第三話 申請

 元はフード付きローブに温度調節機能を付けていたのだが、スタイリッシュでカッコイイ感じのコートにしてくれという注文に、ミストが頭を抱えていたことを思い出したアリエス。

そんな言葉を耳聡く拾った航空第二部隊の面々から、そのことを問われたアリエスは、温度調節機能付きのフード付きローブやコートを作ったのが、自身のパーティーメンバーであることを教えた。


 それを知った彼らはポカンとした顔をして、「ならば、何故それを着て飛ばなかったのですか……?」と、ごもっとも!なことを言った。

それを受けてアリエスは、バツの悪そうな顔をしてポリポリとほっぺをかいて「うっかりしてたんだよ。ちょっとそこまでフラっと散歩に行く感じだったから……」と、目を逸らしたのだった。


 何ともほのぼのした雰囲気をしていたそこへ、凄まじい勢いで迫ってくるものに気付いた航空第二部隊の面々は、アリエスを守るようにして展開した。

その状況にアリエスは何が起きたのか分からずキョトンとしたままだったのだが、迫り来るものが何か分かった彼女は「あ、大丈夫、大丈夫。身内だから心配いらないぞ」と、彼らに声を掛けた。


 勢いを落として近付いてきたのは、言わずもがなアマデオ兄貴に騎乗したロッシュである。

彼はアリエスを守るようにして展開している航空第二部隊の面々を見て満足そうに頷くと、アマデオから降りて、「ご無事で何よりでございます。領空侵犯のことをお伝えし忘れており、申し訳ございませんでした」と、アリエスに謝罪した。


 アリエスは「いいって。勝手に飛んでった私が悪いんだし」と笑い、彼らが着ているコートが温度調節機能付きであることを楽しそうにロッシュに話した。

その様子から彼らの態度に問題はなかったのだろうと判断したロッシュは、このまま航行許可の申請をしに行くかアリエスに尋ねた。


 「んー、そうだな。また飛ぶかは分からないけど、申請しておけば、いつでも飛べるしな」

「では、参りましょうか」


 航空第二部隊の面々は持ち場に戻るということで去って行き、アリエスは仔猫サイズになったベアトリクスを懐に入れ、出会った頃のチビサイズに戻ったファングを頭に乗せて、ロッシュと共にアマデオに騎乗し、航空部隊の詰所まで爆走した。

今すぐ飛びたいわけでもないし、叔父さん王弟殿下のことだからすぐに許可してくれるだろうと、領主邸ではなく航空部隊のところへ行くことにしたのだ。さすがに外患誘致をやらかしていた領内のことで忙しいだろうからと、領主邸へ突撃訪問をするのを止めたアリーたんであった。


 航空部隊の詰所まで行くと、何やら人だかりが出来ていた。

それを見たアリエスは、「もしかして私が許可なく飛んでたことで、問題にでもなったのかな?」と思い、そこへ近付いてみたところ、幼女が涙ながらに王弟である叔父さんにすがりつこうとしているのを近衛騎士たちが阻んでいた。


 「叔父さん、修羅場か?」

「は?あ、アリエス嬢か。いや、修羅場って何だい?私に幼女を愛でる趣味はないよ」

「そうなのか。んで、何の騒ぎなの?」

「この子が亡くなった私の婚約者だった女性の生まれ変わりだと言うのだよ。あ、そうだ!アリエス嬢ならば分かるのではないかな?王弟として命ずる、この者の素性を明かせ」

「はーい。んじゃ、えーと、はい、終了。前世なんぞ全く覚えてないね。前世持ちを見たことあるから断言できるよ」

「ありがとう、アリエス嬢。では、この者たちを王族を謀った罪にて投獄せよ!!」


 王弟の命令に即座に幼女とその子を連れて来ていた父親らしき人物が捕縛され、連行されていったのを見送ったアリエスは、とある人物が目に入った。

その人物は、近衛騎士とは少し違う制服を着た少年で、連行される様を苦々しく見つめていたのだ。


 アリエスが彼を見ていたことに気付いた王弟は、「彼は、史上最年少とまではいかないが、それくらいの早さで近衛騎士となるだろうと言われているんだよ。今はまだ見習いだけどね」と、ウインクした。

王弟にウインクされても頬を染めるでもなく無反応なアリエスに彼は、「さすが兄上お気に入りの子だね。この顔が一気に無価値になる。まあ、そこまで美形だとは思っていないけど」と、楽しそうに笑ったのだった。


 王弟が航空部隊の詰所にいたのは、無許可での飛行が確認されたためだった。

何かあったときのためにすぐ動けるよう詰所まで来ていたのだが、飛んでいたのがアリエスだと判明したことで、それならば問題はないと、航空部隊の厳戒態勢を解除した。


 「まったく……。こっちは無許可の飛行が確認されたと厳戒態勢を敷いているのに、いきなり元婚約者の生まれ変わりだと名乗り出て来たんだよ。しかも、今ので3件目だからね?」

「マジかよ。懲りねぇな」

「まあ、亡くなった婚約者が『生まれ変わって必ずあなたの元へ参ります』なんて言っていたのが知られてしまったからなんだけどね」

「叔父さんは、その人のこと待ってるのか?」

「うん……、待ってるよ」


 約束したからね、と笑う王弟の顔は、恋しい者を待ちわびる憂いを帯びていた。

 

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