第二話 捜していたのは
トムの母親が既に亡くなっているところまで話した老人は、膝の上で握りしめた拳を震わせているところを見るに、彼もクレーレに対する憎悪を抱えた一人なのだろう。
「伯爵家を継いでんのがトムの同母弟なら、トムを捜してんのは何でなんだ?」
「若様を捜しているのは、奥様のご実家である侯爵家なのでございます」
「あ、もしかして、跡取りいなくなった?」
「左様でございます」
苦虫を噛み潰したよう顔をした老人が語ったのは、やはり愛人の子は所詮、愛人の子でしかなかったということで、クレーレは、侯爵家当主の子ではなかったのだ。
しかし、そうだったとしても問題がないように分家から婿を取っていたのだが、クレーレが産んだ子はその婿入りした夫の子ではなかったことが判明した。
そこで侯爵家では属性能力の高そうな人物を血族から養子に取ろうとしたのだが、侯爵家当主となれるほどの能力を持った人物がおらず、そこへ死産だとされていた先代シルトクレーテ伯爵夫人が産んだ子、つまりトムが生きている情報を掴んだのだ。
しかし、既に冒険者となって久しく、生きているかも分からなかったが、それに縋るしかなかった侯爵家は、トムの妹とされているジェンマに接触し、「本来ならば養子に出されたお兄さんにも、その財産を受け取る権利があるのでは?」と、トムを捜させた。
そこまで聞いたアリエスは、「侯爵家って、血族じゃねぇと何か問題あんのか?」と、首を傾げたのだが、その侯爵家には代々受け継がれる精霊がいる。
それは、その侯爵家の血を持つ当主に受け継がれるのだが、属性能力が低いと精霊はそっぽを向くのだ。
養女となったクレーレが契約できなかったのは、属性能力が足りなかったからだとされたのだが、当主の子ではなかったのだから、契約できなくて当然であった。
しかし、クレーレが契約できずとも彼女のもとへ婿入りした人物は、その侯爵家の分家から来ていた上に、属性能力も足りていたので問題なく契約できたのだが、問題はその婿入した人物が亡くなった後に起きた。
母親が先代当主の娘で、父親が分家から婿入りした人物だと信じて疑わなかったクレーレの息子は、父親が亡くなった後「さあ、次は自分の番だ」と、意気揚々と契約しようとしたら、精霊に凄い形相で「当主を連れて来い!!契約は血族しか認めぬっ!!」と言って叫ばれた。
そのときになって初めて、クレーレが産んだ侯爵家の一人息子が当主の子供ではない上に、クレーレも侯爵家の娘ではないことが判明したのだ。
そのため契約が切れた精霊は、このまま当主不在が続けば暴れると宣言したため、侯爵家は血眼になって跡取りとなれる人物を捜していたということだった。
「あれ?じゃあ、トムを始末したって当主にはなれねぇじゃん。ていうか、誰の仕業なんだろ?そのクレー
「精霊の契約と当主になることを分けてしまえば、どうにでもなると思ったのでしょうが、陛下はお認めになられないかと存じます。この場合ですと、跡取りとされていたご子息か分家が怪しいでしょうか?」
ロッシュに水を向けられた老人は、「ご子息ではないかと存じます。少々、浅慮なところはあるが、当主となるために真面目に頑張っておられたという話も耳にしましたので……」と、犯人はクレーレの息子ではないだろうと否定した。
では、犯人は分家の人間なのだろうかとアリエスは首を傾げたのだが、「そういえば……」と、何故ここへシルトクレーテ伯爵家の元家令が踏み込んできたのか、まだ聞いていなかったことを思い出した。
「わたくしめがここへ駆けつけたのは、侯爵家の家令から
シルトクレーテ伯爵家当主は、領内に魔物が年々増えていっており、人員や予算を割ける状態ではなく、侯爵家へはあまり期待しないでほしいという返答をしたのだが、それは母を死に追いやった原因を作った家など潰れてしまえばいいという思いもあったからだろう。
冒険者となって自由に生きているならば良いが、トムを見つけて亡きものにしようとする者がいないとも限らなかったため、シルトクレーテ伯爵家当主は引退した元家令を呼び出して事情を話し、
だが、
アリーたんに頼られてニコニコなロッシュは、シルトクレーテ伯爵家当主の兄であるトムが、養子に出された先、つまり生まれ育った農村へと妻子を連れて里帰りしていたこと、そこへ依頼を受けたアリエスたちがたまたま訪ねて行ったこと、依頼主の話やトムの話から何かあるのではないかと疑い、召喚獣にトムのフリをさせて今回の顔合わせに挑んだことを老人に語った。
「ではっ……!若様は……っ、若様は、生きておられるのですね!?」
「ええ、生きておられますよ。冒険者を引退され、その際に今の奥様と運命的な出会いをなさり、結婚して男の子をもうけております」
「おお……、おぉ……っ、神よっ、神よ……、感謝いたします」
膝をつき神に祈りを捧げる老人に「機転をきかせたアリエス様にも感謝してよね」と、ミロワールがにこやかな声を掛けたのだが、アリエスから「ミロワール、空気読め」と頭をポンポンされたのだった。
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