第六話 シルトクレーテ伯爵家にて
ベネディクトから、襲撃者を寄越した犯人が分家の娘であるリヴィアナの可能性があると聞き、その後、シルトクレーテ伯爵家へと引き渡された襲撃者から情報を得たウェルリアムからも、トムの殺害を依頼してきたのは、リヴィアナという名の女性だったという報告があった。
侯爵家の当主候補の殺害依頼とあって、襲撃者は依頼してきた人物の素性を調べており、万が一失敗したときに備えていたのだ。
そのことから即座に分家へと兵が差し向けられ、リヴィアナの身柄が拘束された。
精霊テッテレモートを封印するためのものを守護神が用意し、それを当時のハルルエスタート王国国王から下賜されたのがプロメッサ侯爵家の始まりであり、その封印を施せる当主候補トムの殺害は、国家反逆罪や内乱罪に相当すると判断された結果、国が動くことになった。
プロメッサ侯爵家の兵によって拘束されたリヴィアナは、速やかに国へと引き渡され尋問が行なわれた結果、トムの殺害を依頼したと認めた。
トムがいなくなればプロメッサ侯爵家の血筋は自分の家が優勢だと思い、行動に移したと語った彼女に、シルトクレーテ伯爵家当主の母親が亡きプロメッサ侯爵家令嬢であると教えたところ、絶望したように崩れ落ちたのだった。
シルトクレーテ伯爵家当主の母親が誰なのかを伏せていたのは、クレーレがいたからであって、彼女が処刑された今、隠す必要はなくなったのである。
というような報告をもっちもっちとお茶菓子を食べながらしてくれたウェルリアムの顔は、内容の割に
「だらしねぇ顔してんなぁ」
「へ?ええ?そうですか?そんなことはないと思うのですが……」
「いいことありましたってのが丸わかりだぞ?しかも女関係だろ?」
「あははは、いやぁー、藪の中ダンジョンが一般に開かれたのですが、僕たちがゲットしたほどの成果がなかなか出ないようなんですよ」
「ああ、それでリムの婚約者がえらくご機嫌ってわけか。私の幸運Lv8の効果で、いいもん出る確率が高いからな」
「そういうことです。この世界にはグリッター系のキラキラした化粧品って、ありませんでしたからね。大喜びです」
「この世界に
「アリエスさん、ウンモって何ですか?」
「確かキラキラの原料だよ」
似たような宝石や鉱石があるのだから
それを見てウェルリアムは、苦笑しながら「大変でしょうが、頑張りましょうね」と慰め、教育スキルを使ってトムに知識を詰め込んでいった。鬼や。
領内に影響が出てしまっていたため、急ぎでプロメッサ侯爵家へと向かっただけで、トムたちは身辺の整理をしに住んでいた家へと一旦帰らなければならず、精霊テッテレモートを封印した翌日に彼らが住んでいる街へと出発したのだ。
トムたちが住んでいる街へと辿り着いたその日のうちに、彼らが住んでいた借家の契約を解除、近所への挨拶を済ませ、アリエスのディメンションルームへと彼らを放り込んで、ウェルリアムの転移によってシルトクレーテ伯爵領にある領主邸へと運ばれ、今はトムの強化合宿中である。
同母弟であるシルトクレーテ伯爵家当主とのご対面は、トムはおっかなびっくりといった感じであったが、弟であるアルトゥールはトムを見て「母上……」と涙を滲ませていた。
彼らの母親は、中性的で男性物が似合うような見た目だったのだが、中身は繊細でとても優しく、可愛いものが大好きな人であった。
トムが女性だったらこんな感じだろうな、という見た目をしていたので、シルトクレーテ伯爵家当主でもあり弟のアルトゥールが母を重ねて涙するのも仕方がないのである。
遠慮がちにチラチラと「兄上……、ドレスを着てくれたりは……?」とマザコン発言をカマされたトムの顔が引きつってしまったのは、仕方がないことだった。
そんなトムは現在、シルトクレーテ伯爵家の邸にて勉強をしながら、邸の人たちとの親交を深めていた。
本来ならばお世話できたはずの待望の長男であったトムを構いたいと、引退したお年寄りたちが邸へと詰めかけているのだが、領内にダンジョンが見つかったことで人手は多いに越したことはないと、大歓迎であった。
トムの妻ヴィオラも侯爵夫人となるための教育が施されることになったのだが、元が上位貴族のご令嬢で後宮入りも果たせたとあって、夫人のための教育だけで済んでいる上に彼女自身のスペックがそれなりにあったため順調に進んでいる。
ヴィオラの教育を務めてくれているのは、王家から派遣された専門教師で、これは、教える夫人がいないのならばとしゃしゃり出てきて間違ったことを教えて恥をかかせたり、意のままに操ったりさせないための措置である。
しかし、王家から派遣される専門教師は基本的なことまでしか教えられないため、基礎が終わったあとは、ヴィオラ自身が手探りでプロメッサ侯爵家を盛り立てて守っていくしかない。
貴族といってもその家それぞれに特徴があり、やり方もあるからだ。
トムが当主ではなく当主代理なので、夫人としてはそれほど大変ではないだろうが、息子が跡を継いで王家に認められた当主となったとき、そのとき息子の嫁にプロメッサ侯爵家としての夫人教育を施さなければならないため、ヴィオラは夫のトムよりも学ぶことが多く忙しいのだ。
そのため机に突っ伏したトムは、「俺の
トムよ、起きろ。後ろに鬼がいるぞ。金棒の代わりにペンを持った輝く笑顔の
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