第四話 今後
暇つぶしにちょこっとお散歩に出ただけなので、近いうちにまた遊びに来ると言ってアリエスは、ハインリッヒたちの実家へと戻って来た。
航行の許可は王弟である叔父さんにその場で貰えたので、邸に突撃訪問せずに詰所へ行って良かったとホクホク顔のアリーたんであった。
ハインリッヒたちの実家は、来た時と違ってガヤガヤとしており、かなり人数が増えていることに気付いたアリエスは「知らない人たくさんとか勘弁だし」と言って、ディメンションルームの入り口が展開してある馬車内へと行ってしまったので、ロッシュもそれに続いた。
誰が爵位を継ぐのかという問題もそうだが、おめでたい話も本人たちがいればそれで良いと思ったアリエスは、彼らの用事が終わるまでディメンションルームのコテージで遊んでいることにしたのだった。
翌日になり、ハインリッヒがコテージへとやって来て、爵位がどうなったのかを教えてくれた。
ローデリックに姉ローザリンデの夫から届いた手紙の件で両親は、直接彼女に聞いてみないと、本当のところが分からないとして、王都にいるという彼女を訪ねて行ったのだが、何故王都へ行くのかローデリックには話さなかった。
「親父が言うには、ローザに会いに行くと言えばリックが拗ねるかと思ってという話だったんだが、いい歳こいて、そんなわけあるかっつーの」
「え、なに、俺も姉ちゃんに会いたかったとか言われるかと思ったっていう話なのか?」
「そう聞こえなくもねぇけど違うからな?爵位継承のことでローザに会いに行くと言えば『やっぱり姉に継がせるんだ』ってリックが拗ねるから、ただ王都に行くとしか言わなかったって言うんだよ。ガキじゃあるまいし拗ねるかっての。アイツも子を持つ親だぞ?」
「でも男爵になったんだからローデリックが子爵位を継ぐわけにはいかねぇだろ?賜わってすぐに違うの継ぐって、印象悪くね?」
「ああ、そこはリックもちゃんと分かってるよ」
ただ、ガタガタの家を必死に守ってきて、妻子にも色々と我慢もさせたし迷惑もかけたから、という思いから子爵位を息子に継がせてやりたいとローデリックは思っていた。
嫁ぎ先から色々と援助してくれた姉妹にも継ぐ権利があるのは分かるが、それを父親が言うのではなく姉から言われたと思い込んで少しカチンときていた彼は、そのタイミングで訪ねてきたハインリッヒにも噛み付いてしまったのだ。
王都からウェルリアムによって連れてこられたハインリッヒたちの両親は、孤児院へと赴いていたローザリンデから話を聞き終えており、爵位継承について騒いでいたのは夫の母親であることが分かった。
「ローザの旦那はいい人なんだがな。その母親ってのがウンザリするやつらしくってよ」
「うへぇ〜。息子を焚き付けて子爵位を強請ったってか?」
「そういうこった。ローザの旦那は『継承する権利は平等に与えられるべきだ』と手紙に書いてきたんだよ。つまり、フリードリヒにも継ぐ権利があるという意味だったんだとよ」
「マジか……」
「マジだ。ただ、リックを差し置いて子爵位を継がせるわけにはいかないと両親は主張していてな。フリードリヒに継がせるとなると騎士爵になるんだが、アイツやりたいことが出来たからいらねぇって言うんだよ」
「おっ、マジか!フリードリヒは何がしたいって?」
「宿屋やりてぇんだと」
ディメンションルームのコテージで、掃除したり食事の準備をしたりしながらアリエスたちの帰りを待っているうちに、「なんか、こういう生活っていいな」と思うようになり、近いうちにアリエスに相談するつもりでいたのだ。
アリエスに先に言うつもりでいたのだが、爵位継承の権利をどうするか聞かれたため言わざるを得なくなり、それで苦々しい顔で言うものだから、遠慮しているのではないか、もしかしたら本当は騎士爵が欲しいのではないかと、すったもんだあったとハインリッヒは笑った。
それを聞いたアリエスは、「いいじゃん、宿屋!応援するぞ!」と、んふふっと笑ったのだった。何か企んでるな。この笑い方。
「ローザは『夫がフリードリヒを思って手紙に書いただけであって、私は爵位なんていらないわよ?そんな暇ないし』だそうだ。ということで、子爵位はリックの嫡男が継ぐことになったぞ」
「そっか。じゃあ丸く収まったんだな」
「ああ、グレーテルとルシオの結婚報告と、クリステールの妊娠の報告も出来たしな。用事は済んだぞ」
「んじゃ、『枯れ芝リスト』から次の目的地を選ぶか」
隣の芝生は青く見えて自分家の芝は枯れて見えている、というやり取りから命名された枯れ芝リストには、落ち目や落ちてしまってドン底な領地名が記されており、気の向いた場所から行くことにしているアリーたん。
ハインリッヒたちの実家へ行く通り道の近くにあるということと、気が向いたからという理由でリストから最初に選んだシルトクレーテ伯爵領では魔物の増加の原因を突き止め、ついでにプロメッサ侯爵家の問題も解決してしまった。
幸先のいいスタートを切れたため今のところモチベーションは落ちておらず、次の予定もリストから選ぼうとお仕事モードを維持しているアリーたんだが、それがいつまで持つのかは神にも分からないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます