第七話 次は、どうする?
手土産にシットリラディースを貰って帰ったアリエスであったが、その中には甘い赤系統のものしか入っておらず、黄色系統の酸っぱいものは入っていなかった。
万物鑑定で見たときに酸っぱいとあっただけで、食べられないとも毒であるとも表示されていなかったが、知らないものが食べれば「何だこの酸っぱいのはっ!?」と激怒しないとも限らないので、デルフィーノが赤系統のものだけを用意するように指示したのかもしれないと、アリエスは思ったのだった。
ということで、翌日。
酸っぱいのも食べてみたいと眠たい目を擦りながら朝市へとやって来たアリエスは、色とりどりのシットリラディースを前に目をキラキラさせていた。
黄色系統を扱っている屋台、オレンジ色系統を扱っている屋台、といった感じで屋台は色によって分けられており、各々が必要としているシットリラディースを買っていく人で賑わっていたが、黄緑色のシットリラディースと真っ赤なシットリラディースは少量しか並べられていなかった。
アリエスが気になっていたのを察したロッシュが屋台の人に聞いてみたところ、黄緑色はかなり酸っぱく、真っ赤なのは高価なので買う人は少ないということだった。
それを聞いたアリエスは、「熟すまでって言ったら変かもしれないけど、その間ずっと畑を占領してることになるからな。それで高いのかな」と、うんうんと頷いていた。
他の客に迷惑にならない程度で、屋台の人にドン引きはされる程度に片っ端から買ったアリエスは、「そういえば大根の葉っぱは茹でて醤油で炒めると美味しかったけど、これの葉っぱに使い道ねぇのかな?」と思い、ディメンションルームに戻ってから切り離した葉っぱに万物鑑定をかけてみた。見た目が白ければ大根に見えるほどソックリではあるが、それは大根ではないからな。
「へぇ、保水力があるのか。ならばミストとブラッディ・ライアン行きだな」
「僕とパパがどうしたって?」
「おっ、丁度いいところに来た。これ、シットリラディースの葉っぱなんだけど、保水力があるんだってよ。何かに使えないか?」
「へぇー、保水力ってことは化粧水とかに使えるかな?いや、ちょっと待ってね。うぅーん、んー?あ、やっぱり、これダメなやつ」
「何がダメなんだ?」
「これ自体に保水力があるのね。つまり、顔に塗れば顔の水分が持って行かれる」
「それ、ミイラになんねぇ?」
「使い方を間違えれば、なるかもねぇ」
水を保つ力があるということではあったが、その保つ水をのべつまくなしに奪っていくのでは化粧水には使えない。
ブラッディ・ライアンの結論にアリエスは、「吸収ポリマーみてぇ」と笑った。
化粧水に使えるのであれば、ミーテレーノ伯爵領で既に使われているだろうから、葉っぱを何にも使っていなかったということは、そういうことだったのだろうと結論付けたアリエスは、もったいないからインベリトリにとりあえず入れておいて、他に使い道がないか探してほしいとブラッディ・ライアンに頼んだのだった。
思ったよりも早く原因が分かったことで、デビュタントの夜会まで少し時間が出来たアリエスは、次の候補地までアマデオに移動してもらうことにして、ディメンションルームにあるコテージにてのんびりすることにした。
濃霧の原因が地熱の上昇とシットリラディースであったことが判明し、今後どうするかはミーテレーノ伯爵家が考えることであって、アリエスが気にすることではないのだ。
ということで、アリエスはフリードリヒにどこで宿屋をやるつもりなのか聞いた。
「そうだな……。実家のあるミースムシェル公爵領だと少し居心地が悪くてな。嵌められたことによる冤罪だとは証明されたが、人の印象なんてそう変えられないだろ?」
「まあな。別にミーテレーノ伯爵家が温泉観光地にしなくても、フリードリヒが温泉宿やる分には良いんじゃねぇかと思うんだけどさ。どうよ?」
「そうだな。実家から程よく近く、それでいて領主が違うとなれば少しは楽かな。でも、俺は宿屋を開業できるほどの貯えはないぞ?」
「オーナーは私がやるから資金は出す。あとは、好きに頑張れ!」
「テキトーだな、おいっ!」
働かずして不労所得!キリッ!とキメ顔で言うアリエス。後ろでテレーゼが「アリーたん、きゃわわ」になっているぞ。
アリエスの貯えは、一般庶民が普通に暮らしていれば老後まで賄えるほどあるため、既に働かなくても大丈夫なのだが、暇で死にそうになるので動いているだけなのだ。
そうしているところへウェルリアムがやって来て、「ドレスが仕上がりましたので、お迎えに参りました」と、アリエスは彼に連れられて王家御用達の店へと連れてこられ、目隠しをしての試着となった。
もちろん目隠しをされているのはアリエスで、ウェルリアムとロッシュの男性陣は試着室の外にいるのだが、何故に彼女が目隠しをされているのかといえば、当日のお楽しみ、ということである。
試着を終えたアリエスは、「軽くてフワっとしてて、何も着てないみたいで、目隠ししてたから下着姿のままなんじゃないかと、ちょっと怖かったぞ?」と、不安そうにしていたのだが、安心してください、ちゃんと着てましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます