第九話 因果応報
デビュタントの夜会という、おめでたい席で起こったおぞましい光景に王太子アルフォンソは、「どうやら私の側室が愚かにも呪いを掛けており、それをマリーナ様によって返されたとのこと。このことは一旦私が預かるので、皆はパーティーを楽しんでくれ」と言って、側近に珍しい酒を運ぶように命じた。
指示を受けた側近は、「あの酒が既に用意されていたということは、初めからこの場で呪いを返すように仕向けるつもりだったんですね……」と心の中でつぶやき、遠い目をしたのだった。
「ていうかさ、こっちの派手な人、頬に浮かび上がった呪いのせいで逆にエロくなってね?」
「そうかい?」
「そうだよ、兄……アルフォンソ様」
「おや?兄貴と呼んでくれないのかい?」
「呼んでいいなら、そう呼ぶけど。兄貴はそうは思わない?まあ人それぞれだろうけど」
「そうだね、とりあえず、お前。いつまでそうやって、おぞましく醜い姿を晒しているつもりだ。さっさと去れ」
アリエスに向けていた柔らかみのある目とは逆に、冷酷な目をアメーバ状の呪いに覆われている側室へと向けた。
自身では、どうなっているのか見えていないのだが、鏡を覗けば分かるため、見た途端に絶叫間違いナシだろう。
王太子アルフォンソから冷酷な目を向けられ冷たく突き放された側室は、悲劇のヒロインにでもなったかのように涙をハラハラとこぼしながら礼をとって去って行ったのだが、今までであれば誰かしら手を差し伸べてくれたはずなのに、まるで化け物にでも遭遇したように周囲から波が引くように人が割れていった。
どれだけ儚げに清楚に振舞ってもアメーバ状の呪いでほとんど周りからは見えていないため無駄なのだが、そんなことに気付きもしない滑稽さが余計に笑えると王太子アルフォンソは口にした。
「あ、そうそう、兄貴」
「なんだい、アリエス」
「あのね、パウリーナ様が無事だったのって、こっちのエロ派手な人の呪いのおかげなんだよ」
「っ。どういうことだ?」
エロ派手な人などと呼ぶから王太子アルフォンソは、思わず笑いそうになったが堪えた。
この妹、いつか必ず慌てさせてやる、と
アリエスの万物鑑定で分かったのは、本来ならば呪いは重ねがけすれば悪化するのだが、エロ派手な人がチョイスした呪いが「
毒を盛ろうが階段から突き落とそうが死んだ方がマシだと思える状況でも死ねないため、拷問や罰を受ける犯罪者にかけることは、ごく稀にある。
ごく稀になのは、その呪いをかけるために必要な素材や
「本当なら死んでてもおかしくない状態だったんだろうけど、この人の呪いのおかげで回避できてたんだよなぁ。だって、さっきのキモイあれ、マリーナ様くらいじゃないと解けなかったし、呪いだとバレないような代物だったから、そのうち病死扱いになってたと思うよ?」
「なるほど。ルナラリア王国王太子妃となることが決まった王女の母親に随分なことをしたものだが、結果は考慮してやろう」
冷たく考慮してやろうと言った王太子アルフォンソは、エロ派手な人にも部屋へ戻るように言うと、チラリとパウリーナを見たのだが、顔色が悪いのを隠そうとした化粧があまりにも酷いため「部屋で休んでいろ」と言って帰したのだった。
このことでアリエスは、自分の母親もこうやって命を落とすことになったのだろうかと思い、それが表に出てしまったことで小さく「お母様……」と、つぶやいた。
その小さな小さなつぶやきは、そばにいたロッシュはもちろんのこと、王太子アルフォンソにも聞こえていた。
アリエスの母親は、男爵家の娘で王宮でメイドをしていたのだが、生まれたアリエスが準王族であったため後宮入りにならず、乳離れを機にメイドに戻ったのだ。
そのため守ってくれる者もおらず、国王のお手つきになったことに嫉妬した他のメイドや侍女までもがアリエスの母親へ嫌がらせを行なっていた。
しかし、目に余るものに関しては巡回している暗部がそれとなく助けたりはしていたが、身分が下の者への嫌がらせやイジメなどは日常茶飯事なので、多少のことは黙認しているところもある。
アリエスも女性特有の陰湿さというものを知っているので、母親が置かれていた状況をなんとなく察してはいた。
もし、仮に母親の死因が他殺であったのだとしても、自らが敵討ちをしたところで鬱憤は晴れるかもしれないが、母親が返って来るわけでもないのだからと、あまり気にしないようにしていたのだ。
お供え用の机を用意して、たんまりお供え物を置いて、自分を慰め納得させていたが、最近ではやっと吹っ切れたようで、似顔絵師に母親の特徴を説明して描いてもらい、それを飾っている。
アリエスに言われるまま描いた似顔絵師は、「本当の本当に、これで大丈夫ですか?」と、三度ほど念を押していた。
それをロッシュにも見てもらい、「とてもよく描けておりますね。ええ、体型の特徴も良く捉えられていますよ」と肯定してもらったことで、アリエスの母親そっくりに完成した。
そりゃあ三度も念を押して確認するだろう。
何せ、ホルスタイン級の爆乳だったのだから、現実ではなかなかお目にかかれない素敵な凶器であったよ。惜しいことをしたものだ。
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