第四話 貰い物

 ウェルリアムに遺跡まで転移で送ってもらい、エドの度肝を抜いて、領主となったアリエス。

この短時間で何をどうしたらそうなると、アリエスの非常識さを知らない人たちは頭を抱えた。


 「おめでとうございます、アリエスアリー様」

「おめでとう、アリー!冒険者は引退か?」

「ありがとう、ロッシュ、ハインリッヒさん。冒険者かぁ……。手っ取り早く生活を安定させるためになったけど、楽なんだよなぁ。王侯貴族めんどい」

「まあ、冒険者資格持ってても邪魔にはならねぇからな。そのうちプラチナランクへの昇格試験を受けてもいいだろうし」

「そうだな。とりあえず、やらなきゃいけないことがあるから、そっちを片付けてしまおうか」


 アリエスはエドに国王からの書類を見せて、遺跡がある森と調査村が自身の領地になったこと、遺跡からの出土品を全て託されたことを再度説明し、全て隠さずに出すように言った。


 それを受けてエドは、出土品はリスト化して保管庫に入れてあるはずだと言い、盗まれたドロップキャンディーのような物が入っていた瓶は、中の物が変質していないかの確認のために持ち出して机の上に置いてあったということだった。


 エドの案内で保管庫にやって来たアリエスだったが、中にはそれほど物がなかった。

というのも、遺跡が見つかったのが先々代国王の時代で、その当時にある程度使えそうな物は運び出され、ここに残っているのはガラクタに近い物だとされていたからだった。


 「先程の飴玉は、いつの時代の物か分からぬようなものを口にしたくないと、どうせただの飴玉なのだからと、ここに放置されていたものなのじゃよ」

「なるほどな。レンという男がこれと同じものを持ち出して他人に渡しているんだが、心当たりはあるか?」

「ふむ。管理責任者として王族の方がいらしていた時期がございましてのぅ。その時に小遣い稼ぎに出土品を勝手に売っていたようで、それは恐らく口止め料でしょうな」

「そっか。その王族は?」

「バレて、ポーンじゃ」

「処刑されたのな」


 保管庫に残っていたオーブ入りの瓶は、盗まれそうになったものを合わせて4個だった。

ほとんどのオーブは「欠損」と表示されているが、中には「劣化版」と表示されている無事なものもあった。


 アリエスはオーブを消滅させるため、仕事に戻ったウェルリアムをヤエちゃんに再び呼んでもらい、ディメンションルームを展開したのだった。


 「何度も悪いな、リム」

「いえいえ、返しきれない恩もありますし、僕とアリエスさんの仲じゃないですか。それに義理とはいえ叔母と甥っ子ですし」

「そうか?そんなこと言ってると遠慮なくコキ使うぞ?」

「ははっ、大丈夫ですよ〜。アリエスさんのコキ使うなんて、陛下に比べたら……、ねぇ?」

「父ちゃんが、すまんな……」

「いえいえ!それでは、やっちゃいますか!」


 しばしハイライトの消えたウェルリアムであったが、呼び出された用件を思い出して、さっさと片付けることにしたのだった。


 ウェルリアムは、自身のインベントリから消滅機能付き宝箱を出すと、アリエスから手渡されたオーブ入りの瓶4つをそこに入れて蓋をした。


 「アリエスさん。いいですね?」

「ああ、頼む」

「では……、消滅っ!」


 消滅させた後、確認のためにもう一度蓋を開けると、そこは空っぽだったため、任務完了とアリエスの方へ振り向いたウェルリアムは目を見開いた。

彼女の薄い青色の瞳には金色の虹彩が入り、アッシュ系プラチナブロンドの髪には艶やかな黒色のメッシュが1本だけ帯のように入っており、雰囲気に少し威圧感が加わっていたのだ。


 「いきなり変わりましたね。というか、陛下には及ばないにしても似たような威圧感が追加されてますけど?それが加護の力なんでしょうか?」

「うん?そうなのか?あんまり実感ないけど」

「あぁ……、アリエスアリー様……。属性も兼ね備えた王族になられたのでございますね……」


 ロッシュが感極まってウルウルしているのだが、色気がとんでもないから早く正気に戻ってくれと内心で叫ぶアリエスとウェルリアム以外の人たち。

ここにテレーゼがいたら心臓が止まってしまっただろうと、ここにいないことに安堵するパーティーメンバーたちであった。


 所持属性としてステータスに表示されていたとしても、聖属性と闇属性の魔法を使えなかったアリエスは、試しに浄化魔法を使ってみた。

初めて使ったので大した効果がない程度のものではあったが、それでもキラキラと輝く金色の光がふわりと広がったことで、聖属性である浄化魔法を放てたことには違いなかった。


 それを見たアリエスは、「うわ……」と言ったきり固まってしまった。


 本当に使えるのだろうかと半信半疑だったというのもあるが、聖属性と闇属性が無いにも等しい状態であったからこそ王宮の離れで育ったのだ。

アリエスが功績をあげて王族になったとしても、離れ育ちで聖属性と闇属性を持たないに等しい彼女を見下す者もいた。

 それを全く気にしていなかったアリエスであったが、使えるようになって初めて気付いたのだ。


 「悔しいって……、思ってたんだな……」

「そうだとしても、何もおかしくはございませんよ」

「ロッシュも?」

「ええ、わたくしめも若い頃は悔しい思いをしましたとも。まあ、返り討ちにさせていただきましたが」

「ふふっ、ロッシュらしいな」

「ほっほっ、頂いたものは、誠意を持ってきちんとお返しいたしませんと、ねぇ?」

「ははっ、そうだな!」


 アリエスに笑顔が戻ってホッとした周囲は、彼女の新たな人生に幸あれと祈るのだった。





 

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