4 どうするか
第一話 何だって?
おめでたい報告があって王家直轄ミースムシェル領にあるハインリッヒたちの実家へ行ったところで、思わぬ展開になってしまったが、引き裂かれた男女が寄り添えることになったのだから、こちらもめでたい話だったな、で終わるものではなかった。
王弟ボニファシオとジョヴァンニを領主邸から転移で城へと連れて行ったり来たりと忙しくしていたウェルリアムは、アリエスに頼んでおいたテレーゼ特製の半熟目玉焼きを載せたチーズ入りハンバーグを幸せそうに堪能しながら説明し始めた。
クイユが奴隷として買われることの原因となった粛清。
そのときに、ジョヴァンニの前世であるエメリーヌを事故に見せかけて殺害したのは、クイユの異母兄であったことが判明したのだ。
異母兄は、「そんな面白そうなことは自分にやらせろ」と言って、見事なまでに痕跡を残さずやり遂げたことで足はつかなかったのだが、粛清の際に洗いざらい喋れば減刑してやると持ち掛けられた部下に裏切られたことで、バレてしまった。
つまり、異母兄だと思われて捕らえられたクイユを人型の肉塊といっていいほどの惨状にしたのは、実は王弟ボニファシオで、影武者であったとは知らずにやってしまったのだ。
しかし、エメリーヌのことには関わっていなくとも、異母兄に強制されて他のことには関わっていたので、拷問を刑罰とし、極刑ではなく奴隷落ちという結果になり、アリエスに買われたというわけだった。
「ボニファシオ殿下が、『うまいことすれ違っていて顔を会わせずに済んでいて良かった』って言ってましたよ。あちらは自分には会いたくなかっただろうからって」
「そっか。まさか、そんなところで繋がるとはな。ビックリだわ」
「僕も驚きましたよ。ボニファシオ殿下と酒場で会われたときや宿でもそうですし、領主邸へ行ったときもクイユさんと一緒ではなかったんでしょう?」
「そうだな、そういえば一緒にいなかったな。なら、これからも顔を会わせずに済むよう気を付けておくか」
「そうしてあげてください。ということで、これ、夜会の招待状です」
「は?」
何が「というわけで」なのか、さっぱり分からないアリエスは、手渡された豪華な装飾が施された封書を手に持ち、固まっていた。
今年、学園を卒業するウェルリアムは王太子の娘である王女との婚約が決まっており、それを王家主催のデビュタントが参加する夜会でお披露目することになっていたのだが、そこへ王弟ボニファシオが臣籍降下することも発表されることになった。
王弟ボニファシオの件は、本来ならば別の日に改めて開催するべきなのだが、王太子の息子である第二王子もその夜会でデビューするということで、数多くの参加者がいるため急遽ブッ込まれたのだ。
「いや、それで何で私に招待状が来るんだよ」
「開けて中を確認してください」
「へいへい。…………うん?父ちゃんのエスコート?
「第二王子殿下がデビュタントの夜会では、どうしても祖母である王妃様をエスコートしたいということで、ならば陛下はアリエスさんをエスコートすると仰せになられましてね」
「何が『ならば』なのかサッパリだが、私は平民ですらなく冒険者だぞ?」
「王族になる権利は有しているということで、何の問題もないそうですよ?」
「いや、有してるのとなっているのとでは行って帰ってくるほど違うからな?」
「行って帰ってくるって、それ戻ってきてませんか?」
「あれ?そうなのか?」
何気なく使った言葉であったが、ウェルリアムのボケにアリエスと二人して「そういえば、『行って帰ってくるほど違う』て、どういうことなんだろうね?」と言っているうちにその言葉がゲシュタルト崩壊を起こしてしまい、笑いが止まらなくなってしまったのだった。
何の話をしていたのか忘れてしまうほど笑ったアリエスとウェルリアム。
落ち着いたところで彼からデビュタントの夜会には、アリエスが関わった王侯貴族たちも出席するので、本当にどうしても出られない状況以外は、参加してほしいと念を押された。
「関わった貴族?」
「王家の方々、僕の生家になったヤオツァーオ公爵家、シルトクレーテ伯爵家、プロメッサ侯爵家、ジラソーレ侯爵家、オリオール伯爵家、あとは王妃様のご実家の方も是非ともお会いしたいとのことです」
「……お、おぉー?えっと?」
「シルトクレーテ伯爵家はトムさんことジークムント様の生家で、弟さんが当主になられています。プロメッサ侯爵家はトムさんが当主代理となられていますが、当主代理ですので夜会に参加されるのは、宰相閣下の養女となられた奥様のヴィオレッタ様だけだそうです。ジラソーレ侯爵家はジョヴァンニ殿のご実家で、オリオール伯爵家はジョヴァンニ殿の前世であるエメリーヌ嬢のご実家です」
「お、おう。トムの弟と、トムの奥さんな。ジョヴァンニ君の家と前世の家。ん、わかった」
「あと、王妃様のご実家と、ルミナージュ連合国ルナラリア王国へ嫁ぐことになった王女様をお産みになられた側室様のご実家ですね」
「え?何だって?」
「…………。ロッシュさん、あとはヨロシクお願いします」
まるで痴呆老人のような受け答えになりつつあるアリエスだが、説明されている間に晩酌し始めており、いい感じに出来上がっているのだ。
これでは何を説明しても頭の中に残らないと判断したウェルリアムは、ロッシュに丸投げしたのだった。
だが、お酒が入っていなくともアリーたんの頭に入ったかどうかは疑問である。
彼女は、貴族めんどくせぇ、で冒険者になったのだから。
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