第三話 ボニファシオとアリエス
国王はエスコートしたアリエスを王弟ボニファシオがいるところへと連れて行くと、「リゼ、ファーストダンスまで、ここで待っていろ」と言って、玉座へと去って行った。
「やあ、アリエス嬢。見違えたよ。とても素敵になったね」
「ありがと、叔父さん。デビュタントの挨拶が終わったらファーストダンスだっけ?」
「そうだよ。いつもなら兄上と義姉上が最初に踊られるんだけど、今回は義姉上はセレスティノ第二王子のお相手をされておられるからね。というか、アリエス嬢は踊れるの?」
「ロッシュから基本しか習ってないけど、父ちゃんに任せておけば大丈夫らしい」
「えぇー……」
王弟ボニファシオは、ジラソーレ侯爵家三男であるジョヴァンニが、アリエスからお祝いにと貰った女体化(完全版)を使って完全な女性になったこと、それに伴って名をジョヴァンナに改め、既に婚約したことも話した。
「おー、おめでとう!あとは、リュ……お嬢様を待つだけだな」
「リュシエンヌね。ああ、そうだ、帝国の話は聞いたかい?」
「クーデターのこと?ロッシュからチラッとだけな」
「これで兄上もひと息つけるだろう。何せ、親子で兄上にご執心だったからね」
「は?」
「あー、アリエス嬢は知らなかったのか。帝国は女帝だったんだよ。皇女から生まれた子は紛れもなく皇族なのだからという理由でゴリ押ししたらしいよ?」
先帝の叔母にあたる皇女が継承権を所持したまま公爵家へと嫁ぎ、そこで一男一女をもうけたのだが、そのとき生まれた女子が当時皇太子であった先帝へと嫁いでおり、その二人の間に生まれた子が今回クーデターによって処刑された女帝である。
つまり、女帝の両親は従兄妹同士だったのだ。
女帝の父親である先帝は、彼女が3歳のときに病にて亡くなっているのだが、実際は母親である皇后が病に見せかけて殺害している。
皇后は、3歳の一人娘を女帝とし、自身は皇太后として帝国に君臨したのだが、政治能力など皆無で宰相や大臣たちに丸投げであった。
そのため帝国では汚職が蔓延し、金と権力だけが正義!のような内情になっていた。
しかも、皇太后は夫がおらず、既に娘を女帝にしているため自身の宮に男を引き入れることはしょっちゅうで、それを見て育った女帝も同じことをするようになった。
そんな女帝が12歳のときに、ハルルエスタート王国の王子に絶世の美貌を持つ者がいると耳にし、遠路はるばるやって来てその王子に「夫になれ!」と挨拶も交わさずに宣ったのだが、その王子は守護神に認められた王太子であったため、女帝の夫にはなれなかったし、なりたくもなかった。
「ちなみに、その王太子が兄上ね。しかも、当時5歳の」
「うわ、キモっ!」
「皇太后も熱の篭った目で兄上を舐め回すように見ていたそうで、物凄く気持ち悪かったと父上から聞いたことがあるよ」
「うへぇ〜……」
「さすがに皇太后と女帝のお付きの者たちは、守護神に認められた王太子を寄越せとは言えなくて二人をなだめすかして帰って行ったけど、それならば国ごと手に入れればいいとなったのが戦争の始まりなんだってさ」
「戦争で手に入れたところで心までは手に入らんだろうに」
そして、愚鈍である方が御しやすいと、まともな教育も施さないまま周囲が何でも与えた結果、ブクブクと肥え太り、暑さに耐えられないと宮殿中にクーラー魔道具を設置させまくり、財政を圧迫し始めたのだが、戦争に勝てば補填できると、させたい放題だった。
ドレスや宝飾品も珍しければ珍しいほど良いと高価なものを買い漁り、人のものまで奪うことも多々あった。
しかし、様々な要因があったにせよ、この財政難のときに北西にあるエントーマ王国を経由して運ばせていた、シットリラディースのジャムについてブチ切れたのが本当の切っ掛けだったりするのだ。
掛かった経費は以前の13倍という金額で、それを頻繁に行なっていたのだから、たまったものではない。
「それで、このままでは国が潰れると、先帝の弟を父に持つ男性がクーデターを起こしたってわけ。えーとね、何やら未来が見られるスキル持ちを皇太后の実家が手にしていたらしくてさ。そのせいで中々成果を上げられずにいたらしい」
「なんか、すっげぇ心当たりあるわ。あー、そいつがいなくなって対処が甘くなったのを知ったから、クーデターを起こしたのか」
「そういうことらしいよ?ちなみに、その先帝の弟なんだけど、母親はハルルエスタート王国の王女でした」
「先帝の母親は?」
「帝国の公爵家出身で、そちらは側室。ハルルエスタート王国出身の王女が皇太子妃として嫁いでいって皇后になったんだけどねぇ。まあ、つまり、あるべき姿になったということだよ。本来ならば皇后を母に持つ先帝の弟が帝位を継ぐはずだったんだから」
「なるほどなぁー。てことは、そのクーデターを起こした男性の祖母がハルルエスタート王国の王女?誰の並びになるんだ?」
「嫁いでいった王女は、先代国王陛下である父上の叔母にあたるそうだよ。つまり、クーデターを起こした男性は兄上や僕と又従兄弟になるね」
デビュタントたちが国王と王妃へ挨拶をしている最中に、王弟ボニファシオから帝国のことを聞かされたアリエス。
「ということで、アリエス嬢には褒美として侯爵位が授けられることになったんだって」
「いや、何が『ということで』なのかサッパリなんだけど。私、何にもしてないよ……?ていうか、あれ?学園を卒業してないと、当主にはなれないよね?」
「いやいやいや!アリエス嬢の功績を挙げればキリがないよ!というか、君が褒美を受け取らないと他の者たちも辞退せざるを得なくなっちゃうからね?……レベッカも叙爵が決まったんだから、ね?それと、爵位の継承は学園の卒業は必須だけど、叙爵、与えられる場合は関係ないから」
「あ、そうなの?」
「そうなの!レベッカは、男爵位が授けられることになったんだよ。しかも世襲の」
「おおっ!……お?そういや世襲の男爵で思い出したけど、私の母方のじいちゃん達って、どうなってんだろ?」
15年振りに母方の親族のことを思い出したアリエスであったが、王弟ボニファシオは彼女の母のことは何も知らないので、「兄上が把握しているかは分からないけれど、ダンスのときにでも聞いてみたら?」と、アドバイスしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます