第十一話 夜会の終わりに
デビュタントの夜会も終盤に差し掛かった頃、ダンス用の音楽が厳かな曲調に変わり、やがて止まった。
それを合図に国王は玉座から立ち上がり、王妃以外の者たちは頭を下げて礼をとった。
国王の「面を上げよ」という言葉で姿勢を正して顔を上げ、国王の目を直視することなく顎の辺りを見る貴族たちだが、アリーたんは普通に
今日のデビュタントの夜会にて公表されることがあると知っていた貴族たちは、静かに国王の言葉を待った。
「我が弟ボニファシオには、これまでの功績を称え公爵位と領地を与える。場所は、王家直轄ミースムシェル領だ。婚約者は、ジラソーレ侯爵家の娘ジョヴァンナとする。ボニファシオ、前へ」
「はい、国王陛下」
控えていた役人から公爵位を表す勲章がボニファシオの側近へと渡され、前へ出ていた彼へそれをササっと取り付けたところで拍手が贈られたのだが、ボニファシオの妻の座を狙っていた女性陣は、笑顔ながらも奥歯を噛み締めていた。
ボニファシオは次に授与される者のために横へとずれて場所を空け、姿勢良くその場で待機し、それを待ってから国王は口を開いた。
「第一王女コンスタンサとヤオツァーオ公爵家嫡男の第二子ウェルリアムとの婚約が決まった。コンスタンサには新たにヴォライユ公爵家をおこし臣籍降下させ、ウェルリアムは婿とする。コンスタンサ前へ」
「はい、国王陛下」
国王の前に出た第一王女コンスタンサにも、控えていた役人から公爵位を表す勲章が渡され、それを侍女がササっと彼女の胸の辺りに取り付けたところで拍手が鳴り響き、ある程度のところで止めた。慣れてるな。
「次は、我が娘アンネリーゼについてだ。知っている者もいるだろうが、リゼは離れで育った。しかし、成人後に冒険者となってから世界屈指の錬金術師の確保、ルナラリア王国王太子の命を救い、聖霊マリーナを顕現させて王妃の命を救い、帝国の策謀を防ぎ、
「はい、と、国王陛下」
気を抜き過ぎである。何故にこの状況で抜けているのか分からないが、そこがアリーたんである。
役人からではなく国王自らがアリエスに勲章をつけてやり、頬へ親愛のキスを贈った。
アリエスは、「しゃーねぇなぁ〜」と半目になって国王の頬へと親愛のキスを返したのだった。もちろんリップ音をさせるだけで唇が触れたりはしないヤツなので、化粧が崩れたりはしないぞ。
第一王女コンスタンサよりもアリエスの方が立場が上である、ということを示すための行動なのだが、コンスタンサが公爵位を与えられたのはウェルリアムありきのものなのだ。
そのため、コンスタンサが何か功績をあげたからではないと、言葉にはしないがガッツリ態度で示されているため、彼女は様々な感情を押し殺して震えている。
だが、それを見て憐れに思う者は少ない。
というのも、第一王女コンスタンサは王太子の第一子という立場に甘んじて、何の努力もしなかったからだ。
第三王女フェリシアナは、努力の末にルナラリア王国王太子の婚約者の座を勝ち取ったと、周囲には思われている。
控えめな態度ながらも努力していたことを知る教師陣から、彼女に仕えている使用人から、少しずつ周囲へ広がっていった
アリエスの肩を抱き寄せた
ロッシュにエスコートされて場所を移したアリエスは、「名前が増えた。覚えていられるかな?」と、ちょっぴり困っていたのだが、ロッシュがいるから問題ないだろう。
その後にも幾人かが叙爵や陞爵で名を呼ばれたのだが、その中にレベッカを見つけて嬉しそうに微笑むアリエスは、彼女に向かってパチリと瞬きをした。
ウインクできないのか、アリーたん。
レベッカは、「え、もしかして、まさかウインクされたの?返した方が……って、ダメよ!!何をさせようとするのよ、アリエスさんは!!」と、淑女の微笑みの下で大荒れになっていた。
叙爵されたお披露目ということで、レベッカも他の貴族たちがいる場所よりも一段上に立っているのだ。とてもではないが、アリエスにウインクを返したりは出来ない。
そうして、叙爵と陞爵などの発表が終わり、緩やかなダンス用の音楽が流れ始めたので、まだ踊り終えていない人や踊り足りない人がフロアへと繰り出して行った。
何てことをしてくれるのかしら?という顔をしてレベッカはアリエスへと近付いて行き、「アリエス様?」と、にーっこり笑った。
「んふふっ、男爵位おめでとう、レベッカ」
「ありがとう存じます、アリエス様」
「改めて名乗っておく?」
「いえ、最初に名乗られたいというお方がおられますので、そちらを優先してくださいませ」
「最初?」
首を傾げたアリエスに近付いて来たのは、国王に似た顔をした老人であった。
「あっ、大爺様!」
「ぶふっ!クククっ……、リゼ、そちらではない。大爺様の隣だ」
「え?あっ!」
何故に小柄な大爺様が視界に入っているのに、隣にいる先代国王が目に入らないのか。
憮然とした顔をした、国王に似た顔をした老人こと先代国王は、「まったく、誰に似たのだ」とボヤいたのだが、レベッカが「お若い頃の
レベッカから「あんたに似てる」と言われた先代国王は、喜んでいいのか怒っていいのか、よく分からないことになってしまったが、先を越されるよりは良いと、アリエスの初めてのご挨拶を受けることにした。
「余は、先代国王ファウスティノ・ヘラルド・グレンデス・アブラアンだ。お祖父様と呼びなさい」
「はじめまして、お祖父様。わたくしは……、エストレーラ侯爵家当主の?ヴァレンティア、サラ、エストレーラと申します。お目文字叶いましたこと、恐悦至極に存じます」
ロッシュが後ろでこしょこしょと教えながらの自己紹介となったので、疑問符が飛んだりつっかえたりしたが、周りは微笑ましく見守るばかりであった。
「うむ。上手に挨拶できておったぞ。だが、余はヴァレンティアよりもアリーと呼ぼうかの。有象無象が呼ぶ名は呼びたくないのでな」
「うん?アリーって、皆が呼ぶよ?」
「近しい者がそう呼ぶのは構わんが、そうでもないのはエストレーラ侯爵と呼ばせておけば良い」
何だかよく分かっていないアリエスであったが、
アリエスが侯爵となって初めてのご挨拶をゲットしたので、そこに関しては満足した先代国王は、「余よりも先にロッシュが踊ったのは気に食わぬが、アリーに強請られたのでは仕方がないからな」と、ちょっぴりスネつつアリエスをダンスに誘った。
その後に王太子から、「コンプリートしておかないと、ね?」という意味の分からないことを言われて王太子と彼の息子である第一王子ともダンスをしたところでコンプリートが何か分かったアリエスは、大爺様ともダンスをしてデビュタントの夜会を終了したのだった。
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