第四話 それぞれの自己紹介
デビュタントの挨拶が終わりダンスの時間になったため、国王がアリエスを迎えに来た。
エスコートされてフロアの中央へ行くと、バックミュージック系統だった曲がダンス用のものに切り替わった。もちろん生オーケストラである。
ダンスの始まりは、まず主催者が踊ることになるので、ダンスフロアには国王とアリエスのみで、二人が踊り終えたあとにデビュタントである第二王子が王妃をエスコートして踊り、次にウェルリアムが婚約者である第一王女と踊ることになっている。
その後は、上位貴族のデビュタントが、その次に下位貴族のデビュタントが踊り、そのあとは自由に各々が踊り始める。
互いの呼吸を確かめるように緩かに踊り出した二人であったが、似た者親子だからか息ピッタリであった。
冒険者として日頃から動き回っているアリエスは、運動神経も体幹もずば抜けて良いため、国王のリードに軽々とついて行けている。
踊りながらアリエスは「んふふっ」と笑い、とても楽しそうにしており、それを見た国王も父親らしい微笑みを浮かべて見つめており、フロアの周囲でそれを目にした女性たちが「あぁ……」と、うっとりとした溜め息を吐くものやフラっと倒れるものがいたりと、通常営業だった。
「なあ、父ちゃん。私の母方のじいちゃん達って、どうしてるか知ってる?」
「……ああ、王都から西に行った帝国との国境にある森に住んでいる」
「そうなの?世捨て人か?」
「ククッ、違う。森で遺跡を見つけた一人がリゼの祖父だ。そこの調査に加わっているから森から出て来ないのだが、そのうち行ってみるといい」
「ん、行ってみる」
踊りながら楽しく会話しているうちにダンスは終了し、国王はアリエスの頬へ親愛の口付けをしてから玉座へと戻り、アリエスはボニファシオのところへと行くことにしたのだが、あの超絶美形の国王に家族に送る挨拶の口付けとはいえ、そんなことをされて平気な顔でいる彼女を他の貴族たちは慄いて見ていたのだった。
アリエスからすればいい歳こいて父ちゃんからほっぺちゅーをカマされて、ちょっと照れつつゲンナリしていた。
それに気付いたボニファシオは、「いくら美形といってもアリエス嬢にとって、やはり兄上は父親なんだねぇ」と苦笑したのだった。
王妃と第二王子が踊り終えると、アリエスのところまでやって来たので改めて正式に挨拶を交わすことになった。
王妃が出産の真っ只中ということで自己紹介を超簡略化していたため、アリエスは名乗っていたが王妃は名乗っていなかったのだ。
「アリエスちゃん、改めて名乗らせていただくわね。ハルルエスタート王国王妃アンリエット・ミレイユ・グレンデス・ハルルエスタートよ。わたくしのことはアンリエットと名で呼んでくれると嬉しいわ。あのときは本当にありがとう。あなたのおかげで今のわたくしがあるのよ。何か出来ることがあれば言ってちょうだいね」
「名を呼ぶ栄誉に与り恐悦至極に存じます、アンリエット王妃様。ハルルエスタート王国元準王族アンネリーゼ改め、ゴールドランク冒険者のアリエスと申します。格別の御厚情を賜りましたこと、深く感謝申し上げます」
きちんとした挨拶を返したアリエスに王妃は嬉しそうに微笑むと、チラリと第一王子へと目で合図した。
第二王子が王妃をエスコートしているとはいえ、挨拶の順番を飛ばして良いわけではないので、王妃の次は第一王子とその婚約者が挨拶をしなければならない。
そして、第一王子が婚約者をエスコートしながら近付こうとしたとき、王太子アルフォンソがするりとやって来てアリエスの腰を引き寄せると頬に親愛の口付けをして、さらりと去って行った。
その行動にアリエスはゲンナリし、第一王子は固まり、王妃はコメカミに手を添えて頭を緩く振った。
第一王子と婚約者がはじめましての挨拶をし終わり、第二王子もアリエスに挨拶をしたところでダンスを終えたウェルリアムが婚約者である王女をエスコートしながらやって来た。
微笑んでいるが全く笑っていないという、あからさまな淑女の笑みを浮かべた王女はアリエスに視線を向けると挨拶をしてきた。
「わたくしは、ハルルエスタート王国第一王女コンスタンサ・エベリナ・グレンデスですわ。どうぞ、よしなに」
「ゴールドランク冒険者のアリエスと申します。第一王女様にご拝謁賜わりましたこと、恐悦至極に存じます」
物凄く慇懃な態度でミドルネームを強調した挨拶をしてきた第一王女コンスタンサにアリエスは、「何故に私は彼女からマウント取られてんだろ?」という疑問でいっぱいであった。
離れ育ちの準王族にはミドルネームがないため、それで第一王女コンスタンサはミドルネームを強調した挨拶をしたのだが、アリエスは自身が冒険者であることに何の不満もないどころか自ら進んでなったので、第一王女コンスタンサにマウントを取られたところで、「で?」という感じである。
第一王女コンスタンサの態度に王妃は冷たい微笑を浮かべ、「カチェリーナを呼んだ方が良さそうね」と言った。
カチェリーナとは、御年62歳の家庭教師で、主に5歳までの王族を専門に教えている淑女中の淑女なのだ。
その彼女を呼ぶということは、「幼児まで遡って教育し直した方が良いかしらね?」と言われているのと同義である。
祖母である王妃から公の場でそのようなことを言われた第一王女コンスタンサは、唇を噛み締めそうになったのを堪えて笑みを作り、「申し訳ございません。少し緊張してしまいましたの」と、取り繕ったのだが、そんなことで誤魔化される王妃ではないため、「今日はおめでたい日ですからこれ以上は言いませんが、後日お茶を共にいたしましょうね」と、お説教されることが決まったのだった。
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