第五話 王女
王妃は、女狐に引っかからないようにと、しばらくは孫の第二王子と共に行動するということで、「また、会いましょうね」と言って場を移していった。
その流れに乗るようにして、ウェルリアムを伴って去って行った第一王女コンスタンサを視線で追っていた第一王子は、やれやれと言いたげな態度を取ったあと、アリエスに向き直った。
「アリエス嬢、あまり姉上のことは気にしないでください。色々と複雑な気持ちを抱えているのです」
「そうなのか?私は別に構わないんだけど、リムが幸せじゃないなら父ちゃんに掛け合うつもりだぞ?」
「ああ、まあ、その辺の心配はいらないと思います。……化粧品が功を奏したところもありますので」
ウェルリアムからダンジョン産のレア化粧品を贈られた第一王女コンスタンサは、それ以来彼に対してご機嫌になったのだ。現金なものである。
それを聞いたアリエスは、「まだ珍しいんだってな。だから、フェリ様にもご褒美であげたよ」と、にこやかに話したのだが、それに対して第一王子は顔を引きつらせた。
「どうかしたのか?」
「あぁー……、いや。はぁ……、おめでたい日に溜め息を吐くなど良くないのですが……。どうしたものかと……」
「フェリ様には、まだ早かったか?でも、確か、素肌を晒すのは、はしたないとかで自室以外は化粧するんだろ?」
「まあ、そうなのですが……。フェリシアナにあげたのが問題というか、その……」
第一王子は、第一王女コンスタンサが何故ああなってしまっているかを説明し始めた。
ハルルエスタート王国王太子の第一子として誕生したが、王位継承権の順位は弟である第一王子よりも下になった第一王女コンスタンサ。
王になることが出来ないのならば妃として嫁ぎたいと、他国へと目を向けたが生まれた時期が合わず、他国の王太子たちは歳上ばかりで既に妃がいる人ばかりであった。
思い通りにいかない日々を過ごしているところに、何の後ろ盾もなく属性能力もそれほど高くない、しかもよちよち歩きに近いほど幼い第三王女フェリシアナが真面目に淑女教育に取り組み、王宮にある大図書室へと足繁く通い、机に何冊もの絵本を積み上げて読んでいるという話を耳にした。
どれほど頑張ろうと第一王女でもあり、後ろ盾のしっかりした自分よりも良いところへ嫁げるわけがないのに無知な子供とは愚かなものね、と嘲笑い、
そのことがフェリシアナのプチサイコパス覚醒スイッチを押してしまったことに気付きもせずに。
「しかし、後ろ盾のないフェリシアナがルナラリア王国第一王子殿下の婚約者として指名されたのです。そのときの姉上の荒れようといったら……」
「いや、年齢が合わんだろ?リムより年上じゃあ無理だろう」
「はい、無理があります。ルナラリア王国第一王子殿下、今は王太子殿下となられましたが、彼はフェリシアナの一つ下です」
「ますます無理な話だな」
「ええ、ですが、姉上が言うにはフェリシアナと半年しか違わない第二王女の方が後ろ盾もしっかりしているし、属性能力も高いのに、と……。まあ、何をどう言おうが陛下の決められたことに口出しする権利などありませんからねぇ」
フェリシアナが選ばれた理由を知っているのは国王、宰相、父親である王太子、本人のフェリシアナ、情報提供者のロッシュのみであるため、周囲は何故第二王女を差し置いて第三王女フェリシアナが婚約者になったのか分からないのだ。
しかし、さして問題もない国王の決定に異議を唱えることなど出来ないため、フェリシアナの婚約は恙無く結ばれたのだった。
第一王子は少しウンザリしたような顔をすると、「しかもそのことで第二王女が怒り心頭でね。未だに仲違いをしたままなのです」と語った。
第二王女は、茶会で仲良くなった伯爵家の次男と恋に落ちていた。
彼の家は兄が継ぐのだが、とても賢い子であったため、伯爵家が所有する子爵位を与えるつもりでいたところへ第二王女と恋仲になってしまった。
そこで、第二王女の母親の実家である侯爵家が、所持している伯爵位を第二王女へ与えて、彼を婿に迎えるのはどうかと提案したところ、二人は喜んで承諾した。
王族が新たに家をおこすにはそれなりの成果を上げなければならないため、第二王女は子爵位を貰う予定の彼へ嫁ぐ覚悟も決めていたのだ。
そんなことがあって、ようやく婚約を結べるね!となっていたところへ第一王女コンスタンサが「ルナラリア王国第一王子殿下の婚約者は第二王女の方が良いのではないか」と言い出したものだから、第二王女は怒った。
伯爵家の次男と恋仲になっているのを知っていて、それがもう書面を交わすところまで来ているのに、しかも国王陛下の決定に口を出すなんて信じられない!と。
「王侯貴族が恋愛結婚できることは稀だけれど、条件が合えば叶うものだからね。横槍が入らないように慎重に進めて、やっと、というところでその発言だったものだから……」
「あれだな。自分が思っていることは、皆もそう思っているって認識なんだろうな。王になれないなら王妃に、皆がそれを狙ってるって」
「そうかもしれないね。私の婚約者にも随分とキツく当たっていたようだから、本当に申し訳ないよ。しかも、姉上の婚約はリムありきで決まったところがあって、更に荒れてしまって」
「あぁー、リムを王家に繋げるために結ばれたんだっけ?」
「そうです。リムの叔母が王太子妃なので、彼を王女の婿にするよりかは、王女を臣籍降下させた公爵家の婿にする方がマシだったからだと。……はっきり言えば、姉上はリムとの関係が悪化すれば公爵位を取り上げられて修道院行きになり、リムがそのまま公爵家当主代理になるだけなんですよ。それを最近になって分かったようなのですが……」
「だからといってすぐに態度を改められるような性格はしていない、と」
疲れたように「はい……」と言う第一王子にアリエスは、「叔母ちゃんが差し入れしてあげよう。リムに預けておくから、婚約者と一緒に食べなね」と、労ってあげたのだった。
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