閑話 帝国の今

 ここは、帝国の城にある一室。

そこには疲れきった顔をした青年と、苦笑いを浮かべる壮年の男性がいた。


 「なあ、父上。本当にハルルエスタート王国からの輿入れは望めないのか?」

「ああ、無理だな。年頃が合わないというのもあるが、こちらから賠償金を支払わねばならぬのだから無理だろう」

「はぁ〜……。あの子は?ハルルエスタート王国の国王が溺愛していると噂の。年頃なら合うんじゃないか?」

「それこそ望めば全面戦争になるわ!」

「やっぱ無理か〜……」


 女帝の懐刀だった先代アラムを嵌めて亡きものにしたことで、クーデターを起こせそうだと準備を始めたが、皇太后の実家が持っていた切り札のせいで逆に追い詰められていた。

しかし、原因は分からないがその切り札が消失したことで、彼らはクーデターに踏み切ったのだった。


 クーデターの主導者である壮年の男性は、年齢を理由に帝位を自身の息子である目の前の青年へと譲っており、彼が皇帝になることが決まっている。

そんな二人にイラムからアラムとなった今代アラムが声をかけてきた。


 「ハルルエスタート王国に、マディアという名の当たると有名な占い師がいるそうなのですが、関係ありそうだとは思いませんか?」

「男なのか?」

「いえ、女性ですが、女体化の魔道具を使えばどうとでもなりますよ」

「はぁ……。そんな希少なものを使ってまで……、と言いたいところだけど、ありえない話ではないか」

「しかし、アラムよ。それを確認しにハルルエスタート王国まで行けるのか?」

「王国まで行くのは問題ないでしょうが、素性を探ろうとした時点で怪しまれるでしょうね。何せ、そのマディアという人物が店を構えているのは、ハルルエスタート王国王城門ですから」

「いや、何かもうその時点で未来を見れたっていう切り札だったヤツじゃん。もう、いいよ。餌に釣られるわけにいかないだろ」


 項垂れた青年は、「とりあえず、片っ端からやって行くしかないか」と、目の前に積み上げられた書類を手に取って内容を確認し始めたのだった。


 処刑した女帝が溜め込んでいた宝物の中で歴史的価値のない、新しい宝飾品などは売りに出して公的予算へ、女帝の行動範囲の全てに設置されていたクーラーの魔道具を必要最低限だけ残して他の必要な場所へと再配置、女帝が他人から奪った品は秘かにリストにして控えてあったので、それをもとに持ち主へと返還。ただし、女帝がその品を譲渡したり加工してしまったりして現品が残っていない場合は代替品で堪えてもらうこととなった。


 「ああ、これは……。ありがたいな」

「どうした?」

ブタ女帝から譲渡された品を処刑が済んだことで持ち主に返している者がそこそこいるという報告です。まだまだ帝国も捨てたもんじゃないですね、父上?」

「そうだな。あんな腐った連中ばかりではない。こちらに属することが出来ず耐えているしかなかった者たちだっているのだ。協力的ではなかったからといって、あまり冷たくしてやるなよ?」

「善処します」


 私利私欲を満たすことしか考えていなかった者たちは女帝と共に処刑されたり、犯罪奴隷として強制労働をさせられることになったりと、ツケを支払うはめになった。


 女帝と皇太后がハルルエスタート王国現国王を手に入れたいと躍起になったことから始まった戦争は、帝国を疲弊させ、ハルルエスタート王国が国土を広げて手出し出来ないほど巨大化しただけに終わった。


 あまりにもハルルエスタート王国が大きくなり過ぎたため、帝国の軍部は女帝に内側から切り崩すために停戦を持ちかけ納得させた。

停戦後、国境を塞いで不干渉とすることを互いに書面にて交わしたが、帝国は元カンムッシェル辺境伯を引き入れ、ハルルエスタート王国へとちょっかいを出し続けていた。


 そのことでハルルエスタート王国側から賠償金を求められており、財政難である帝国は国の一部を割譲することを提案したが、拒否されている。

帝国が起こした戦争によって巨大化したハルルエスタート王国は、これ以上の国土は不要としたのだ。


 「人質としての人員を送って値切るのも無理かぁ〜……」

「無理だろうな。お前の周囲に人質に出せるような者がおらぬし、ハルルエスタート王国が本気になれば今の帝国は簡単に叩き潰せるだろう。人質の意味なぞどこにある」

「仕方がない。宝物庫の歴史ある品々を送るしかないか……。分割なんてしようものなら他の国にナメられるからな」


 内心では100年とまでは言わないが50年の分割払いにしてほしいと思っている青年は、積み上げられた書類をある程度減らしてから、信頼できる側近を引き連れて宝物庫へと向かった。


 そこには雑多に置かれた、とても歴史ある品々とは思えないような扱いでそこかしこに放ったらかしになっている宝飾品や豪華な剣などがあった。


 「ここも片付けないとなぁ……。処刑した皇太后もやらかしてくれたもんだよな。ワケの分からん理由をつけて価値のある品を実家へと下賜していたんだから」

「まあ、取り潰して回収できた品もありますからね。それで良しとしましょうよ」

「そうだな。過ぎたことを言っていても戻っては来ないからな。国が落ち着いたら片付けに来よう」


 側近たちに宥められながらリストに書かれている品をごちゃごちゃになっている宝物庫から探し出し、それを職人に丁寧に磨いてもらい、きちんと梱包して箱詰めしていった。


 賠償金のための品なので、不備があったりすり替えられたりしては困るため、新たに皇帝となった青年とその側近とで事にあたるしかなかったのだが、「これも皇帝の仕事とか思うと涙出てくるんだけど、気のせいかな?」と、遠い目をしたのだった。


 



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