第二話 次の目的
黄金の芝を探しに出るといっても、アリエスが向かうのは自身が行きたい場所である。
だが、切羽詰まってアホなことを仕出かすようなヤツがいないとも限らないということで、彼女はロッシュに「何かないか赴くリスト」という何とも言えないものを作ってもらい、そのリストから気分で行き先を決めることにした。
王都から北西方面、ルミナージュ連合国がある東方面は、ウェルリアムの転移リストにもあるため、行きたくなれば彼に転移で飛ばしてもらえば良いとし、ならばルシオとグレーテルの結婚報告を兼ねて南へ行くか、となった。
南方面にも赴くリストに記載された領地があるため、先にそこへ寄ってからグレーテルたちの実家へ行くことになるが、ルシオとグレーテルは気にしていない。
グレーテルに至っては、お金のためとはいえ一度嫁いだあとに未亡人になってしまったので、再婚である。
そのため、わざわざ両親に挨拶に行くのはちょっと恥ずかしいと、なるべく実家へ行く日が延びれば良いとさえ思っている。
ルシオの家族は、兄弟の居場所は把握しているが、父親の顔は
母親とは兄弟を連れて独り立ちしてから会っていないが、おそらくここにいるだろうな、という目星はついているため、機会があれば行くつもりである。
ハルルエスタート王国の南端、カンムッシェル辺境伯領は王家直轄領となったことで、現在は王弟が治めており、そこよりも少し手前の東寄りにあるシルトクレーテ伯爵領へと、アリエスたちは向かった。
シルトクレーテ伯爵は、元カンムッシェル辺境伯から武力支援を受けていた形跡があったことで、未だに王家が監視を続けているのだが、どうやら魔物の数が年々増えていっており、そのため武力支援を受けていたのだろうということで、監視されるだけに留まっている。
しかし、原因もなく増えるとは思えず、何度か調査が行われたのだが、結局有力な手がかりは得られなかったため、増えた魔物を討伐するしか手立てがない状態なのだ。
そのため、民は常に不安な気持ちを抱えながら生活し、討伐に参加している冒険者や兵士は疲弊しきっていた。
そういったことから王家へも支援を願い出ていたのだが、状況が改善されず追加の支援を要請するばかりであるため、様子見されていたのだ。
もしかしたら、元カンムッシェル辺境伯の外患誘致に便乗するために、そういう風に装っているのではないか、と。
つまり、シルトクレーテ伯爵領は、全体的にどんよりしているのだ。
原因も分からず魔物は増えるわ、武力支援をしてくれていたお隣さんは処刑されるわ、王家にも睨まれているわで、民も貴族も不安を抱えたままである。
そんなシルトクレーテ伯爵領へと足を踏み入れたアリエスたちパーティー"ギベオン"は、まずは冒険者ギルドへと向かい、依頼内容を確認したのだが、見事に魔物の討伐、増えた魔物の原因究明、回復薬の素材採取がほとんどであった。
そんな中にあって、ひとつだけ奇妙な依頼があり、その内容は「兄を捜してほしい」というものだった。
兄を捜すだけならそれほど珍しくも奇妙でもないのだが、その肝心の捜す兄という人物の特徴は分からないとあるのだ。
分かっているのは成人前の名前、髪と瞳の色、それと年齢のみで、その他は一切分からないというもので、受付で詳しく聞いてみたところ、赤子の頃に養子に出されたため色以外の特徴は分からず、名前も養子先で新たにつけているということだった。
人捜しのため報酬はそれなりにあるのだが、情報が少な過ぎるために割に合わず、誰も受けないまま放置されていると聞いたアリエスは、「金も暇もあるし、やってみっか。何か面白そうだし」と、受けてしまった。
そして、依頼主であるジェンマという女性に会いに行ったアリエスたちは、何かに引っ掛かっていた。
それが何なのか分からず話を聞き終え、「んじゃ、まあ捜してみるわ」と席を立とうとしたところでロッシュが気付き、アリエスに耳打ちした。
「耳をつまむ仕草に見覚えはございませんか?」と。
それを聞いたアリエスは徐々に目を見開いていき、その仕草をする人物に思いあたったため叫んだ。「バルトっ!!」と。
急にアリエスが叫んだため、依頼主であるジェンマは驚き椅子からずり落ちてしまった。
ずり落ちたジェンマをハインリッヒが支えて椅子に座らせるのを待ったアリエスは、「なぁ、捜してる兄貴って熊獣人じゃねぇの?」と尋ねたのだが、人間であるという答えだった上にバルトよりも歳上であった。
どうもバルトがやっていた仕草と目の前の彼女がやった仕草が似ているのだが、捜している相手が熊獣人でもなければ年齢も違うということで、バルトではないだろうと振り出しに戻ってしまった。
兄が養子に出された先にも
しかしアリエスは、その耳をつまむ仕草がどうにも引っ掛かるため、ウェルリアムに頼んで王都にいるバルトへと手紙を届けてもらったのだった。
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