第十一話 村人たちの反応

 アリエスは、母アデリナの幼馴染であるレニを不敬罪として捕らえることにして、その夫ラングにも連座での処分を下した。

処分の内容はというと、犯罪奴隷ということにしたので、本来ならば国へ引き渡されることになるのだが、ラングだけはミーテレーノ伯爵領で始めるアリエスがオーナーの宿屋へと送られることになっている。


 祖父のクラウスに免じて一族郎党ではなく夫婦二人の処分で留めたということにしたので、その旨と経緯をラングには自身の子供たちへと手紙に書いてもらった。


 「えっと。犯罪奴隷になったことを思い出さなければ、引き抜かれたように思えるのは気のせいですか?」

「うんにゃ、気のせいじゃねぇよ?散らかった室内を手早く片付けたのを見て『イケる!』と思ってさ。どうせ不敬罪で処分しなきゃなんないなら、新しく始める宿屋で働いてもらえば助かるかなって」

「なるほど。まあ、結婚するまでレニが癇癪持ちだって知らなかったですからねぇ。ことある毎に暴れるから片付けるのは得意ですよ」

「うまいこと騙されちまったわけか。あ、そうそう。子供たちが作ってくれたって品な。あれ、うちの修繕師カミロに頼んでみるよ。完全に元通りというわけにはいかないかもしれないけど、多少は直るだろ」

「本当ですかっ!!?ありがとうございます!!あっ……、でも、荷物って持って行けないんじゃ?俺、犯罪奴隷ですよね?」


 しょんぼりとするラングにアリエスは、ミーテレーノ伯爵領までは犯罪奴隷として連れて行かれるが、そこから先は自分アリエスの管理下に置かれるため、荷物は後々届けるので持って行きたいものは全部用意するようにと言った。

それを聞いてラングは、「俺、犯罪奴隷だよね?高待遇で転職しに行くわけじゃないよね?」と困惑していたが、衣食住はちゃんとしてもらえるが犯罪奴隷なので給料は出ない。


 不敬罪となったレニは、ヘルマンが呼んできた兵士によって、村にある犯罪者を入れておく場所に放り込まれている。

ラングと違って最後まで謝罪もなければ、クラウスやトビアスに助けてと言って縋りつこうとしていたためだった。


 調査村に駐在している兵士によって引きずられながら連行されたレニを村人は眺めていたのだが、その中にレニを思いやっているような顔をした者は誰一人としていなかった。

ざまあみろと言わんばかりの顔をした者、とうとうやらかしたと憐憫の目を向ける者、シラケた顔をした者と、レニに処分が下されることに異を唱える者は出なかったのだ。


 レニの亡くなった父親もこの村に貢献してくれた一人であったが、一人娘のレニを甘やかして育ててしまった。

そのため、村人は貢献に対する感謝よりも負の感情の方が強くなっており、彼女を庇う者はいなかったのだ。


 思ったほど村人からの反感や敵意がないことに拍子抜けしたアリエスは、これなら祖父たち家族が居心地の悪い思いをしなくて済むとホッとしていたのだが、村人たちにとってレニは鼻つまみ者であったが、ラングはいい人だったのだ。

レニがやらかしたことの尻拭いや癇癪などに振り回されていた彼を村人たちは不憫に思っていたため、いつか彼にもいい事がありますようにと祈っていたところにこの騒動だった。


 ラングは連座での犯罪奴隷となるけれど、アリエスがオーナーになる宿屋へ行くことになり、子供たちや友人が会いに来れば普通に面会できると聞かされ、村人はクラウスの孫娘であるアリエスのことを受け入れてくれた。

そのため、このまましばらく滞在することを選んだ彼女は、明日はさっそく遺跡へ行ってみたいと言い、それならば案内してやるということでクラウスと一緒に行くことになった。


 ちなみにトビアスの妻は、アリエスがレニの処分を決めたので、義母から受け継いだ直伝の特製スープを仕込むために家へと戻っており、レニの本性を知って気分的に地の底までめり込んだ夫トビアスのことは放置していた。

トビアスの妻は、あれほど口を酸っぱくしてレニのことを言っておいたのに聞かないからだと鼻で笑っている。


 祖父たちと別れて北側にある宿泊施設へとやって来たアリエスは、待機していたパーティー"ギベオン"のメンバーを連れてディメンションルームへと入ると、用意されていた美味しい夕飯を食べて眠りについたのだった。


 翌朝、生憎の曇り空ではあったが、雨が降る様子もなかったので、そのまま遺跡に向けて出発することになった。


 コテージには自分がいない間にウェルリアムが訪ねて来たら渡しておいてほしいと、今回起きたこととそれに対する要望を書いた手紙を残しており、留守番にビーネとゾラ、彼ら二人の息子キート、臨月のクリステールと彼女の兄フリードリヒと姉グレーテル、ラングのために壊れた思い出の品を直す作業があるカミロと、そのお手伝いにミストとブラッディ・ライアンが残っている。

レベッカから預かって雇うことになっている元帝国の犬メラムことシャルドンと、ホラムことトラントの夫婦もディメンションルーム内にあるコテージにて待機しているのだが、彼らは宿屋の経営者になるフリードリヒと業務内容について話をしたり、メニューを試作したりしており、たまにアリエスが用意した書籍を参考にしているため、この世界では異色の宿屋になりそうである。


 そして、アリエスはというと、不測の事態に陥っても大丈夫なように頭上には牙精霊ファング、右肩には仔猫サイズになったベアトリクス、左肩には「目玉は俺のもんだ!」が座右の銘であるストーンチップのサスケ、豊かな胸の谷間には野球ボールサイズとなったオオサンショウウオのような見た目をしたジャオが挟まって待機モードになっている。寝るな、ジャオ。気持ちいいのだとは思うが、起きろ。


 それを見たハインリッヒは、「アリー、なんかお前の装備わちゃわちゃしてんな!」と笑ったのだった。


 盾役にオネェのダーム、斥候に闇精霊使いのルナール、前衛アタッカーにハインリッヒとクイユ、遊撃にカルラ、中衛に回復要員のクララとその護衛にスクアーロとミロワール、後衛にコメットとその護衛にルシオという配置で、アリエスは好きなように動くため、それにロッシュが付き合う形となっている。

そんな様子を見て祖父クラウスと伯父ヘルマンは、「そんなガチガチに固めなきゃならんほどのものは出ないぞ」と、呆れ顔であった。


 ちなみにテレーゼは、トビアスの妻を筆頭にアリエスの母方の家族から「実家の味付け」を習得するために村に残っている。


 アリエスに会いたくて、もみくちゃにしたいほど可愛がりたかった他の伯父と伯母たちは、彼女が王女だということで躊躇しているうちにレニがやらかしてしまい、タイミングを逃してしまったのだ。


 しかし、テレーゼからアリエスは人に囲まれることがあまり好きではないということを聞かされ、もみくちゃにしに行かなくて良かったと、ホッとしていたのだった。





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