第五話 調査村

 グラントゥルコ侯爵家のことを片付けたアリエスたちは、帝国との国境付近にある西の森へと向かっていた。

その森の中で遺跡が発見され、それの調査団に加わっているというアリエスの母方の祖父に会いに行くためだった。


 遺跡が発見されたという森の入り口へ到着したアリエスは、遺跡までは徒歩になると知って少しワクワクしていた。

最近は大人しくしていたので、久々に暴れたいのだろう。


 到着した翌日の朝早くから行動を開始したアリエスたちパーティー"ギベオン"のメンバーは、ちょいちょい戦闘を挟みつつ森の奥へと向かっていた。

それほど広くない道で見通しもあまり良くないのだが、彼らには大した問題ではなく、順調に進んでいる。


 遺跡があるとされている場所には小さな調査村というものが出来ており、そこを拠点として森の外から物資や人を運んだりしており、冒険者ギルドからも荷運びの依頼が出されている。


 お金に困っていないアリエスたちは依頼を受けるつもりはなかったのだが、遺跡のことを聞きに行った際に急ぎで持って行ってほしいものがあると、それを村の入り口にいる門番へと渡してくれればいいからと頼まれたために、珍しく冒険者ギルドの仕事を引き受けた。

その急ぎの品というのは手紙で、なるべく早く届けたくて移動速度の早い冒険者を探していたところにアリエスたちがやって来たのだ。


 周囲を警戒しながらアリエスは、「精霊馬アマデオがいるからって頼んで来たけど、実際は私らだって歩きなのにな」とボヤいた。

それに対してハインリッヒは、「そうだとしても俺らほどの速度で移動できるヤツなんていねぇよ」と笑ったのだった。


 普通の冒険者であれば5日から1週間かかる道のりを3日でたどり着いたアリエスたちは、魔物除けの魔道具が設置されている村の入り口で急ぎの品を持って来たことを門番に伝えた。


 「確かに受け取った。宿泊施設は村の北側にあるだけで、どこも設備は同じようなものだからな」

「そうなのか。あ、そうだ、クラウスってじいさん知らないか?」

「…………クラウスさんに、何の用だ?」

「用ってほどのことじゃねぇけど、じいちゃんに会いに来たんだよ」

「……どいうことだ?じいちゃん?」

「私の母親の父親がクラウスなんだってさ」


 アリエスの言葉を聞いた門番は、「はぁ……。そんなすぐバレるような嘘をつくな。クラウスさんのご家族は皆ここにいるんだぞ?君の母親は本当にクラウスさんの娘なのか?」と、小馬鹿にしたように尋ねてきた。


 イラっときたアリエスは伝家の宝刀をズバっと抜いた。

「俺の娘……以下略」の国王父ちゃんからの手形、王女を表す手形、エストレーラ侯爵家当主を表す手形の3つを掲げた。出し過ぎである。

 

 そんなものを3つも見せられて腰を抜かした門番に村人が気付いて、何があったのか聞きに来た。

その中にはクラウスという人物の息子、つまりアリエスの伯父もいたのである。


 「どうした?何があった?」

「あ……あぁ、あのっ」

「落ち着け。……君が門番である彼に何かしたのか?」

「はぁ!?何でそうなるんだよ!マジでうぜぇな!じいちゃんに会いに来ただけだって言ってんのに!!」

「じいちゃん……?君のおじいさんがここにいるのか?」

「そうだよ。父ちゃんがここにいるって言うから会いに来たんだよ。名前はクラウスだよ」

「クラウスって……、俺の親父だな」

「てことは、あんた、お母様の兄貴か?」

「口が悪いのに、そこだけお母様なのか……」


 変なところに食いつくアリエスの伯父であった。


 何故に門番が腰を抜かしているのか知った伯父は盛大に吹き出して大爆笑した。

「おまっ、ありえねぇだろ!どれか1個で十分だろうが!ギャハハハ!マジで、そういうところアデリナそっくり!ぶはっ!や、やべぇ、懐かしいわっ、くくくっ」

「そ、そうか?そんなにお母様に似てるか?そうかな?」


 似てると言われて照れつつも喜ぶアリエスを見て更に笑う伯父。

それを見た周囲も「なんだ身内だったのか」と、けぇるべけぇるべと去っていったのだった。


 ひとしきり笑った伯父は名前をヘルマンといい、アリエスたちと自己紹介しながら彼の自宅へと向かっていた。


 「そうか。もうアデリナが死んでから15年も経ったのか。早いもんだな」

「うん。あっという間だったよ。そういや門番が家族全員ここにいるって言ってたけど、何でお母様だけ王宮でメイドしてたんだ?」

「あぁー、それなぁ。話せば長くなるが、短く言えばすれ違いだな」

「なんじゃそりゃ」


 アリエスの母アデリナは、王都へ行って一旗揚げるんだ!みたいなことを言ってこの村を出て行った幼馴染が心配になり追い掛けたのだが、何故かその幼馴染を追い越して先に王都に着いてしまった。

王都に着いたアデリナは幼馴染を捜して駆けずり回ったがどこにもおらず、「もしかして途中で魔物か盗賊にでも襲われたのでは!?」という結論に至ってしまい、その幼馴染の痕跡を少しでも探すために冒険者ギルドへ捜索を依頼しに行ったのだが、行方不明者の捜索依頼というのはかなり料金が高く、とてもではないが払えなかったために彼女は働き口を探して、その結果、王宮へメイドとして就職できたのだ。


 父親が一代限りの男爵位を持っており洗浄魔法が得意であったため、すぐに採用されたのだが、その半年後にアリエスを身ごもったためにメイドを続けられず、捜索の依頼料を貯められずにいた。


 そんなことがあった頃にやっと幼馴染が王都へとたどり着き、育った村へと到着の知らせを送ったのだが、その返事の内容が自分を追いかけてアデリナが王都へ行ったということ、しかも自分よりも半年以上も早く着いていること、王宮でメイドになっていることを知って愕然としたのだ。


 一旗揚げるつもりの自分よりもイイ感じの人生を送れているアデリナ。

負けるもんかと頑張って必死になっているところへ村から今度は彼女が国王の子を身ごもったということを知らされた。


 完敗だと悔し涙を流した幼馴染は、そのまま村へと帰ってきた、というのがオチであった。


 それを聞いたアリエスは、「お母様は幼馴染が生きてたこと知ってたのか?」と、伯父であるヘルマンに聞いた。


 「ああ、知ってたぞ。ちゃんと手紙を送ったし、それに対しての返事もあったからな」

「そっか。でも、何で後から出発したのに半年も先に着いたんだろうな」

「ああ、それなんだけどな。娘のお前に言う話じゃねぇけど、アイツあの乳だろ?下心満載な男共が甲斐甲斐しく世話しながら連れてってくれてよ。そんで、あわや貞操の危機!てところで違う男が助けに入ってを繰り返して無事に王都まで行けたんだよ。中には馬車を持ってるヤツとかもいたらしいからな」

「ああ〜、お母様って天然なところあったもんなぁ」


 懐かしさに涙を滲ませたアリエスは、伯父ヘルマンに母アデリナの話をねだったのだった。


 


 

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