第四話 精霊との……契約?
助命嘆願によって生かされたベネディクトが今は何をしているかというと、当主としての教育を受けていたので、家令と共に領内のことで走り回っていた。
代々この侯爵家に受け継がれてきた精霊が「さっさと契約できる血族を連れてこないと暴れる」と宣言している通り、その精霊が不機嫌になっている影響が領内に現れ始めていたのだ。
だが、それを収拾させようにも侯爵家の血が入っていないどころか、母親が姦通罪によって処刑されたベネディクトには何の権限もないため、家令の養子となることで動いていた。
「家令の養子になったけど、彼には優秀な跡取りがいるからね。僕が家令になることはないし、正当な跡取り、トム様の助けになれればと思って動いていたんです」
「トムは学園を出てないから当主代理にしかなれねぇからな。支えてやってほしい」
「もちろんです!あ、でも……、その、大変申し上げ難いのですが、奥方様についてご相談したいことがございまして」
「それなら心配いらねぇと思うぞ?トムの嫁さん、後宮にいた人だってよ」
「えっ!?こ、後宮に……、ですか?」
アリエスは詳しいことは分からないので、ロッシュに丸投げして説明してもらった。
トムの妻ヴィオラが後宮に入れたほど優秀であったこと、彼女の実家が祖父のやらかしで取り潰しにあったが、父親は平民の文官として城務めをしていることを語った。
それを聞いたベネディクトはホッとしたように表情を緩め、「よかった……。社交が出来る女性を政略として迎え入れることをお願いしなければならないと、心苦しく思っていたのです」と、肩の力を抜いたのだった。
領内に影響が出ているのならば行動は早い方が良いだろうと、話もそこそこに精霊がいるという邸の奥にある庭までやって来た。
侯爵家ともなると敷地はかなり広く、庭へ行くのに馬車に乗るほどであったためアリエスは、「庭に行くのに馬車に乗るって、やっぱ貴族ってめんどくせぇな」と思っていた。
冒険者であるアリエスならば大した距離ではないが、普通の貴族、ましてや女性ならば半分もいかないうちに行き倒れる距離である。
精霊がいるという場所には3m四方くらいのピラミッド型に固められた土があり、そのてっぺんにはどう見てもモグラにしか見えないものがふんぞり返っていた。
「遅い遅い遅いっ!!まったく何をしていればこれほど遅くなるのだ!!」
「もっ、申し訳ございません!精霊様っ!!」
「これほどまでに蔑ろにされたのは初めてだっ!!どうやら本気で暴れてほしかったようだな!?」
モグラに見えた物体がベネディクトとのやり取りで精霊だと分かったアリエスであったが、かなりの上から目線で強気な精霊に、ちょこっとイラっとしたため万物鑑定してやった。
鑑定した結果、序列でいえばアマデオ兄貴よりもうんと下だったのだが、あることを疑問に思ったアリエスはロッシュに聞いてみた。
「なぁ、アマデオより序列が下なのに喋れんのな」
「アマデオも喋ることは出来ますよ。ただ、アマデオの場合は馬であることに誇りを持っておりますからね」
「なるほど。いや、馬は裂きイカ食ったりワイン飲んだりしなくね?」
「それはそれ、なのでございましょう」
馬は人の言葉を話したりはしないから、という理由でアマデオは喋らないのだが、馬が食べないものでも食べるのは、そこは精霊だからなのだろうというのがロッシュの見解であった。
しかし、ここでアリエスは思いもよらない言葉を解き放った。
「トム、さっさと封印して来い」
「は?封印?」
「おう。鑑定してみたら、あのピラミッドって言っても分からんか。あの三角の塊な。あれ、ふんぞり返ってる精霊を封印してるやつなんだってよ」
「……はい?ちょっと待ってくれアリエスさん。契約って封印のことなのか?」
「みてぇだな。だから、血族とか属性能力の高さとかがいったんだろ。あと、成人してることも関係あるんじゃね?」
モグラ精霊はベネディクトに意識がいっており、アリエスの話が耳に入っていなかった。
聞こえていれば即座に無理矢理にでも逃げ出したことだろう。
契約という名の封印を施していた侯爵家当主が亡くなり、徐々にその封印が緩み、今ならば多少は力を削がれることにはなっただろうが逃げられたのだ。
かつて好き勝手に暴れて地震を起こしていたモグラ精霊は、この地に住まう一族と神によって封印されることになった。
しかし、失われた命のことを思えば、ただ封印するだけでは気持ちが収まらなかった彼らは「一族の長とのみ契約し、その力を土地の繁栄に使うこと。そうすれば多少の自由は許可してやる」と言ったのだが、油断させるためにそう言っただけで、実際は自由なんぞ一切やらなかった。
そうして、このピラミッド型の場所に土地を繁栄させるためだけに封じられたモグラ精霊だが、長い時が経ち、今では「契約することで土地を繁栄させてやっているのだから、
可哀想だからといってこの精霊を解き放てば、また好き勝手に地震を起こし、その結果再び数多の命が失われることになるので、解放することはオススメしない。
ということで、構わずにさっさと封印すると良いぞ、トムよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます