第二話 謎の解明
ようやく落ち着いたアリエスは、取り乱したことを皆に謝ると、捕縛した泥棒が失神していることに気付いたので、今のうちに話してしまうことにした。
泥棒が懐に入れていた瓶に入っていたのは「属性付与(劣化版)」のオーブだった。
アリエスやウェルリアムが転生者特典で得たように、オーブは神の領域である。
そのオーブは劣化版とはいえ女性が体内に取り込んだ後で妊娠、出産をすると、取り込んだオーブの属性を持った子が生まれるのだ。
そこまでのことが出来て何故に劣化版なのかというと、このオーブで付与された属性は次の世代には遺伝せず、母体は産後、長くても15年ほどで死亡し、その遺体には緑色の斑点が現れるのだ。
それはアリエスの母アデリナが亡くなったときの特徴と一致するのだが、彼女の身体に緑色の斑点があったことをアリエスは知らないはずなのに、何故そこに繋がったかというと、その瓶の中に「雷属性付与オーブ(欠損)、炎属性付与オーブ(劣化版)、聖属性付与オーブ(欠損)」などといった具合で入っていたからである。
属性能力は低い方に引っ張られるため、アリエスの所持属性はどれも母親に似て低くなるはずなのに、彼女は両親が持っていない氷、炎、雷の属性能力があり、しかもその3つの能力値はべらぼうに高く、父親から受け継いだ聖と闇は持っているとはいえないほどの低い能力値しかない。
しかも、この遺跡は母アデリナの故郷である調査村に近く、これらのことを繋ぎ合わせれば母アデリナがこのオーブを食べた可能性が高いのだが、アリエスがブチ切れたのは、このオーブを使うことで母体が産後15年ほどしかもたない、というところであった。
そんなリスクを負わせてまで使うつもりでいるのか、誰に使うつもりだ!という感じでブチ切れていたのだが、ここでルナールから「あのね、アリエス様。泥棒には2種類いてね。物の価値を分かっていて盗むヤツと、とりあえず金になると思って盗むヤツがいるの。そのドロップキャンディーみたいなのが高値で売れるかどうかは、買う側の鑑定によるわよ?」と、もっともなことを言われたのだった。
「頭に血が上っていたのと動揺してたのとで、そこに思い至らなかったわ、マジで。私みたいに詳細に鑑定できるヤツなんて、そんなにいないもんな。でも、やっぱりお母様が亡くなったのは……、毒も原因だったんだよな……」
「アリーよ、本当なのか?アデリナが、それと同じものを口にしたのは。それに、死因も……」
「クラウス殿、虚偽の報告をいたしましたこと、誠に申し訳ございませんでした」
「いや、ロッシュ殿を責めておるわけではないのだ。死因がどちらにしろアデリナが帰って来るわけでもないし、今の話を聞けばどの道それほど長くはなかったようだからな……」
重苦しい雰囲気が漂う中、ヘルマンが「あっ!」と何かを思い出したかのように声を上げた。
「そういやアイツ、ニコニコしながらそんなの食ってたぞ!飴なんてどこで手に入れたんだって聞いたら『レンおじさんから貰ったのー』とか言って」
「なんだとっ!!?確かなのか!?」
「あ、ああ間違いねぇって。その瓶と似たようなのをアデリナも持ってて、たまにポリポリ食ってたぞ?」
「ポリポリって、いくつも食べておったのか!?何故、止めなかった、ヘルマン!!」
「何でって、何でレンおじさんから貰った飴を食うのを止め……、いや、出土品だったのか……。うわ……、マジかよ」
この遺跡がある森も調査村も王家の管理下にあるため、出土品の権利も王家にある。
その出土品を勝手にレンはアデリナに渡し、それを彼女は食べてしまっていたのだから、クラウスが慌てるのも当然であった。
「また極刑案件かよ……。そのレンってやつ、どこにいるんだ?」
「既に死んどる。……レニの父親だ」
「親子揃ってロクなことしねぇ……。まあ、お母様に関しては食べたあとに国王の子を産んだんだから、その辺はギリギリセーフに出来るけど、レンってヤツの方は無理だな。はぁ、犯罪奴隷で済ますはずだったけど、さすがに無理だわ、これ」
「これに関しては村人も黙ってはおらんだろう。下手をすれば村民全てに累が及ぶのだから」
遺跡に来るまではピクニック気分だったのに、今日の曇り空のようにどんよりとした雰囲気になっている。
アリエスは、ずっと謎に思っていた。
最初は祖父母からの遺伝かとも思ったが、属性能力は低い方に引っ張られるため、それは有り得ないと判断した。
それならば転生者だからかもしれないと思ったが、ウェルリアムは両親から遺伝したものしか持っていなかったし、もう一人の転生者である
これでやっと自身の所持属性がどこから来たのか分かったアリエスは、気持ちを切り替えた。
こんなものを世に出すことを防げたし、転生者特典で万物鑑定を得ていたとしても母アデリナの死を回避できなかったことが判明したからである。
母アデリナに毒を盛って僅かにしか残っていなかった寿命を更に縮めた人物には腹が立つが、既に処分された後だろうから、考えるだけ無駄だということにしたのだ。
過ぎたこととはいえ、中身をきちんと調べていないものを、しかも出土品をアデリナに渡したレンに憤りを感じるクラウスと、「美味しいものを貰えて良かったな」などと暢気なことを言わずにちゃんと確認すれば良かったと後悔するヘルマン。
しばらく、ぐぬぬぬ……と暗雲を背負っていたが、アリエスにむぎゅっと抱きつかれたクラウスとヘルマンは、逝ってしまった者ではなく生きている者に意識を向けようと、何とか気持ちを切り替えようとしたのだった。
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