第四話 濃霧の原因
アマデオ兄貴ほどの精霊になれば濃霧によって視界が悪くとも全く問題ないため、ばびゅーんっ!と湯気が出ているというため池まで走ってもらうと、馬車が停まっているのが見えた。
周囲には護衛と思しき兵士たちが展開しており、「ここに停まっているのはミーテレーノ伯爵家の馬車であるが、何用か」と問われたため、アリーたんは「俺の娘……以下略」の手形を見せて「メラーニア様のおじいちゃん、ここにいる?」と、近所の爺さんを訪ねるような感じで尋ねたのだった。
さすがに国王発行の手形を出されては取り次がないわけにはいかず、兵士の一人が張られたロープを頼りに先代当主のところまで走って行った。
それを見たアリエスは、「濃霧で見えなくても大丈夫なように誘導用のロープが張られてんだな」と感心していた。
国王発行の手形を持った若い女性の冒険者が面会を求めていると、兵士から報告されたミーテレーノ伯爵家先代当主は、「こんなときに何だって国王陛下のお気に入りが……」と、内心では少し面倒に思っていたのだが、この現状をどうにか出来る一筋の光があるかもしれないと思い直して、即座に馬車がある場所へと戻ることにした。
ミーテレーノ伯爵家先代当主デルフィーノは互いに自己紹介を済ませると、この濃霧はシットリラディースが原因なのだが、おそらく地面が暖かくなっていることがそれに拍車をかけているかもしれないと言われた。
デルフィーノは顎を撫でて首を傾げるとアリエスに「何故、地面が暖かくなったのかについては分かるかね?」と尋ねた。
「んー、そこのため池を見てもいいかな?」
「構わんが視界が悪いのでロープから手を離さぬよう注意されよ」
「はーい」
ロープを伝ってため池のそばまで行って万物鑑定をしたアリエスは、その内容を読み上げてロッシュに聞かせた。自分で説明する気ナシである。
ため池の鑑定結果を読み上げて「役割は果たした!」と満足気なアリーたんを「さすがでございます」とデレっとした顔で褒める
アリエスが危なくないように後ろから注意しながら戻ってきたロッシュは、「んじゃ、あとはヨロシクな!」と彼女に丸投げされたので、鑑定結果をデルフィーノへと伝えることにした。
「プロメッサ侯爵家で封印された精霊のことはご存知でしょうか?」
「ああ、知っているぞ。色香に惑わされて役割を忘れた愚かな家だと噂になっておるが、それよりも前から封印が緩んでいたであろうに、面白おかしく口にする方が愚かだと私は思うがね。それと何か関係があるのか?」
「ええ、ございます。土の精霊は大地のズレを緩和し、地震が起きないようにしています。しかし、プロメッサ侯爵家にて封印された精霊テッテレモートは逆に地震を起こして嗤う性質を持っていました。封印が緩んだためにその精霊は役割を果たさず、そのシワ寄せがここを管轄している土の精霊に来たのです」
「なんだとっ!?……いや、なるほど、そうか。霧が酷くなってきた頃とプロメッサ侯爵家のゴタゴタが重なるな。ここまでの濃霧になったのはここ数年の話だからな」
「プロメッサ侯爵領からのシワ寄せを緩和するためにここの精霊は、大地に切れ目を入れマグマ溜まりを作り、地熱が上がらないように地下水脈を引き込んだので何とか地震を起こさず、霧が頻発する程度に済ませたのです」
「そうか……。大変な苦労をしてくれていたのだな。ならば、この濃霧も地震による被害に比べれば良しとしなければならぬな」
「いえ、話はそこで終わらないのです」
ミーテレーノ伯爵領周辺を管轄していた土の精霊は、マグマ溜まりを作ることで何とか凌いでいたのだが、封印が解けかけていた精霊テッテレモートが地震を頻繁に起こしたせいで、マグマ溜まりの周辺に亀裂が生じてしまった。
このままでは噴火が起きてしまうと判断したここの精霊は、マグマ溜まりを亀裂に沿って5ヶ所に分けることでそれを回避することに成功したのだが、精霊も無限に能力を使えるわけではないため、これ以上何か起こればどうすることも出来ないところまで来ていたのだ。
「てことは何か?この地に住まう土の精霊は、もう……」
「封印がギリギリ間に合ったようで噴火にまでは至りませんでしたが、マグマ溜まりの一つが地表付近まで来てしまったのです。それが、ため池から湯気が出ている原因です」
「なんてことだ……。我々に出来ることは何かないのか?」
「悪さをしていた精霊が封印されたので、これ以上のことにはなりません。ここの精霊も次第に力を取り戻していくでしょう。しかし、地表温度が上がってしまったこの状態だけは、もうどうすることも出来ません」
「むぅ……」
濃霧の原因は地熱の上昇とシットリラディースであった。
しかし、領地を支えているのは、そのシットリラディースであるため、霧を晴らすために収穫量を下げるわけにはいかず、ミーテレーノ伯爵家先代当主デルフィーノは難しい顔で唸っている。
そこへアリエスは、「作付面積を減らして温泉観光地にすればー?」と呑気に声を掛けた。
「フリードリヒが宿屋やりたいって言ってたじゃん?ここなら実家からそれほど遠くないし。いいじゃん、温泉宿!」
「左様でございますね。いかがでしょうか?」
ロッシュから「いかがでしょうか?」と尋ねられたデルフィーノは、内心で「伺いを立ててはいるが、『はい』という答えしか許さんという目なんだが……」と顔を引きつらせたのだった。
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