第八話 見かけによらず

 ヴィオレッタとシルトクレーテ伯爵家当主は、アリエスとある程度お喋りし終わると、他の人も話しかけたいだろうからと場所をあけるため、移動していった。


 次にやって来たのは王妃の甥っ子だった。

彼は王妃の兄から既に家督を継ぎ侯爵家当主となっており、王妃が47歳のときに王女を産んだことでお祝いの振る舞い酒を行えたと、それは嬉しそうに語って、「叔母が助かったのは、あなたのおかげだとそう聞いております。ありがとうございました」と、言って颯爽と去って行ったのだった。


 「何か、爽やかなんだけど騒がしいっていうか、謎な人だったな」

「笑顔で無自覚に毒を吐くと有名でございますよ」

「ロッシュ、マジで?」

「ええ、マジでございます」


 ちょっと小腹が空いたからと王族専用スペースにある軽食コーナーでもちもちし終わってお酒を楽しんでいると、そこへおずおずと遠慮がちに少しふらつきながら近付いてきた女性がいた。

アリエスがそれに気付いてロッシュをチラ見すると、こしょっと「第三王女フェリシアナ様のお母君でございます」と教えてくれた。


 アリエスがいる王族専用スペースは、国王、王妃、王太子といった王家直系のスペースとは別に設けられている場所なので、フェリシアナの母親は王太子専用スペースにいたのだ。


 王太子の側室なのでティアラは載せていない。

つまり、この場ではアリエスの方が上になるため、彼女から声を掛けられるまでフェリシアナの母親は控えていなければならないのだ。


 「はじめまして。ゴールドランク冒険者のアリエスです」

「え……。冒険……者?」

「あ、混乱させちゃったか。じゃあ改めまして、ハルルエスタート王国国王が第27子アンネリーゼ改め元準王族のアリエスと申します。アリエスとお呼びください」

「は、はい。はじめまして、王太子殿下の側室パウリーナ・メイテ・グレンデスと申します、アリエス様。わたくしのこともパウリーナと名で呼んでくださいませ」

「うん、よろしくね、パウリーナ様。ていうか、座って?めっちゃ顔色悪いよ?大丈夫?」


 パウリーナの返答も聞かずにほいほいと席に促して座らせてしまったアリエスだが、ここは王太子専用スペースではないので、彼の側室であるパウリーナが座るのはあまりよろしくないのだ。


 土気色にグレー混じりの思わず「死体か?」と言いそうになるほど顔色が悪くなっているパウリーナは、何とか化粧をすることで誤魔化してはいるのだが、それでも隠しきれないほど酷い状態であった。

そんな彼女が気になったアリエスは、断りもなく万物鑑定をかけたのだが、パウリーナは毒と呪いにかかっていた。


 ジロジロとパウリーナを無遠慮に眺めたかと思えば「うわ……」と声を漏らしたアリエスに、パウリーナ付きの侍女は顔には出さなかったが不快に思った。

アリエスは気付かなかったがロッシュはそれに気付いており、「わたくしの可愛い孫娘に何か?」と、笑顔でメンチを切っていた。


 そんなことなど気付きもしないアリエスはキョロキョロと辺りを見回し、国王がいる専用スペースにて軽食をあむあむしている聖霊マリーナ・ブリリアント様を見つけると、「ちょっと待っててね」とパウリーナに声を掛けてスタスタとそちらへ向かってしまった。


 戸惑うパウリーナを放置したままアリエスは国王のそばへ行くと、「お父様、マリーナ様を連れて行っても良いかしら?」と尋ねた。


 「構わんが、何があった」

「あのね、パウリーナ様の具合がよろしくないの」

「具体的に申せ」

「毒と呪いにかかってんだけど、治しちゃって良い?」


 ぶっちゃけ過ぎである。


 アリエスの返答に国王父ちゃんは、「マリーナよ、頼めるか?」と尋ねると、あむあむするのをやめた聖霊マリーナ・ブリリアント様は「出来ると思うけどー。どうせなら呪いは相手に返しちゃおうよ!」と輝く笑顔で 立ち上がり、治療を引き受けてくれた。


 呪われた人は誰かなー?と軽い気持ちでアリエスについて行った聖霊マリーナ・ブリリアント様は、パウリーナを視界に収めると、「おっふ……、きもっ」とつぶやいた。


 「マリーナ様、どうかした?」

「あー、みんなは見えないもんねぇ。ちょーキモイことになってるよー?」


 呪いが具現化して見える聖霊マリーナ・ブリリアント様には、どす黒い粘着質なアメーバに覆われたパウリーナが見えており、ぬちゃぬちゃと音がしそうな蠢く呪いの隙間から、かろうじて顔が判別できるような状態であった。


 「ねぇねぇ、アリーちゃん。アリーちゃんなら呪った人が誰かまで分かるんでしょ?連れて来てもらおうよー」

「あー、その方が変な騒ぎにならなくていいかもな」


 聖霊マリーナ・ブリリアント様の提案に頷くと、アリエスはパウリーナにもう一度万物鑑定をして、見えた名前をロッシュへ伝えた。


 そうして連れてこられたのは、化粧もドレスも濃い派手派手な美女と、清楚で可憐な少しおどおどした女性の二人で、その二人は王太子アルフォンソの側室だった。


 騒ぎというほどでもないが、話を聞きつけた王太子アルフォンソは、「私の側室に何かあったのかい?」と、少し困惑した表情を作っているが、彼が内心で愉快そうにしているのを国王と王妃、ロッシュは気付いている。


 役者が揃ったところで聖霊マリーナ・ブリリアント様は、「んじゃ、揃ったところで始めるわね!忌々しき呪いよ、愚者へ返りその姿を現したまえっ!!」と唱えた。

その姿を現しちゃったらどうなるかと言えば、聖霊マリーナ・ブリリアント様にしか見えていなかった呪いが他の誰の目にも明らかになる。つまり、ぬちゃぬちゃしてる呪いがまとわりついているのが目視出来ちゃうんだなー。


 派手派手な美女の左頬にはトゲの生えた真っ黒なツルが浮かび上がり、清楚で可憐な女性の周囲にはどす黒くぬちゃぬちゃと音がしそうな感じに蠢いているものが浮かび上がった。


 それを見たアリエスは、「やっぱこういうときって、清楚な感じのやつほど性格歪んでるよなー」とうっかり口にして、それを聞いた王太子アルフォンソが面白そうにニマニマと笑ったのだった。



 



 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る