閑話 プロメッサ侯爵家とシルトクレーテ伯爵家
プロメッサ侯爵家の正当な血筋を引いていた前シルトクレーテ伯爵夫人には、死産ではあったが男の子が一人いた、ということは近しい貴族ならば知っていた。
しかし、その死産であったとされる男の子が実は生きていたどころか、シルトクレーテ伯爵家当主のアルトゥールまでもが前シルトクレーテ伯爵夫人の子供であったことが公表された。
アルトゥールが生まれた頃には既に夫人が亡くなったとされていたので、彼は妾か愛人の子だと思われていたのだが、見た目が当主であった父親に瓜二つであったため、血筋を疑われることはなかった。
この公表には、何故アルトゥールが前シルトクレーテ伯爵夫人の子であることを伏せたのか、姦通罪で処刑されたクレーレのことと合わせて伝えられた。
トムの名は、プロメッサ侯爵家当主代理となることが決まった時点で里親がつけた「トム」2文字のままというわけにはいかず、実の両親がつけた「ジークムント」を名乗ることになった。
死産として届けられていたジークムントが生きていたのだからと、貴族籍が復活しただけなのだが、それに伴って平民籍だった妻ヴィオラも宰相の養女となり、名をヴィオレッタと以前の名に戻し、改めてプロメッサ侯爵家当主代理となったトムことジークムントへと嫁いでいる。
その際に、二人の間にできた息子ラトの名も貴族らしい名前、ランプレヒトに変更された。
そして、プロメッサ侯爵家が精霊テッテレモートと契約していることを知っている者はそこそこいたため、この機会に何故プロメッサ侯爵家が契約しているのかも公表された。
時代とともに継承が上手く行なわれず、封印が正常に機能していなかったことで、未曾有の危機に陥るところだったのを前シルトクレーテ伯爵夫人が産んだ、死産だとされていた
しかし、正当な血筋を持っているといっても、その
だが、
妻のヴィオラは後宮にいた頃に人脈を築いていたこともあり、平民となったあと、実家が粛清にあうまでは文のやり取りをして繋がりを切らさないようにしていた。
その伝手をプロメッサ侯爵家当主代理夫人になったときに存分に活かしたこともあって、すぐさま社交界へと返り咲いた。
そんな輝きオーラ全開のヴィオラが眩しく、そして頼りになったことで惚れ直したトムは更に妻を愛し、それによって更にヴィオラは美しく華やかになったのだが、彼女が夫以外の男に目移りすることはなかった。
人生のドン底で受け止めて不器用ながらも愛し、食事を作って養ってくれた夫に感謝と愛と人生を捧げることを誓っているからである。
精霊テッテレモートを正しく封印出来たことで、大地を繁栄させていた力も当初と同じほどになったため、プロメッサ侯爵領とその周辺では今後の収穫量に期待が持てるようになるだろう。
痩せた土地というわけではなかったが、それほど豊富な収穫量ではなかったため、成功し栄えている領地を羨む者が多かったのだが、これによってその不満は解消されることになった。
ベネディクトには、プロメッサ侯爵家子息として育ってきた過去があるため、領内ことから親戚やその他のこと、プロメッサ侯爵家に関わることならば片っ端から頭に詰め込まれているので、そばに置いておけば助かることは間違いなかった。
ベネディクトは、ぽやぽや人であるため自身が元はプロメッサ侯爵家子息であったことに何の未練もなく、楽しそうにジークムントのお世話をしている。
その甲斐甲斐しく世話をする様子に、たまに妻の
ジークムントが平民であったことから、貴族文字が読めない可能性の方が高いだろうと、プロメッサ侯爵家の家臣たちは「全力でお支えするぞ!」と意気込んでいた。
中にはそれに乗じて甘い汁をすすろうとしていた者もいたのだが、ジークムントはウェルリアムから輝く笑顔で知識を詰め込まれたため、仕事に関して何も分からずサッパリとはならなかった。
そのことで目論見が外れて去っていく者がいるのを見たプロメッサ侯爵家の家令は、「頼もしいですねぇ」と、いい笑顔だった。
侯爵家当主代理とは、貴族としての権利が正当な当主ほどないというだけで、仕事量はほとんど変わらないのである。
ジークムントからすれば顔も知らない実の母親の実家というだけだったのだが、自分が継がないと大変なことになるというのは、ロッシュたちから聞かされていたため、頑張っているのだ。上が無能だと下が迷惑を
ジークムントを亡きものにしようとしていたリヴィアナの実家である分家は、
さすがにリヴィアナのやらかしは、家を取り潰さないとならないほどのことなのだが、血筋を絶やさないための保険が必要なための措置だった。
というのも、リヴィアナ以外の面々はとてもマトモな人たちで、巻き添えを食らったようなものだからである。
周囲が幼い頃から言い聞かせてきたのだが、全く聞く耳を持たず、プロメッサ侯爵家の邸にいつか住めることを夢想してばかりいた、痛い子でしかなかったのだ。
分家を継いだのはリヴィアナの弟で、彼の息子はシルトクレーテ伯爵家当主の三女より一つ歳上であっため、二人は今のところ義兄妹となっているが、三女が成人した時点で彼女の戸籍をシルトクレーテ伯爵家へと戻しての婚姻となる。
今は戸籍をプロメッサ侯爵家分家へと移しただけなので、三女はシルトクレーテ伯爵家にて生活をしており、プロメッサ侯爵家分家の息子とは婚約者として交流を深めることになっている。
ジークムントを捜していた自称妹のジェンマは、若様の命を危険に晒したとして、両親から勘当されてしまった。
アリエスが機転をきかせてミロワールを身代わりにして連れて行ってはいるが、ジークムント本人がそこにいた場合は「あぁーあ」なんて言っていないで防御しただろう。
しかし、シルトクレーテ伯爵家の家臣だったジェンマの両親は、若様の命を危険に晒したのが自分たちの娘であったことにハラキリ覚悟な勢いであった。結果的に無事だったことなど関係ねぇのである。あるじ命!な忠義の家臣なのだ。それが娘の勘当で済ませたのは、シルトクレーテ伯爵家当主が「穏便に済ませよ」と恩情をかけたからである。
穏便にという恩情で勘当。
そのことに一番驚いたのはシルトクレーテ伯爵家当主で、「ちょっと待て穏便の意味を知っているか!?」とジェンマを保護しようとしたが、既に定食屋で給仕の仕事に就いており、元気にしていた。
胸を撫で下ろしたシルトクレーテ伯爵家当主であったが、ジェンマがその定食屋の店主と結婚したことを知って、更に驚くのはもう少し後の話である。
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