7 誕生秘話
第一話 最適解
たいした戦闘もなく遺跡に到着したアリエスは、「ただのピクニックだったな」と、少しつまらなさそうであった。そういうところは、どこぞの父ちゃんそっくりである。
遠目に見るとただの
クララのつぶやきを拾ったアリエスは、「確かにな。宗教的な何かだったのか?」と、万物鑑定してみようとしたところでルナールから小声で、「あっち!あそこにいるの泥棒よ!」と声をかけられた。
ルナールにそう言われたアリエスは咄嗟に、「コメット、捕縛!」と指示を出した。
それを受けてコメットは、特殊スキル破邪の矢で強い衝撃が加わると捕縛ネットが弾けて対象を捕獲することが出来る魔道具を放った。
その魔道具はミストとブラッディ・ライアンのお手製で、魔力とスキルを封印するえげつない代物であったが、恐ろしく高価な上に使い捨てである。
それを何の躊躇もなく使ったのは、アリエスの指示だからなのだが、彼女からの指示が出た場合、即座に最適解の行動を取れるように常日頃からシミュレーションを欠かさずにしていたのである。
ぐぁああっ!!?という悲鳴を上げて捕縛ネットに絡め取られた泥棒らしき人物の懐からは、大人の握り拳ほどの大きさをした瓶が覗いており、中にはドロップキャンディーのような物が入っていた。
それを見たアリエスは何を盗んだのだろうかと万物鑑定してみたのだが、それが何か分かった瞬間、捕縛ネットの中でウゴウゴしている泥棒に向かってブチ切れた。
「……なぁ、お前。これ盗んでどうするつもりだったんだよ?なぁ、答えろよ。人が質問してんだから答えねぇかっ!!」
「お、おい、アリー、いきなり胸ぐら掴んでどうした?ていうか、殺気をしまえ!じゃねぇと話にならんだろ!」
「るせぇっ!答えろよ、クソがっ!!」
ハインリッヒが落ち着くように言っても止まらず、このままでは相手を殺してしまうのではないかというほどのブチ切れ方をしているアリエスを見て、何故かコメットはポーチから、おやつにと持たされていたドロップキャンディーを出してオロオロしている。
それをルナールが「コメット、アリエス様はキャンディーが欲しくてキレてるわけじゃないのよ。ね?仕舞いましょう?」と、コメットの肩に手を置いて温かい笑顔を浮かべたのだった。
アリエスが正気を失うほどのブチ切れ方をしたのは、泥棒の懐から出てきた瓶に入っている、見た目はドロップキャンディーのような物が何か知って動揺しているからだった。
これは、ただごとではないと判断したロッシュは、捕縛ネットで雁字搦めになっている泥棒の胸ぐらを掴むアリエスの手に優しく自分の手を添え、後ろからゆっくりと彼女を抱きしめた。
「すぐに殺してしまっては面白くございませんよ。こういうことは、ゆっくりと楽しみませんと。ねぇ、アリー」
「ロッシュ……?」
「ほっほっ、初めて敬称を付けずにお呼びさせていただきましたねぇ」
「ふふっ、そうだね。なんか、くすぐったい」
ロッシュの頼もしい胸板に頭を預けたアリエスは、掴んでいた泥棒をドサっと放り、ゆっくり振り向くと彼にしがみつき、嗚咽を堪えた声で「ねぇ、ロッシュ……。おかあさまの、ね。身体に……、緑の斑点……あった?」と尋ねた。
それを聞かれてロッシュは、ほんの僅かに身じろぎをして重苦しい雰囲気で答えた。
「……ございました。亡くなられたアデリナさんの体には、無数の緑色の斑点がございました」
「そっか……。毒……だと思ったん、だね。だから……、私に見せずに……」
「左様にございます。……とても、お見せ出来る状態ではないと判断し、夏であるということを口実にすぐに埋葬いたしました」
「うん……、うん、わかってる。ロッシュが私を想ってしてくれたことだって……、ちゃんと分かってる。あのときは……、知らずにいた方が良かったって、今でも思うから……」
二人の会話でアデリナが「夏風邪をこじらせて亡くなった」のではないのだと察したクラウスとヘルマンは、あまりのことに身動きもできず、声も出せなかった。
そして、初めてアリエスに拒絶されたハインリッヒは、しゃがんでイジけていた。「るせぇ!だって。反抗期かな?兄ちゃんどうすればいいかな?」と、背中にシメジを生やしており、大型犬サイズになったベアトリクスにぽんぽんされて頭が土まみれになり、ほっぺに隠していたナッツをサスケから進呈され、少年サイズになった牙精霊のファングが肩を叩いて慰めているのだが、ジャオは未だにアリエスの谷間で丸いクリっとした目を更にまぁるくして驚きで固まったままであった。
ハインリッヒの様子に気付いたアリエスは、ロッシュとお手手をつないだまま彼に近寄ると、「ハインリッヒさん、ごめん。さすがに、兄ちゃんではなく、"おいちゃん"だと思う」と言った。照れ隠しにしても酷いチョイスである。
ごふぅっ……と崩れ落ちたハインリッヒにクスクス笑ったアリエスをパーティーメンバーはホッとした様子で見ていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます