第五話 封印っ!
アリエスから詳しい話は封印し直してからだと言われたトムは、とりあえず彼女に言われた通りに行動しようと、モグラ精霊へと近付いた。
トムを見て自身の契約者に値すると即座に判断したモグラ精霊は、「いつまで待たせるつもりだ、さっさとしないか!!」と、自分がベネディクトに構って待たせていたことを棚に上げてトムを怒鳴った。
そんな自分勝手で傲慢なモグラ精霊に「よし、迷うこたぁねぇな!」と吹っ切ったトムは、アリエスに教えられた通りにピラミッド型の土の塊に手を触れると、魔力を流し込んで言葉を放った。
「我トムは、大地を揺るがす精霊テッテレモートをここに封印し、大地のズレを緩和させ、繁栄させることを強制する!!」
「なっ!?止せっ!!やめろぉおおおおーーーーっ!!!」
「はい、終了。お疲れちゃん。行くべ、行くべ。撤収ぅ〜〜〜」
「あ、あのっ、え?アリエスさん、え、ちょ、トム様っ!?何がどうなったんでしょうか!?精霊様が消えてしまいましたよ!?」
「ベネディクト、邸に戻ったら説明するから落ち着けって、大丈夫だから、な?」
「は、はい……、わかりました」
再び馬車に乗って邸まで戻り、応接室でお茶を飲んでひと息入れたアリエス。
彼女は、モグラ精霊がベネディクトに突っかかっていて暇だったため、ずぅーーーっと万物鑑定していたのだ。
万物鑑定は、あらゆるものを詳細に知ることが出来るスキルで、最初に出てくるのは上っ面のみだが、段々と詳しい情報になっていき、最終的にはその対象の歴史が始まる。
つまり、モグラ精霊ことテッテレモートがどういった精霊で、何をして今に至ったのかも知ることが出来たのだ。
その結果アリエスは、「封印一択で」となったのである。
出された茶菓子をもっちもっちと食べたアリエスは、ひと心地ついたところで説明を始めた。
土属性の精霊には、大地のズレによる地震を被害が出ないように緩和してくれるものがいるのだが、精霊テッテレモートは、わざと大地を揺らし逃げ惑う生き物を嗤って楽しみ、それで失われる命があればあるほど喜んだ。
そこで、その地に住まう者たちは精霊テッテレモートをどうにかしようと、ハルルエスタート王国に助けを求めた。
ハルルエスタート王国へも精霊テッテレモートが起こす地震の余波は、人的被害とまではいかなくとも多少の影響はあったため、助けを求めてきた一族が国の傘下に入ることを条件に協力することとなった。
当時のハルルエスタート王国国王は、大地を揺るがす精霊ということで、討伐する前に金色の鳥居へ赴き守護神に相談したところ、精霊テッテレモートを封印するためにピラミッド型の土の塊を渡されたのだ。
それを助けを求めてきた一族へと「プロメッサ」という家名と共に下賜し、精霊テッテレモートを封印するよう命じた。
それがトムの先祖、プロメッサ侯爵家の始まりだった。
神の力とハルルエスタート王国の協力を得て、精霊テッテレモートを封印することに成功したのだが、その後、魔力過多症や魔力熱病の流行によって貴族の数が減るということが起こったため、画数の多い貴族文字を読めない者が当主となってしまった。
当主や跡取りが流行病によって亡くなったことで、封印場所に記されている文言を読めない者が当主になった上に、精霊テッテレモートがどういった経緯でこうなったのかも分からなくなったのだ。
それによって精霊テッテレモートの封印は正しく行われなくなり、緩和や繁栄を自身のさじ加減で行えるほどに緩んでしまった。
そのため、流行病の後に新たに当主となったものは、精霊テッテレモートとは封印しなければならない「悪しきもの」ではなく、領地を繁栄させてくれる「ありがたいもの」なのだと判断するに至ったのだ。
その結果、精霊テッテレモートは元来の傲慢で他者を見下す存在に戻ってしまい、先程のような態度になっていたのだと、アリエスは語った。
「えぇ……?精霊様って、そのような存在だったのですか……?そんな……」
「そういうこった。まあ、これで正しいやり方が分かったんだから、ちゃんと後世に伝えていけよ?」
「もちろんです!きちんと読める文章にして保管します」
「面白半分に封印を解いたりすれば国が黙ってねぇからな?」
「は、はいっ!!大地震が起きる可能性があるのですから、そのようなことにはならないよう、皆と協力していきます!」
「よし!んで、次は襲撃者に関してだな」
「襲撃者……ですか?」
こてんっと首を傾げたベネディクトに「30過ぎっつーか、40前後だろうにカワイイやっちゃなぁー」と内心でつぶやいたアリエスは、説明をロッシュに投げた。
精霊テッテレモートのことを説明して疲れたのだ。
アリエスがお茶とお菓子をおかわりして
難しい顔をしたベネディクトは、「領内に影響が出ているので、困っていたのですよ。それをどうにか出来る人物が見つかって喜ぶことはあっても……。何で襲ったりなんか……」と、うんうんと唸っていたかと思えばハッとして顔を上げた。
「リヴィアナ!幼い頃に彼女が言っていたことがあるんです!本来ならばこの邸には自分が住めるはずだったのに、と」
「それ、どこの誰なんだ?」
「リヴィアナは分家の娘で、父上の兄の娘です」
ベネディクトは、リヴィアナは頻繁にこの邸を訪ねて来ており、この邸に自身の部屋を強請ったこともあったのだとか。
しかし、それをクレーレが許さず、訪ねて来ても客間を用意されていたのだが、そのことについては、リヴィアナの父親もベネディクトが父と呼ぶ亡くなった先代当主も「分家としての立場を
いくら血筋を残すために本家から分家へと婿養子や嫁を出していても、分家は分家でしかないのだ。
しかし、亡くなった先代プロメッサ侯爵家当主は、分家から婿養子として入ったため、リヴィアナは自身の父親が本家の当主になっていてもおかしくはなかったと思っていた。
ましてや分家から婿を取るということで、兄弟どちらかを選ぶときに、クレーレが気に入った方を選んだのだから、余計にそういう思いが強くなっていったのだ。
そんな経緯があったためベネディクトは、リヴィアナから目の敵にされており、それに気付いた本家の者たちは彼女を自分に関わらせないようにしてくれていたので、忘れていたと彼は語った。
リヴィアナを血の繋がった従兄妹だと認識していただろうに、それを忘れていたというベネディクト。
そんな彼をアリエスは、「天然って怖ぇなー」と思ったのだった。
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