閑話 ぽっぽは飛ぶよ、どこへでも
ここは、ハルルエスタート王国国王の執務室。
ウェルリアムからロッシュの報告書を手渡された国王は、それをニタリと笑いながら読んでいた。
それを胃が痛そうな顔をしながら眺めている
読み終えた国王は、「リム、鳥居へ行く。飛べ」と指示を出し、それを受けてウェルリアムは国王を連れて、転移で金色の鳥居がある庭へと続く扉の手前まで飛んだ。
鳥居の前で国王がパァーーーンっ!と手を打ち鳴らしたのでウェルリアムは、「あ、これ目が痛いやつでした」と、咄嗟に目を閉じ、強烈な光が収まるのを待った。
光が収まると、鳥居の向こうには以前と変わらぬ姿をした神がおり、「やあ、愛しき子らよ。何用かな?」と、優しく問いかけてきたのだが、神様モードは面倒なので、初っ端から地面にあぐらをかいて座っている。
「精霊テッテレモートの封印は、正しく行われた」
「ちゃんと見ていたよ。よくやった。あの地は再び栄えて行くだろう」
「そうか。弟のボニファシオが伴侶を見つけた。リュシエンヌの魂はどうなっているだろうか?」
「リュシエンヌが残された寿命を使ってまで願ったものだったからね。ボニファシオとジョヴァンニの間に子が出来なければ、来世に持ち越されるところだったんだけど、心配いらなさそうだね」
「では、リュシエンヌは戻って来るのか?」
「二人の間に子ができればね」
記憶が引き継がれるのは一度きりなので、ボニファシオは今世で
しかも、そこに万物鑑定を持った有能で幸運な
ジョヴァンニは、ボニファシオがリュシエンヌを家族愛ではなく、異性として愛していたのだと思い込んでいた上に、自身が男性として生まれ変わっていることで、想いを告げることはなかった。
想いを口にすることが出来ずとも、ボニファシオのそばにいたいと必死で近衛騎士となるために努力をしていた、そんなジョヴァンニを神はヤキモキしながら見守っていたのだ。
「あの二人には試練が課されていたんだ。まあ、その試練をペトっと貼り付けたのは、私の妻なんだけど。その代わり、乗り越えられれば二人には私の妻の加護が付くし、
「愛と欲を司る神か?」
「愛ね、愛。いいかい?愛の神だよ。その後ろには何もついていない。いいね?」
「ああ、わかった。その加護がつくとどうなる?」
「互いの絆が深く強く結ばれるし、恋愛関係で揉め事に巻き込まれることはなくなるよ。それに子宝にも恵まれるし、欲しいものは割とすんなりと手に出来るし、あとは欲望を制御しやすくなるね」
「そうか。ボニファシオには辛い思いをさせたからな。幸せになれるのならそれで良い」
肩の荷がおりたように、ほんの少しだけ息を吐いた国王の背中は、普段よりも少しだけ小さく見えたウェルリアムであったが、何か知りたいことはないかと聞かれて、前世で使っていた言語と同じなのは何故なのか尋ねることにした。
「一から世界を作るのは大変なんだ。神力もだいぶ持って行かれるし。ということで、あちこちの世界からちょっとずつ色々と分けてもらったんだよ。言語はリムのいた世界の神から『サイコーの言語だから!』とオススメされたんだけど、確かに最高ではあったよ。難しいという意味でね!」
「な、なるほど。確かに、あちらの世界でも外国人の方々からは、難しいと言われていましたね」
「でも、多様性があったのは良かったけれどね。リムにとって分かりやすく言えば、言語、名付け、名称などを基本パックにして即ダウンロードできるようなソフトにしてくれたのを貰い受けた感じかな?魔法とか生き物とか資源とかも他の世界から貰ったんだよ。まあ、それらに対応できる言語パックというのも凄いけどね。だって、そっちの世界に魔法とか魔物ってなかったでしょ?」
「神話やおとぎ話でしかありませんでしたね」
アリーたん達がいた世界は、存在しないものに名前があるというとんでもない世界だけれど、そのおかげで助かっているので問題ない。
あまり長居するのも良くないからと、国王とウェルリアムの疑問に答えて神は去って行った。
鳥居の庭から執務室へと戻った国王は、ジョヴァンニの両親であるジラソーレ侯爵夫妻を呼び付けた。
国王からの「即、登城せよ」という書簡を王都にある邸にて受け取ったジラソーレ侯爵夫妻は、呼び出されることに思い当たることがなく、もしかして近衛騎士見習いとなった三男が何かやらかしたのかと真っ青になって登城した。
ジラソーレ侯爵夫妻が登城し通されたのは、謁見の間ではなく執務室の隣にある応接間であったことから、「あ、怒られる内容ではなく、内密の話なのね」と、ホッとしたのも
応接間の扉が開いたので即座に頭を下げて礼をとったジラソーレ侯爵夫妻は、国王と一緒に入って来た人物の足もとしか見えなかったが、それだけで入室してきた中に自分たちの息子がいるのは分かった。
国王に
三男のジョヴァンニが近衛騎士を目指していることも内心では良く思っていないところへ、王弟ボニファシオ付きを望んだことから、何度か辞めるように説得していたのだが、頑として言うことは聞かず、結局は見習いのうちから王弟ボニファシオ付きとなってしまっていた。
「先程、確認してきた。ジョヴァンニはエメリーヌであること、リュシエンヌがボニファシオとジョヴァンニの間に生まれてくること。したがって、王家直轄ミースムシェル領をミースムシェル公爵領とし、ボニファシオを臣籍降下させ、ジョヴァンニとの婚姻を命ずる」
「いや、兄上、ちょっと待って?ねぇ、待って?すっ飛ばして結果だけ言うの止めよう?私とジョヴァンニは、今さっき急にウェルリアム殿に連れて来られて、事態が飲み込めてないんだけど……」
「
「は?…………はぁっ!!?ちょっ!なっ……!?そ、そんなことに守護神様を……!?何考えてんだっ!!アホ兄貴ーーーっ!!」
「うるさいぞ。お前とジョヴァンニには愛と……、愛を司る神から試練が与えられていたそうだ」
国王と王弟ボニファシオのやり取りを呆然とした様子で眺めていたジラソーレ侯爵夫妻は、先程の言葉を脳内で繰り返していた。ジョヴァンニはエメリーヌであると、それを守護神が認めた、と。
国王の前で感情を顕にするという失態をおかすわけにはいかないと、必死で涙を堪えていたジラソーレ侯爵夫人であったが、ジョヴァンニからおずおずと「お姉様」と呼ばれて決壊した。
ジラソーレ侯爵夫人は、オリオール伯爵家の長女でエメリーヌの実の姉なのだ。
勘違いした者たちによる後継者争いのようなものに巻き込まれた形で、この世を去ったエメリーヌ。
そのことがあってジラソーレ侯爵夫人は王家を、そして、当事者でもあった王弟ボニファシオを態度には出さなかったが恨んでいた。
悪いのは勘違いして騒いだ連中であって、王弟ボニファシオも巻き込まれた一人であることは分かっていたが、大切な妹を亡くした悲しみのやり場がなかったのだ。
そんな亡くした妹がまさか自身の息子として生まれていたなんて思いもしなかったジラソーレ侯爵夫人は、息子ジョヴァンニをかき抱いて静かに涙を流したのだった。
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