第七話 アデリナの娘
伯父ヘルマンはノックもなく玄関扉を開けると大声で「トビアスっ!いるかー?」と言いながら中へと入って行った。
母親の兄弟が住んでいるとはいえ勝手に入って行かない分別はあるアリエスは、ロッシュたちと共に玄関で待機しようとしていたのだが、祖父クラウスが「王女様を玄関に立たせておくわけにはいかん」と言って聞かなかったので、中へと入ることにした。
所々に修繕のあとが見える古く
「ちょっとヘルマン義兄さん!何でそんな普通に王女様を家へ連れて来るのよ!?」
「そうだぞ兄貴!準備ってものがあんだろうがよ!!」
「お前らは何を言ってんだ。アデリナの娘だぞ?そんなこと気にしねぇよ」
「王女様が気にしなくても俺らがするわ!」
「あぁ〜……っ、何で今日に限って晩ご飯を残り物で済ませようとしたのよ、さっきまでの私ぃーーーーっ!!アデリナちゃんの娘様が来るなら、たくさんご馳走を用意したのにっ!!」
「すればいいじゃないか」
「ヘルマン義兄さん無茶言わないで!お義母さん直伝の特製シチューは仕込みに10日かかるのよ!?せっかくなら食べさせてあげたいじゃない!」
頭をかきむしる勢いの弟夫婦をよそにヘルマンは、「別に10日くらいどうってことないだろ?なぁ、アリー?」と、顔を覗かせていたアリエスの方へ振り向いて声をかけた。
「うん。特に予定とかもないから全然平気だぞ?」
「ほらな?冒険者なんだから、依頼を受けてさえいなけりゃどうとでもなるって」
「え?冒険者?兄貴、どういうことだよ?」
アデリナの産んだ娘が王女となって訪ねてきたという話をヘルマンから聞かされた弟のトビアスは、冒険者という単語で更に混乱してしまった。
アリエスは、13歳で冒険者になり、成人後もそのまま冒険者として活動していたが、やることなすことが何故か国に貢献した形になってしまったので、褒美の一部として王族入りになったことと、その後に更に功績をあげたことで侯爵位も追加されたことを簡単に説明した。
「だからといって何も変わらねぇけどな。今も冒険者として生活してるし」
「そ、そうなのか。それじゃあ、普通にアリーと呼んでもいいのか?」
「うん、その方が私も楽だからな。てことで、改めてヨロシクな、トビアス伯父さん!」
「お、おう、ヨロシクな、アリー!」
本当に王女を「アリー」と気安く呼んでもいいのか半信半疑なトビアス夫妻であったが、アリエスの後ろにいるロッシュたちが何も言わないので、それで良いのだろうということにした。
少し緊張がほぐれたところでアリエスは、祖父クラウスにどうして何の連絡もくれなかったのか聞いてみたのだが、その答えは「恐れ多い」というものだった。
クラウスが一代限りの男爵位を賜わったのは、この森に隠された遺跡を発見したからだった。
もちろん、そのときには仲間も一緒にいたのだが、誰もが王都にある城で国王から直々に男爵位を賜わることを恐れ多いと逃げ、恨みっこナシでくじ引きをした結果、クラウスに決まったのだ。
そんな経緯で男爵となったクラウスだったが、元は冒険者だったため、遺跡調査にやって来た学者たちの護衛を仲間と共に引き受けることとなった。
それほど大変な仕事でもないのに与えられる賃金は良かったため、クラウスたちは早々に結婚して子供をもうけ、安定した暮らしを始めた。
そして、幼馴染を追い掛けて行ったはずの三女アデリナが王宮でメイドになり、国王の子を身ごもったと連絡してきたのだが、その後の手紙で生まれた娘が属性能力の足りない準王族であったため、この子が成人したら一緒に実家へ帰ると言ってきていた。
成人後は平民になるとはいえ、今は準王族であることに変わりはないと、クラウスは孫娘だというのに恐れ多くて彼女宛に手紙など書けなかったのだ。
アデリナからは問題なく日々を過ごしているという連絡が来ていたため、孫娘と交流を持つのはこちらへ来てからにしようと、クラウスはちょっと逃げてしまった。
しかし、城からアデリナが亡くなったという知らせが入った。
孫娘が準王族であったためアデリナは後宮入りすることなくメイドの仕事に復帰していたのは知っていたが、まさか死因が夏風邪をこじらせたからだという連絡に「アイツらしいな」と、子供たちや仲間と少し笑って涙を飲み込んだのだが、孫娘のことが気にならないわけではなかった。
アデリナ亡き後、どうやって孫娘に連絡を取っていいのか分からず、右往左往しているうちに王宮から孫娘が冒険者として独り立ちしたことを知らされた。
王宮の離れを巣立ってしまったことで連絡を取る手段がなくなったことに気付いたクラウスは愕然とし、「もっと早くに手紙を送っておけば良かった」と後悔した。
だが、もしかしたらアデリナへ送った手紙を頼りに訪ねて来てくれるかもしれないと、小さな希望を抱いて過ごしていたと言うクラウスにアリエスは、首を傾げた。
「なあ、ロッシュ。お母様の遺品に手紙なんてあったか?」
「いいえ、ございませんでした。メイド仲間の話によれば、読んだ手紙を取っておくということをしなかったそうです」
「ということは、世襲制の男爵になっていなければ、
「ほっほっ、
「ああ……、リムがいれば移動なんてあっという間だもんな」
国王が何を置いてでも叶えると言い切るロッシュに、それを当然のこととして受け入れているアリエスに、クラウスとトビアス夫妻は白目になった。
アデリナは何を生んだのだろうか、と。
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