第四話 藪の中
脱力しまくりのカボチャ色のトムは、憔悴している妻を子供ごと抱きかかえ、「詳しい話は移動しながらでも良いか?今日は里帰りを終えて住んでいる街へと帰る予定だったんだ」と、アリエスに尋ねた。
「私はそれでも構わねぇけど……、奥さん抱えてどこまで歩くんだ?」
「隣村までだ。そこから更に隣の町へと行く乗り合い馬車が出てるからな」
「へぇー。隣村まで奥さん抱えてくのか?」
「おぅよ。いくら歳で冒険者を引退したって、そのくらいのことはやれるぞ!と言いたいところだが、それじゃあ戦闘は出来ねぇからな。隣村まで甥っ子が護衛について来てくれることになってる」
「そりゃ心強いな」
村の出入口へと行くと青年がこちらへ手を振りながら近付いてきて、「何かあったのか?」とトムの妻を横目に心配そうな顔をした。
それに気付いたトムの妻は「自分で歩くわ……」と言ったのだが、夫はそれを良しとせず抱えた腕を外さなかった。
トムは甥っ子に、妻が自分と結婚する前に産んだ娘が亡くなったことを話し、アリエスたちは冒険者ギルドで依頼を受けてここに来ているのだと伝えた。
「ああ、あの女の人……、まだ伯父さんのこと捜してたのか。伯父さんが訪ねてきたら伝えておくと言って帰ってもらったって母さんが言ってたけどさぁ。今まで顔も見に来なかったくせに、何だって急に捜し出したんだろ?」
「依頼を受けたアリエスさんが言うには『財産を分けるため』という話らしいんだが……、本当にそんな理由なのか疑わしいもんだ」
「貰えるもんがあるなら、貰っておけばいいじゃん。そしたら奥さんにも楽させてやれんじゃねぇ?子供だっているんだし」
「そうそうウマイ話が転がってたりは、しねぇんだよ。お前も気をつけろよ?」
「へいへい、分かってるって。『オイシイ話には裏がある』だろ?」
ちなみにこの二人が会話をしながら歩いている周囲では、パーティー"ギベオン"がウロウロしている。
ルナールが契約している精霊が散開して警戒にあたってくれており、もちろんハインリッヒたちも警戒はしているが、この周辺で出る魔物に
ということで、ブラッディ・ライアンを抱っこしたミスト、コメットを肩に座らせたスクアーロ、キートを肩車したゾラが並んで歩き、その前をクララとミロワール、ビーネ、カルラが歩いている。
休日の行楽地のような雰囲気であるが、普通に魔物が出る田舎道であり、それぞれが鎧を着込んで武器を持っていたりする。
せっかくだからと、ディメンションルームにいるメンバーも連れて来ており、ジャオも尻尾をゆさゆさと振りながらお散歩し、その背にはカミロが柔らかい風に吹かれながら寝ている。非戦闘員とはいえ気を抜き過ぎである。
サスケを頭に乗せたベアトリクスの背にはクイユとクリステールが二人乗りをしているが、クリステールは周囲を警戒しているため今は二人の間に甘い雰囲気はない。
そういう公私を分けるクリステールの真剣な横顔に、クイユはまたしても惚れ直すのであった。
そして、テレーゼはというと、普段からディメンションルーム内で一緒に行動することが多くなったフリードリヒに「疲れてないか?足は痛くないか?靴擦れになっていないか?」などと心配され、甲斐甲斐しく世話をやかれている。
いつもなら世話をやく側であるテレーゼは、そのことに少々戸惑いつつも照れているが、そんな二人の間に横たわる感情は恋愛ではない模様。
ならば、何なのかといえば、フリードリヒの顔はアリーたんを見つめるハインリッヒおじちゃんと同じである。つまり、親父の顔である。
アリエスはというと、何かを見つけては藪の中へと入って遊んでおり、行動が完全に小学校低学年以下の少年なため、虫取り網が似合いそうである。
それを微笑ましく見つめるアマデオに騎乗したロッシュは、誰が見ても彼女の祖父にしか見えない。
ルシオとグレーテルはダームと話しながら歩いていた。
グレーテルはダームを弟子として指導しているため、何かと相談に乗っており、その流れで皆の兄貴ルシオも話を聞いてあげているのだ。
そんなこんなで、かなりの大所帯でゾロゾロと田舎道を歩いているのだが、途中でアリエスがイタズラを思いついた悪ガキのような顔をして藪から出てきた。
その様子に周囲を精霊と共に警戒していたルナールは「ちょっと?何を企んでいるのかしら?」と、顔を引きつらせたのだが、そんなことお構い無しなアリエスは「んふふっ」とルナールに笑うとロッシュのもとへと駆け寄った。
楽しそうな様子で駆け寄ってきた孫娘に相好を崩したロッシュは、自身の前へとアリエスを乗せ「何かございましたか?」と、尋ねた。
それに対して彼女はニタっと笑ってロッシュを見上げると、内緒話をするようにして顔を寄せた。
「あのな、ダンジョン見つけたっ♪」
「おや?そうでございましたか。そのような報告はされていなかったと存じますが、はて?いつからあったのでしょうねぇ」
「それがさ、入り口が塞がれてたみたいなんだよ」
「この近辺に衰退したダンジョンがあるという話は聞いておりませんから、新しいものということなのでしょうか。誰も気付いていないというのは、少々問題がございますね」
「隠蔽されてたから気付かなかったんじゃないか?でも、これで魔物が増えた原因は分かったな。トム捜しの依頼受けて良かったな!」
藪の中へと入っては面白いものがないか鑑定していたアリーたんは、隠蔽されている場所を見つけた。
そこを詳しく鑑定してみたところ、「封印されたダンジョンの入り口」とあったのだ。
ダンジョンが衰退すると中のモンスターが減っていき、それを消滅の
中にいれば崩壊や消滅に巻き込まれるため、モンスターがほぼ出現しなくなったダンジョンの入り口は、封印されることが多いのだ。
しかし、アリエスが見つけたのは、衰退し始めたダンジョンではなく、出来たところのダンジョンである。
このまま入り口を封印し続けて誰もモンスター討伐をしなければ、確実にモンスターの氾濫が起きていたことだろう。
氾濫を意図的に起こして、それを理由に帝国は元カンムッシェル辺境伯を通して武力介入をするつもりでいたのだが、この件に関わっていた者たちは皆、既に帝国へ戻っているか、発覚を恐れて始末されているため、今の今まで誰にも気付かれることはなかった。
しかも、この周辺の異常を調べていてのは元カンムッシェル辺境伯の息が掛かった者たちであったことも発覚が遅れた原因であった。
だが、そんなことはアリーたんにかかれば関係ねぇのである。
哀れや帝国よ。
またしてもアリーたんによって計画を阻まれてしまった。
これにて大人しくしていれば良いが、過ぎた野心は身を滅ぼすことになると、いい加減に気付いてほしいものである。
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