第三話 許可
泥棒がどこからこの瓶を持ってきたのか気になったアリエスは、それをクラウスに聞くと、遺跡の横にある研究室からだろうと答えた。
「遺跡が発見されてから何十年も経った今では調べ尽くされておるからな。研究室にいるのも物好きな年寄りばかりで警備が甘くなっておったのかもしれんな」
「そっか。でも、こんな危ねぇもんを持ち出されて気付かずにいるんじゃ、ちょっとシメた方がいいんじゃねぇかな?ていうか、他にも持ち出されたりしてねぇ?レンとかいうヤツも持ち出してるし」
「いや、レンに関しては恐らく協力者がおったはずだ。儂らが勝手に持ち出せるほど、その当時は警備が甘くなかったのでな」
なるほど、と頷いたアリエスは、まずはその研究室へと行くことにしたのだった。
古びた建物の前では一人の老人がウロウロとしており、近付いてきた集団の中にクラウスを見つけると、「大変じゃ、クラウス!出土品が一つ足りんっ、ゲホっゴホっ!!」と叫んでむせていた。
「落ち着かんか、エド。その足りないという出土品は瓶に入った飴玉のようなやつか?」
「ケホッ、そ、そうじゃ。なんじゃ、クラウスが持って行ったのか?さすがに王女様の祖父とはいえ、バレたらシャレにならんぞ?」
「馬鹿を言うでないわ!儂がそんなことをするわけがなかろうが!!」
「まあ、そうじゃよな。して、見慣れぬ顔ばかりじゃが、どういった用じゃ?」
エドと呼ばれた老人は、アリエスたちを見回して用件を尋ねたのだが、彼女たちは遺跡を見物がてら遊びに来たところで泥棒を捕まえたと答えた。
それを聞いて安堵したエドは、持ち出された瓶を返却するように言ったのだが、アリエスは管理不行き届きを理由にそれを拒否し、身分を証明するものを3つ取り出したのだった。
「うぅむ、しかしのぅ。いくら国王陛下からの手形や他にも身分を証明するものを出されようとも出土品は王家のものじゃからな。私の一存で、『はい、そうですか』と渡すわけにはいかんのじゃよ。紛失しといて何じゃがの」
「あんたは、これが何だと思ってるんだ?」
「ただの飴玉じゃろう?鑑定でもそう出たので間違いないはずじゃ。許可を得て試しに食べてみたが誰もおかしな事にはならなかったしのぅ」
「そうか……。国王陛下の許可があれば良いんだな?」
「もちろんじゃ」
エドからそう言われたアリエスは、瓶をロッシュに預けるとディメンションルームを展開し、ヘアバンドのようにして頭に張り付いているヤエちゃんにウェルリアムを呼び出してほしいと頼んだ。
それほど間を置かずにディメンションルームから出てきたウェルリアムは周囲を見回して、この状況でディメンションルームを展開して自分を呼んだということは、相当なことが起きていると判断した。
「リム、急で悪いけど、お父様のところへ連れて行って」
「っ。か、かしこまりました」
「許可がいるなら取ってくる。ロッシュ、その瓶のこと、お願いね?」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
「うん、いってきます」
ウェルリアムの転移によって運ばれたのは、嗅いだことのある匂いがしている寝室であった。
何故に寝室へと運ばれたのかキョトンとしているアリエスにウェルリアムは、「ここは陛下の執務室内にある仮眠室です」と言った。
「え。え?そういう関係?」
「んなわけないでしょ!?隠し通路を使って移動した際にここから行ったんです!ちょっと待っていて下さいね」
あらぬ疑いをかけられて仰天したウェルリアムは、アリエスを連れて来たことを知らせるために部屋から出て行ったのだった。
仮眠室から現れたウェルリアムに国王は、「何が起きた?」と臨戦態勢に入った。
彼は国王に近付くと小声で「仮眠室にアリエスさんがおられます」とだけ答えた。
何が起きて人前でディメンションルームを展開してまで呼ばれたのかは分からないが、アリエスの様子から急いだ方が良いと判断したため、何も聞いていないのだ。
国王とウェルリアムの様子にただごとではないと判断した側近たちは、固唾を飲んで待機していたが、国王が無言で仮眠室へと行き、ウェルリアムは執務室に備え付けてある給湯室で勝手知ったる我が家といった様子でお茶を準備して、くつろぎ始めてしまったため、側近たちは困惑するしかなかった。
仮眠室の扉を開けて国王が入ってくるとアリエスは、鼻声で「父ちゃん……」と言って抱きついた。
思わぬ愛娘の行動に相好を崩す国王の様子を誰にも見られなくて良かったと思うぞ。
アリエスは、調査村で起きたことを順に話していき、ただの飴玉だと思われていたものが、とんでもない物であったことを説明した。
「どうしたい?」
「あんなの、あっちゃいけない。不義のもとになるし、母親が可哀想だ」
「そうだな。夫とは別の男との間に出来た子供でも、事前にそのオーブを体内に取り込んでいれば誤魔化せる」
「敵の手に渡れば魔法兵士の量産にもなるし。それにオーブは神の領域だよね?」
「だろうな。……リゼ、行くぞ」
国王はアリエスを抱き上げるとスタスタと隠し通路を使って、金の鳥居がある庭へとやって来たのだった。
鳥居前でパァーーーンっ!と手を叩いて神を降臨させたことで、閃光目潰しをくらったアリエスは、「父ちゃん、まぶしいなら先に言って……」と、目をしょぼしょぼさせていたのだが、国王は眩しくないので知らなかったのだ。
「すまん、リゼ」
「ううん、大丈夫」
「ちょっと、呼び出した神様放置してイチャつかないでくれるかい?」
「すまん。オーブのことを聞きに来たのだが、廃棄した方が良いか?」
「そうしてくれると、ありがたいね。あれは、あってはならない物だ。滅ぼしたはずなのに、しぶといったらないね」
神の領域に手をかけた者を許すはずもなく国ごと消滅させたはずなのに、
唯一、女性で取り込んだ
「じゃあ、リム、ウェルリアムにあげた宝箱を使えば良い?消滅機能があるんだけど……」
「ああ、あれね。うん、それで消滅させれば大丈夫だから。……アリーたん、今聞くのもあれかもしれないけれど、幸せかい?」
「え、うん。幸せだよ。お母様はもういないけど、ちゃんと思い出もあるし、父ちゃんも、じいちゃんだって、他にも親戚がいっぱいいる。やりたいようにさせてくれる頼もしい仲間もいるし。本当に幸せだよ。ありがとう、神様」
「うんうん、そっか。よかった、よかった」
守護神から急にアリーたんと呼ばれて困惑した様子であったが、そんなところも可愛いのである。
人工オーブの廃棄が終わった時点でアリエスには、守護神から感謝を込めて加護が与えられることになり、聖属性と闇属性が強化されることが伝えられた。
「強化された後であれば、アリーたんと同等以上の相手であれば上級貴族として十分な属性能力を持った子が出来ると思うよ」
「そうなのか。今のところ予定はないけど、ありがとうございます」
「別に産まんでもいいぞ」
「ふふっ、父ちゃん子供も孫もいっぱいいるもんな」
「……どうしても一緒になりたいヤツがいれば連れて来い」
20代も半ばになっている
アリエスがオーブの廃棄命令を受けたことで国王は、執務室へ戻るとさっそく書類を仕上げた。
それは、調査村と遺跡がある森をエストレーラ侯爵領とすること、出土品の全てをヴァレンティア・サラ・エストレーラ侯爵ことアリエスに託すというものであった。
爵位を与えるついでに名前も新たにつけたのは、有象無象がアリエスの名前を呼ぶのを嫌がったからだろう。
そして、その書類を渡されたアリエスは、「領地なんて、どうしていいか分かんないよ?」と困った顔をしたので、「祖父のクラウスに任せればいい」と丸投げさせた。
こうして、僅か30分にも満たない時間でアリエスは
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