第二話 成人式だって
翌朝になって酔いも完全に覚めたアリエスは、ロッシュから改めて説明されたのだが、「当日になっても覚えている自信ねぇけど良いかな?」と目を逸らした。
それに対してロッシュは、「
ロッシュが一緒ならいいやと貴族の名前を覚えるのを放棄したアリーたんであったが、デビュタントの夜会では国王にエスコートされるため、その夜会では王妃に次ぐ立場となる。
そのため、初対面の人はアリエスから声を掛けない限りお喋りすることは出来ないが、彼女と面識があったり正式な挨拶を交わしている人は、自分から話し掛けることは可能だ。
つまり、国王、王妃、王太子アルフォンソ、王弟ボニファシオ、宮廷医の権威である大爺様、ヤオツァーオ公爵、プロメッサ侯爵家当主代理夫人ヴィオレッタ、ハインリッヒたちの弟ローデリックが、アリエスへ直接声を掛けることが出来るのである。
子爵となったハインリッヒたちの父親は、アリエスと面識がないため直接の声掛けは出来ないが、ローデリックと一緒にいれば話す機会はあるだろう。
まだ成人していない王太子の娘であるフェリシアナからは、「是非ともお茶をしたい」という誘いも来ていた。
成人前なので夜会には参加出来ず、それだとアリエスと会えない彼女は、夜会が開かれる前に会いたいとお茶に誘ってきたのだが、アリエスは「フェリシアナって誰だっけ?」と、なっていた。
「ルミナージュ連合国のルナラリア王国第一王子へと嫁ぐことになった、王太子殿下の御息女様にございます。王太子殿下と共に一度お茶をしておられますよ」
「あっ!フェリ様か!!優しくて良い子だったなぁ。……まだ成人していないって、今いくつなんだろ?」
「12歳になられましたよ」
「うわ、マジか!?え、会ったのって5〜6歳じゃなかったっけ?」
「左様でございますね」
王女フェリシアナはアリエスに対して猫をかぶっているだけで、優しくも良い子でもないのだが、ロッシュは、そんなことをわざわざ訂正したりはしないのである。
アリエスに対しては優しくて良い子なのだから間違っていないからでもあるが。
ロッシュから王女フェリシアナが12歳と聞き、もうそんなに経つのかと若干オバサン発言をしているアリーたんだが、彼女は現在25歳である。
成人して王都を旅立ってから10年のときが経っていた。……と、いうかダンジョンに篭もっている期間が長過ぎである。
夜会に参加することとなったアリエスは、「何を着ていけばいいんだろう?」と首を傾げたが、それに対してロッシュは「陛下がご用意してくださいますので、ご心配には及びませんよ」と返した。
彼女が身につけるドレス一式は、
デビュタントの夜会が開かれるのは、年始のパーティーの数日後になるためアリエスは、「新年のパーティーがあって、その後に成人式があるのは、あっちと似てるな。まあ、場所によっては春だったり夏だったりした地域もあったけど」と、前世の成人式を思い出していた。
高級ブランド品のスーツにサングラスをかけた兄の康一とその友人たち、しっとりした感じの着物を着こなしている姉の茉莉花、そこに並ぶ目つきが悪い金髪に紋付袴姿の仁。どこをどう見ても裏街道まっしぐらな一団にしか見えなかったし、兄とその友人たちは英語で喋っているから余計である。
その上、住民票を移していたため両親が生きていた頃に幼少期を過ごした地域でもなければ、祖母に引き取られてしばらく過ごしていた場所でもないところで仁は成人式を迎えることになったので、周囲に知り合いなんぞいなかったので、余計に遠巻きにされたのだ。
兄と姉が成人式を迎えたときにはまだ住民票を動かしていなかったため、卒業した学区のある地域から通知が来るものだとばかり思っており、まさか住民票があるところから届くとは思いもしなかったのである。
結果、仁が寂しい成人式を迎えなくて済むように兄が友人を呼んでくれたのだが、寂しい思いをしなかった代わりに「しっ!目を合わせちゃいけません!」な扱いをされるはめになった。
それがただでさえインドア派だった仁が引きこもりになった原因でもあった。
そんなことをツラツラと思い出していたアリーたん。
この世界で成人式のようなものをするのは王侯貴族のみであったため忘れていたのだ。
嫌なことを思い出したとゲンナリしていると、夜会が憂鬱なのかとロッシュから心配されてしまった。
「いや、めんどくさいけど、ちゃんと出るよ?せっかく父ちゃんが誘ってくれたんだし。それにフェリ様も会いたいって言ってくれたしな」
「
「ん、わかった。よろしくな、ロッシュ」
恭しく「かしこまりました」と礼をした後にロッシュは、イタズラ気にアリエスにウインクしたのだが、やはり何故か通り掛かったテレーゼに流れ弾が当たるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます