ぶふぅっ……。マジかよ。ああー、なるほどな。貴族の息子だから落としにいったワケか」
エドが不思議そうな顔をするので村のことを分かっているクラウスが、ここに来るまでの間に何があったのか説明すると、「まあ、やらかすじゃろうとは思うておったが、最悪な形でやりよったのぅ」と、呆れ顔であった。
貴族の息子と結婚すれば貴族。などという勘違いをした、貴族が何かも知らないレニはラングと結婚したのだが、彼の父親は確かに貴族ではあったが母親は妾だったため、彼に相続権は無く、成人までの養育費と成人祝いに平民としては大金、貴族からすれば小遣い程度の金額を貰っている。
しかし、ラングは父親から生活に困らないようにと、研究費という名の生活費を父親が引退するまで送ってもらっていたのだが、代替わりした跡取り息子である異母兄も「子供が大きくなるまでは大変だろう」と言って、仕送りをしてくれていたのだ。
そんな父親と異母兄に可愛がられていたラングの話をエドから聞いたアリエスは、「よし、領主となった祝いとして恩赦を出そう」ということで、犯罪奴隷としてではなく、普通に給料を支払う従業員として、ラングを雇うことにしたのだった。
「あのオバハンは無理だな。故人とはいえ父親がやらかしたことのツケは払ってもらわねぇと、示しがつかねぇもん」
「……そうだな。レンとはパーティーを組んで信頼し合った仲間だったんだがな。さすがに娘のアデリナに勝手に出土品を渡していたということは看過できん」
遺跡のあった場所から調査村へと戻ることにしたアリエスは、エドにどうするのか聞いたところ、彼は普段から護衛に3日分の保存食を持たせて研究室へと送ってもらっており、帰るのは明日の予定だったと言う。
しかし、遺跡もなくなったし、そこにあった物は叡智ではなく禁忌であったことから、もう研究室に用はないと、アリエスたちと共に帰ることにしたのだった。
調査村へと帰ってきたのは昼食の時間を少し過ぎた頃であったため、テレーゼがいるであろうトビアスの家へと向かうことにしたアリエスは、エドも誘った。
研究室に明日までいる予定だったのが変更になったのは、遺跡がなくなったからなのだからと、アリエスなりに気を使ったのだ。
トビアス夫妻がいる家に着くと美味しそうな匂いが漂っており、食欲を刺激されたヘルマンの腹が鳴った。
「おっ、この匂いはうちの嫁さんの得意料理だな。これな、アデリナも好きだったんだよ」
「そうなのか!?うわ、楽しみだなー」
ほっぺがニヨつくのを止められないアリーたんは、ヘルマンに促されて家へと入って行ったのだが、中の光景に目をパチクリと瞬いて固まった。
両開きの扉の向こうにある食堂で、テレーゼが青年二人に土下座されていたからだった。
固まるアリエスたちに気付いたトビアスの妻が「ああっ、いいところに帰ってきてくれた!」と、安堵の息をついた。
テレーゼがやらかすとは思っていないアリエスは、彼女に大丈夫か聞くと、「問題ございません」と返ってきたのだが、問題ありありな青年二人は口を開こうとして、クラウスに剣を向けられた。
突然の狂気の沙汰に固まる家族一同。
この行動の意味が分かっているのはロッシュとエド、そして、現在進行形で剣を向けているクラウスくらいだろう。
アリエスも分かっていなければならないのだが、どういうことかと言えばレニ2号、3号が追加されるのを防ぐためである。
クラウスは怒気を孕んだ声で、「お前ら、アデリナの娘だからと気安い態度を取るでない。彼女は王女様であり、侯爵家のご当主様でもあられるのだ。そして、先程、ここの調査村と遺跡のあった森のご領主様となられた。許可なく勝手に発言することは、許さん!」と言って、青年二人を睨みつけた。
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